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日中科学技術協力は進めることができるのか? 報告10

2021/10/10

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パネルディスカッション 第2部 

中国の研究レベル向上は交流のチャンス

永野   「日本の第6期科学技術イノベーション基本計画には、我が国がこの価値観を共有できる国、地域、国際機関等との連携を強め、国際社会における信頼の要となることを目指すと明記されています。価値観の共有できないところとは効力しないと受け取られます。その価値観の共有できないところは、中国のことを暗に指しています。現に、日本では信頼できる国々との連携を進めていくと、中国との関わり方を方向修正したり、交流にストップをかけたりしています。それでは価値観が異なると日本側が見た中国とはどうやって交流を進められますか」という質問があります。これは沖村さん、どうでしょうか。

沖村   難しい問題です。いまこういう時代ですから、冷静に対応していく必要があると思います。人の交流、基礎研究、そういうところは長期的に見ますと、中国との交流は絶対に必要であり、もっと活発にやるべきだということです。その安全保障上問題だというようなことは、冷静に、個別に議論して対応すべきだと思います。

永野   アメリカでは全米科学財団、科学アカデミーがしっかりしたレポートを出しています。日本も個人からではなく、大学なり学者のサイドから集団としての考え方が出てくれば、安全保障を考えるサイドと建設的な意見ができるのではないかと思います。今の状況は、一方的に、経済安全保障というような話ばかりがでてきます。

馬場   経済安全保障、科学技術安全保障という言い方もございますけれども、一部メディアと、それから一部の政治家の間で、かなり時代認識にそぐわない、ピントのずれた認識をしている人たちが多いしそういう報道もある。例えば、知的な流れは研究レベルだけで動いていくものであり、低いところから高いところへ流れていくのが必然です。これからは中国に多くの日本の頭脳や技術が流れていくことは、間違いないです。それは20年間の日本の低落ぶりに原因があるのであって、中国へ流れていくのは必然です。

永野   日本のほうが中国より上だとまだ思っている人がけっこういるのではないかと思います。冷静に、今日のような白川さんの統計とか、倉澤さんのような現場のお話が、あまり知られていない。

白川さんの発表では、研究者の流出は日本国内の研究環境悪化の帰結となっています。中国だけじゃなくて、ヨーロッパへも日本のすごく若い優秀な人が、どんどん出ているということを聞きます。

白川   中国との交流では、今まで政冷経熱といわれたときがありました。その当時は日本から中国に技術流出しまくっていたんじゃないのかなと思います。その時代は知財もダダ漏れだったし、ノウハウもダダ漏れだったということです。これからどうするかというと、技術に関してはアメリカににらまれたら、日本の会社はやっていけません。だから、技術流出に関しては、機微技術じゃなくても、ノウハウも含めて、技術に関してはたぶん出せないと思います。

日本の弱いAI・IoTの分野は、中国から輸入しなきゃいけない状況になっています。日中の対話は2,000年以上ずっと続いてきた国なので、技術で冷やさなきゃいけないんだったら、基礎研究寄りの科学は熱くしましょうと認識を変えていくことも大事です。冷戦時代でも科学者同士の交流というのは、デタントの第1ステップとしてやっていたので、温故知新でもう1回こっちに戻るというのが重要なんじゃないのかと思っています。

倉澤   科学と技術と分けるというのは、私もまったく、私の頭の中ではそうなっています。しかしデュアルユース(軍民両用技術)とか、あるいは経済安全保障ということに大きく網をかけてしまうことは、やっぱり日本のような、貿易を主体とした国にとっては非常に不利になるので、それを小さくしていくような外交努力が必要だと思います。

 日本は論文の数だとか、Ph.D.を取る人の数だとか、引用数だとか、確かに劣化しているのは間違いないのですが、いい科学論文とか、いい技術の芽はたくさんあるので、それをこれからどうやって生かせるか。科学技術は人類全体のものですから、それをうまく生かすようなやり方を冷静になって考えるのが日本のポジションとしてはいいのではないかと思っております。

永野   アメリカの科学アカデミーのレポートを読んでいますと、初めにオープンサイエンスは大事で、それで米国の外から多様な人が来てアメリカが発展してきたというところから始まっています。逆に日本は、多様じゃないのによくここまで発展することができたなと、言えるかもしれません。

 

 日本の政策転換が必要だ

杉田   将来に向けて、一定の共通の価値観を持って、国がお互いにある程度折り合いをつけていくということが必要でありますし、人類のためとか平和とか、共通の価値観を持つことは重要ですが、法と正義を中国に認めろと言っても、なかなか難しいかもしれません。しかし日本は、我々の過去の経験も示しつつ、中国にもう少しグローバルな流れの中に、少し戻ってくるということが大事ですよということをよく理解をしてもらうことが大事じゃないかなと思っています。そういう流れがないのが非常に日本は残念だなというふうに思っています。

 最近アメリカの30グループが、アメリカと中国との貿易摩擦をなんとか改善してほしいということを言いはじめたりしていますが、いつアメリカが大きな方向転換するかどうかわからないです。そのときに我々も間違った方向に行かないように、しっかり世界のバランスをよく見ておくということも大事でしょう。中国からの留学生や研究の方を大事にすべきだと思いますし、その中で研究インテグリティ(誠実で真摯なこと)というのはちゃんと担保しなきゃいけないと思います。

沖村   私がずっと説明してきたことで重要なことは、日本の低落、中国の急成長は、小学校教育から始まっているんです。初等教育から高等教育まで中国はものすごく金を入れてきました。中国の財政構造を見てもらうとよくわかりますが、あまりにも日本と違う。これを変えていくには、教育と科学技術について、大政策転換をやらないと追いつかないと思っています。

馬場   最後に21世紀構想研究会の今後のオンラインシンポジウムの予定を申し上げます。このシンポジウムは定期的に続けていきたいと思います。日本の科学技術力の低落ぶりは目を覆うばかりです。この20年間に日本で科学技術担当大臣はちょうど30人生まれております。ダブっている方は1人もいません。その大臣のうち一人でも存在感を表したようなコメントを発信したり、政策を立てたことがあったでしょうか。

科学技術創造立国という国是は、絵に描いた餅のような存在になっているのではないでしょうか。今後もいろいろな観点からシンポジウムを開いていきたいと思いますので、私たちと一緒に、日本と、社会を変えていくようにしていただきたいと思います。

永野   ありがとうございました。パネルディスカッションの皆様に感謝申し上げまして、今日のオンラインシンポジウムを終わらせていただきます。皆さん、ご参加どうもありがとうございました。

おわり