岩本先生は、100回記念シンポジウムのパネリストの1人として経済関係の見解を発表していただいたが、当日は時間の制約があって十分な発言には至らなかった。このため、この日の講演で存分に語ってもらう機会とした。
講演ではまず、日銀の異次元金融緩和によって金利が低下するのかどうかを2008年からの米国10年もの金利のデータを基に解説を行った。日本の10年もの国債については1981年からの金利の推移を示し、80年代の8パーセント代から1パーセント以下に低下していった経緯を解説した。
金利急騰は4.6年に1回発生することを示しながら、過去の国際的な経済状況と連動する金利推移を解説し、日本国債の市場価格が下落することで日本経済、金融システムが破たんするというような論調は行き過ぎであると指摘した。
消費税引き上げによる景気動向でも見解を表明したが、その中で非関税障壁としの消費税の在り方の例として、消費税のないアメリカの事情を解説した。これは岩本先生の研究テーマの一つであり、これまでマスコミなどでもほとんど触れられていないテーマだけに非常に面白かった。
日本の税の配分では、うまく機能していない日本の税の仕組みを指摘したが、OECDの所得再分配後の可処分所得の各国比較を見せられると、確かに日本は分配がうまく機能していないように思えた。 税の仕組みについては、先月号の月刊「文藝春秋」でも、岩本先生は自民党野田税調会長らとの座談会で見解を語っている。
アベノミクスの総括では、3本の矢のうち第2、第3の矢はこれからの政策であり、物価上昇の目標よりも日本経済力の増強がメインとなるべきだと指摘した。成長戦略についても具体的な内容はまだ出ておらず、国土強靭化にとって日本経済の死角はエネルギー問題であるとした。
日本の強固な経済ファンダメンタルズにも言及した。支払能力の指標となる経常黒字、対外純資産、外貨準備高などは、いずれも世界のトップクラスであり、10年もの国債の利回りも世界の中で日本が最も低い事実も示した。
いま、株式市場はきわめて神経質に上下を繰り返しており、直近のトレンドは東京オリンピック招致決定もあって上昇している。しかし株価は、為替相場と連動しており、米国の大統領選と株価・為替の推移とオバマ大統領の再選後の為替政策は転換する可能性を示した。
岩本先生は、いまドル高材料になっているシェールガス革命に言及し、米国が本当に世界一の産油国になるのか、革新的技術改革が実体経済に浸透するまでのタイムラグを示しながらオイルバブルのリスク要因なども指摘した。
グローバルな経済状況を歴史的なデータを俯瞰しながら自らの見解を披歴し、現在と近未来の経済を読み解いて解説した講演であり、参加者に大きな感銘を与えた。
21世紀構想研究会事務局