お知らせ
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第197回・21世紀構想研究会講演と新年会
- 2025/01/26
歴史観から展望した激動の2025年
講演:「日本の国家像を考えよう」
荒井寿光さん(元内閣官房知的財産戦略推進事務局長、通商産業省審議官、特許庁長官)
世界は歴史的転換点に立っている
今年は2025年ですから21世紀の4分の1、四半世紀を迎えました。この機会に日本の国家像を考えようというテーマが出てきました。21世紀構想研究会(構想研)はちょっと前に25周年を迎えましたが、その時から出ていたテーマでもあります。
トランプ劇場は西部劇に似ている
ここ数日、テレビなどでトランプ大統領就任が大きく報道されてきました。「トランプ劇場」のようです。日本の総理大臣の所信表明とは違うのがアメリカのやり方ですが、私の個人的印象では昔見ていた西部劇みたいな感じがしました。西部開拓の時代に、正義を守る人がいて、敵をやっつけて、フロンティアを広げて行くドラマです。トランプ大統領は敵をやっつける役が「俺トランプだ」とか、あるいは「アメリカだ」と語っているように私は感じました。
「Make America Great Again」という言い方は、トランプ大統領が言い始めたのではありません。レーガン大統領は、1980年にアメリカが日本やドイツにだんだん産業力で追いつかれてきて、アメリカに元気がなくなってきたとき「Make America Great Again」と言って当選しました。「日本やドイツに負けないぞ」というレーガノミクスを始めて、成功しました。
自国第一主義はアメリカの伝統
トランプ大統領は、「アメリカファースト」を盛んに言いますが、この考えは歴史的によく言われています。アメリカファーストの考えは、初代大統領のワシントンのときから言っています。アメリカに限らず、どこの国でも自国第一主義が基本です。
アメリカの歴史を振り返ってみると、アメリカを良くするのが大事で、他の国の問題に巻き込まれるなと、しょっちゅう言ってきました。第一次大戦が終わった後、国際連盟を作りましたが、モンロー主義が出てきて、ヨーロッパのトラブルに巻き込まれていったら、アメリカは損すると考えて、入りませんでした。
1940年ころにも、アメリカファースト委員会を作ったりして、外国に巻き込まれるな、アメリカのことをまずよく考えて、余裕があったら他の国のことを考える方針です。これは会社も同じです。自分の会社がちゃんと黒字を出さないと社会還元なんかしてられません。
これと同じで国際機関にもアメリカはしょっちゅう入らないとか出ていくと言います。ユネスコをやめたとこともあります。
1997年、京都議定書、今のパリ協定の前のものですが、それを作って、環境に優しい世界にすると言ってクリントン大統領が熱心にやっていました。日本は不平等だから入らない方がいいと言いましたが、当時は貿易摩擦の時代ですから、入れ入れと言われて入った。そしたらアメリカは入らないのです。
結果どうなったか。日本の鉄鋼業、造船業が衰退するきっかけになりました。とにかく自国をまず第1に考えようというアメリカファーストの考えは、アメリカは昔からです。
領土拡張発言にはびっくり
今回びっくりしたのは、トランプ大統領は領土を拡張すると言いました。歴史的に見ると1776年、アメリカが独立した頃は、東部13州の小さい国でした。
それがいつの間にか、メキシコやスペインと戦争をやって広げたり、ルイジアナやアラスカを買って領土を広げたり、ハワイを併合したりして、ここまで広がってきている。250年間、領土拡大の歴史です。グリーンランドを買うという発想はそういう背景があると考えられます。そうみるとカナダに51番目の州になれという発想はアメリカ人からすると自然です。
トランプ大統領は盛んに関税を使うと言っていますが、アメリカは昔から関税を良く使っています。ニクソン大統領は、1971年8月15日、突然、一方的に全世界に対し、輸入課徴金10%をかけました。マッキンリー大統領も高い関税を導入しました。スムート・ホーリー関税法も有名です。関税の方が戦争をやるよりも、平和的な手段だとアメリカ人は考えているようです。
