お知らせ
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第109回21世紀構想研究会の報告
- 2014/04/24
第109回21世紀構想研究会は、2014年4月21日(月)にプレスセンター9階宴会場で開催され、中尾政之東大工学系研究科教授が「論文数伸び悩みの理系、さっぱりの文系」とのタイトルで講演と討論を行った。
就職活動では修論を語るほうが有利
中尾先生はまず、東大をめぐる学生の考え方や就職活動、研究に取り組む姿勢などを語った。日本の大学の頂点に位置する東大でも悩みが大きいことを、さまざまな出来事や客観的なデータなどをもとに語ったもので、中でも筆者の印象に残ったのは就職活動のことである。
筆者もかつて勤務した東京理科大学知財専門職大学院で院生の就職活動には、ずいぶん力を入れていた。企業の面接時の対応などは最も重要な準備である。中尾先生が語ったことは、「一番苦労したこと楽しかったことを語る際、旅行の話やバイト、NPO活動などを話しするよりも、卒論や修論についての苦労や楽しさ、その中身を語ったほうがはるかにいい印象を与えているようだ」ということだった。
確かに学生生活を語る上では最もふさわしい話題であり、就職活動対応のノウハウ本では紹介されていないテーマだと思った。
また日本の大学で取得した単位は、外国の大学では等価交換できないというショッキングな話もあった。これでは日本と外国の大学間の交換学生交流などに支障をきたすことになる。
論文数で下降線を辿る日本
中尾先生が示した世界の国別論文数の動向を見ると、アメリカ、中国などの論文数は年毎に増加しているのに日本は近年下降線を辿っている。また大学ランキングを見ても、日本の大学のポジションは低下してきたように見える。
ここ10年間、研究資金が伸び悩んでおり、その結果を語るように、理系の論文数も伸び悩みになっているという指摘である。さらに、論文数を教員数で割ると、欧州の一流大学に比較するとその数が半分くらいに落ちる。それは統計の中に「論文数・さっぱり」の文系が含まれるからである。
また日本の大学の論文は、ポスドクなど任期つき研究員である非正規職の研究者がかなりの割合で執筆されていることだ。非正規職の研究者はローンを組むもこともできず、身分不安定で研究に取り組まなければならない。このような現状も研究現場を脆弱にしているとの課題もあげた。
理系・文系とわけることも日本独特の文化である。最近、文系の就職が難しくなってきて、理系のほうに受験生が流れてくることは戦後始めての流れであるという。「文系の教員も英語の論文を大量生産して、海外で自論を主張する文化に変えるべきであろう」とも提示した。
日本の文系の研究者が英語で論文を書かないのは、その必要性を問われていないからでもある。能力がないからではなく、英語で発信するテーマが少ないと理解したい。これからは国際的なテーマを掲げて、大いに英語の論文を書いて海外へも発信することを期待したい。
ところで、中尾先生の話でびっくりしたのは、東大は入学したら最後、退学や落第がほとんどないことである。極端な言い方をすれば、勉強しなくても卒業できる大学なのである。東大は、こうした現状を変えようとしているのかどうか。もし落第学生を出すようになれば、他の大学への影響も大きくなるので、是非、東大はリーダーになって適正な大学生指導を発揮してもらいたい。
また東大などエリート大学の学生は、適正検査をしてみると「反復・継続」が得意であるという結果が出ているという。
これが日本のエリートは「ミスを起こさない」という結果につながっているのではないかということだ。一面では結構なことだが、「堅実だけで発展性がない」人材になりかねない。こうした大学現場の教育課題にも言及し、会場との活発な討論が展開された。