お知らせ

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第141回・21世紀構想研究会の報告

2018/07/03

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 第 141回研究会は、2018年6月28日(木)に開催され、パラダイムシフトに揺れる自動車産業について、井上久男先生(経済ジャーナリスト)に講演いただきました。

  井上先生のジャーナリストとして自動車産業との関わりなどの自己紹介の後、早速、自動車産業の現状認識から入ります。

  クルマは「所有することから利用すること」に価値がシフトしているとのこと。かつてクルマを所有することが豊かな生活のステータスでしたが、最近の価値観は、移動手段(利用)することにシフトしています。

  米国や中国等では配車アプリ(Uber(ウーバー)等)が生活に欠かせない状況ですし、日本でも自動車の共同利用であるカーシェアリング(短時間のレンタカー)は日々市場拡大している状況です。先生はそれらの紹介をしながらその背景にはITの活用があることに言及します。

  そしてそのITが自動車産業への脅威になっているとのこと。IT企業であるソフトバンクグループが参入し、自動運転を起点に自動車産業の切り崩しを図っている現状など、自動車メーカーが目をつけないところに、ニーズありきで入り込んでおり、自動車メーカーはうかうかしてられない状況です。

  ここで、地方の交通問題のソリューション(問題解決)の例を提示いただきました。兵庫県豊岡市のチクタクや路線バスの空席に宅配便を積み込む貨客混載などの成功例です。

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 これらの事例のように地方で起きている交通問題について、トヨタも問題意識を持ち、CSRの一環として美作市や豊田市に助成をしているそうです。もちろんこれらの社会貢献を通じて得られたビッグデータ等を活用することでAIやEVに関するノウハウを蓄積する狙いもあります。

  井上先生はここまでの説明で、自動車産業は自動車メーカーだけでなく、IT企業によって大きなパラダイムシフトが起き、新しいビジネス、技術の流れで進んでいくことを示してくれました。

  さらに先生は業界の動向を交え、現状と近い未来の課題・動向について整理しながら、スマホ化しているクルマの現状から、今のままでは日本の自動車メーカーの存続が危ういと警鐘を鳴らします。

  次に、たくさんの業界情報をお持ちの先生は、各自動車メーカーの状況にも触れました。特に印象に残ったのは、ニッサンの無資格者検査問題の背景です。制度の面でも問題があることがわかりました。他にもマツダが元気な理由など、興味深い話が満載でした。

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  最後に、激変する自動車産業の中で自動車メーカーが考えなくてはならない課題をまとめてくれました。

  ・欧米に対抗できるトータルコンセプト力の確立すること

 ・そのためには、自動車産業は戦略的な分業化を推進すること

 ・匠の力をデジタル化し、バーチャルエンジニアリングで開発スピードアップ

 ・新しい技術は、事前に標準規格を決めるデジュールスタンダード作成に参画・活用すること

 ・社内の異端児の活かし方(会社の価値観にそまってない人)

 ・社会的な価値が理解できるか、エンジニアこそビジネス感覚が重要

 ・働き方改革⇒副業は新しい視点を開発するための武器と考えて推奨する

 ・そして、これらを実行できる組織(意思決定のスピード)

  これらは自動車産業に限らず、どのような業界にも言えることなのだと理解しました。

 限られた時間の中での講演ですが、個人のエピソードも交えながら熱く語る井上先生、時間が足りませんでしたが1つだけ、質問を紹介します。

 Q:現在の日本の自動車会社はどうなっていくのか。

A:ここ10年は今のままでいくだろうが、10年後は淘汰される会社が出るだろう。

 これからはEV(電気自動車)にシフトしていくが、内燃機関(エンジン)は残る。新興国はEVのインフラ整備に時間がかかるからだ。そうなると社員の働き方が変わる。日本に内燃機関の仕事がなくても新興国にはある。

 また、トヨタは2050年にはエンジンだけのクルマはなくなると言っているが、ハイブリッド等で生き残るはずだ。

 

  内容の濃い講演の2時間は、あっという間でした。

私事ですが私も一昨年、自家用車を手放し、カーシェアリング会員になりました。駐車場代、税金、ガソリンなどの維持費と移動手段の費用対効果を考えると、カーシェアリングは合理的です。しかし、クルマには、スポーツという面があります。

操る喜び(Feel the Beat! Fun To Drive! The Power of Dreams! Be a driver!等々、ステアリングを握るとワクワクしませんか?)やレース活動です。

最近ですと、ル・マン24時間耐久レースでのトヨタの優勝、マツダのロータリーエンジン復活と、スポーツ面でも自動車メーカーの元気なニュースもありました。

今回は少ししか触れる時間がありませんでしたが、井上先生、ぜひまたスポーツ面の話も聞かせてもらえればと思います。

 今回の講義を拝聴し、これまで研究会で何度か取り上げられたシンギュラリティ(技術的特異点、2045年にはAI(人工知能)が人間を超えるという予測)は、クルマのIT化がけん引していくようにも思えました。今後、我々も自動車産業の行方を見守っていきたいと思います。

 井上先生、ありがとうございました。

(文責・21世紀構想研究会事務局・渡辺康洋)

 

井上先生のWebサイト   http://www.inoue-hisao.net/

直近の話題著書

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