このように見ると、トランプ大統領は「変わったアメリカ人」ではなくて、「典型的なアメリカ人」だという印象を持ちます。もちろんアメリカの中にも反トランプは多数いますが、多くのアメリカ人からみると、トランプ大統領は体質に合っているのではないでしょうか。
中国も偉大な復興を目指している
中国の習近平主席は、軍事パレードをやって、中華民族の偉大な復興を国家目標にすると言っています。中華民族は万里の長城を作った。世界の4大発明をやった。世界で一番だった。中華民族の偉大な復興を目指すということは、「Make China Great Again」と言うことです。
約180年前には、イギリスにアヘン戦争で負け、その後日本にも負けたり、他の国にも侵略された。この「100年の恥辱」を晴らすためにはもういっぺん、中華民族の偉大な復興をするということを言っています。
達成時期は2049年
中国はその目標の達成時期を2049年頃だと言っています。1949年が中華人民共和国が出来た年で、それから100年後が2049年になります。100年かけて世界一になるという考えで、今はちょうど75年目です。残り25年でアメリカを抜いて世界一になるというのが中国の国家目標です。習近平主席は71歳ですから、25年後は96歳でまだ元気だろうと言われています。
「Make America Great Again」と「Make China Great Again」がぶつかり、これから25年間は、米中のトップ争い、世界の覇権争いが続くと見ないといけないでしょう。
プーチン大統領は、大統領に就任したのが2000年ですから、まだ25年しかやってない。彼はいま72歳ですから、この先相当やるかもしれません。ロシアの憲法はよくわかりませんが、憲法をちょっと変えるとか、改正したりすれば、プーチン大統領まだまだやる可能性があります。
日本のGDPはかつて2位だった
教育が良い国は技術力が高い。技術力が高い国は経済力がある。経済力のある国は国力がある。同時に軍事的にも強いということになります。日本は、「教育は国の礎」ということで、非常に教育に力を入れている国だということでしたが、最近は教育の劣化が言われています。
「技術の日本」と言われた日本の科学技術ですが、もはや先進国の水準ではないと言われています。先進技術力がなければ、GDPも下がってくる。かってはアメリカに次いで2位。しかもアメリカが怖がるぐらいの2位でしたが、それが今や中国に抜かれて、ドイツに抜かれて4位になっている。いやいやまだ来年になったらインドに抜かれますよと言われており、そうすると5位になる。
こういうことで技術がなければ経済が落ちる。経済が落ちれば国力が低下して、残念ながら、今中国とかロシアも盛んに日本の領空とか領海を侵犯しています。それだけ日本は、軽く見られているのが現状です。
明治維新から近代国家への急進展
明治維新からの約160年間の日本の国家像の変遷を見ると、5期にわかれます。第1期は近代国家を目指した時期です。明治維新は1868年でした。江戸時代が終わって、欧米に比べて遥かに遅れた発展途上国でした。富国強兵、殖産興業で近代国家、文明開化を目指し、帝国議会と憲法を作って国の形をつくりました。
1872年、学制が発表されました。明治維新からわずか4年で義務教育を制度化しました。「教育は国の礎」といいところに目をつけ、大変な教育国家になりました。明治の45年間でアメリカ、イギリス、ドイツに次いで4番目くらいの国になりました。発展途上国だった日本が、あっという間に近代国家になり、立派な国になったわけです。さすが日本人はスゴイです。
ところが失敗したのが第2期の大正と昭和前期の軍事国家の時代です。軍国主義が勃興し、軍縮会議でイギリス、アメリカ5に対して日本は3ですから6割ぐらいの位置づけを日本は認められ、フランス、イタリアよりも上になりました。
しかし日清戦争、日露戦争を起こし、満州事変を起こし、大東亜共栄圏を唱えて、真珠湾を急襲する太平洋戦争になり、大失敗してゼロになりました。
戦後復興と高度成長の成功
第3期は戦後、平和国家として復興をするということで、焼け野原から始まりました。占領時代は、とにかく日本はひどい怖い国だということで、復活しない方がいい、経済も成長しない方がいいというのがアメリカの本心だったと言われています。サンフランシスコ条約で、国際社会への復帰が認められましたが、これは朝鮮戦争でアメリカも仲間作りが必要になったということで方針転換したためでした。
1947年に教育基本法ができ、学校給食が始まり体格もだんだん良くなってくる。1964年にはオリンピックを開催できるまで復興できました。
第4期には、国民の努力により世界第2位の経済大国になりました。
昭和の後期、昭和45年、1970年ぐらいから昭和の終わり、1990年ぐらいまでは、高度成長した国家でした。トランジスタ‐ラジオ、カラーテレビ、家電製品、自動車などいいものを作り、大変な工業国になりました。この高度成長は、「日本の奇跡」と言われるほどで、さすが日本人はスゴイと言われました。
ところが、アメリカは日本がアメリカの産業を脅かすのは許せないとなり、連邦議会の前で日本製の電気用品や自動車をた叩き壊すとかして日本に貿易戦争をしかけてきました。その後も日米半導体協定を作って、先進的なことは日本やるなと言って止められた。ところが日本は、そんな目に遭っても深く考えず、カネ余りで土地も上がる、株価も上がるということでバブルの時代になっていきました。
「失われた40年」になりかねない
第5期は平成から現在まで続いている停滞国家の時代です。内閣が変わるたびに、日本を再生すると言っていますが、GDPはほぼ横ばいで、停滞している状態です。国民が共有する目指すべき国家像がありません。政府は何とかバブルを克服して、もう一度まともな国にするために、構造改革に取り組みました。科学技術基本法や知的財産基本法が制定されましたが、うまくいかない。
2010年になったら「失われた20年」と言われました。2013年にアベノミクスが出てきて、今度はうまくいくんじゃないかと国民は期待しました。ところがこれもうまくいかなくて、今や「失われた30年」になっています。このままでは「失われた40年」になりかねません。
経済再生が上手くいかない
なぜ失われた30年となってしまったのでしょうか。第1の原因は、日本が日米貿易戦争に負けて、第2の敗戦状態にあることを認識していないことです。太平洋戦争で負けてアメリカから経済政策について、民主化しろとか財閥解体とかいろんなこと言われてやったのが第1の敗戦。
その後、1980年代90年代は日米貿易戦争の時代でした。そこで負けたのが第2の敗戦です。アメリカからしてみると、経済で負けるということは、国力が落ちる、軍事で負けることに繋がる。日本人は「ジャパンアズナンバーワン」と褒められてると思っていたら、アメリカ人からこう言われた。
「今まではソ連が脅威だったけれど、今やソ連が弱くなって、アメリカの脅威ではなくなった。今や日本の技術力が脅威なんだ」
技術で負けたらアメリカの経済が弱くなる。経済が弱くなれば軍事力が弱くなる。だから「日本はアメリカの敵なんだ、エネミーナンバーワン」と言われました。ソ連の次の敵は日本だということで、日米構造協議とかで、いろいろ要求された。
日本は技術力をあまり上げないように、産業政策はもうやめろとか、企業は技術開発投資よりも早く利益を出すという短期経営に変えろと言ってきた。人工衛星、スーパーコンピュータ、医療機器開発など、先端的なものは自分で開発するのではなくアメリカから買えと言われた。貿易戦争の敗戦状態になっていたと思われます。
マクロ経済施策の失敗
第2は、マクロ経済政策の失敗です。最初はアメリカが日本がアメリカにいっぱい輸出するのは国内で金を使わないからだ、国内景気を良くすれば、アメリカへの輸出が減ると言いだしました。日本は財政をいっぱい使って、金利を下げて、国内景気をよくしろと言われました。そのマクロ政策を30年間やってきましたが、全く効き目がない。今までのマクロ経済政策をやめる勇気は、なかなかありません。
第3は、日本人の驕りと問題の先送りです。日本人は自分たちの技術力がいいはずだ、昔は良かったとの思い出に浸っている。驕りがあります。悪いことはあんまり聞きたくないという問題です。
日本人はNATOだと言われています。NATOはあのNATOではなく“No Action, Talk Only”ということです。いろんな再生戦略を作るけれど、その通りやらないというので、日本はNATOだということです。
第4は、情報革命に乗り遅れたことです。情報革命が進んできたにもかかわらず、日本の強みはもの作りだと工業革命にこだわってきています。物理的にものを作ることは、時間をかければ他の国も作れるようになり、日本は韓国、中国に追いつかれてしまいました。もの作りが強みと思ってるうちに、情報化が進んで新しい時代に移行してしまいました。
政府のデジタル政策も一貫していません。日本政府は新札を出しましが、新札を出した理由が、偽札防止技術が進歩したというのです。今やサイバーで銀行強盗をする時代ですから北朝鮮はもう偽札は作っていません。その時代に日本は新札を出している。新札を出したので自動販売機を全部入れ替えなければならない。キャッシュレスに移行させると言いながら、デジタルマネーと旧札と新札のアナログ紙幣が併存しています。世界で珍しい状況です。
日本の3つの選択
今後の日本の選択は、3つあります。第1の選択は、今のまま行くことです。そうするとこのまま「衰退国家」になっていく。
第2の選択は、「破綻国家」です。毎年毎年、国債を追加で発行しています。国債の償還期限は、短いのは1年、長いのは40年ですが、大体10年物が多い。補正予算と通常予算で、赤字分は国債を発行してまかなっている。その分は10年後の人が払うことになる。
今の自分たちは払いません。しかし10年後の人は借金ですから払ってくれとなります。日本には「子孫のために美田を残さず」という言葉があります。しかし「子孫のために借金を残す」というのが始まっています。これはどこかでパンクするんじゃないかと危惧します。
パンクしませんという人もいます。日本人は借金をぐるぐる回していれば最後までいけるから大丈夫だよと。雪だるまがいくら膨らんでいっても、日本人が国債を買っているから問題がないと言ってる人もいます。しかし今国債残高のGDPとの比率で日本は270%ぐらい。アメリカが高いといって問題になってますが120%ですから、日本はその倍以上です。どこかの段階で借金の借り換えもうまくいかなくなるのが、現実だと思います。
第3の選択は、「復活国家」です。どのような国になって復活するかを考える時期が来たと思っております。「創造国家日本」を提案します。日本は天然資源はなく、あるのは人的資源だけです。日本人の創造的能力を発揮して、新しいものを考え出し、作り出すことによって、日本が生きていくということが唯一の道だと思います。
創造国家の考えですが、後に総理大臣になられる高橋是清さんが明治18年、1885年に日本に特許制度を作りました。彼が何で特許に熱心になったか。それは日本はものまね国家で欧米から非常に迷惑がられているということをアメリカのお雇い外国人から言われて、そうだ日本はものまね国家でいるのでは駄目だということで、日本は独自の発明を奨励しようと特許庁を作りました。
創意工夫し発明をすることを奨励して発明国家になって、世界一の特許大国になりました。
これからは、日本人が創造的な能力を発揮する、創造国家になる、それで日本が復活するというのが一つの方法だと思います。そのための戦略として四つの項目を考えました。第1が教育改革です。
創造力を育むような教育にすることです。少子化で受験生が減っているにもかかわらず、受験教育が続いている。多分これは教えてる方も楽なんだと思います。受験ビジネスが受験が大変だと言って何校も受けさせれば、大学の経営上も受験料で儲かる。みんな安易な道に流れているんじゃないかと思います。
構想研の教育シンポジウムで、多くの問題を見つけ出しております。提言も多数出ています。教育が国の礎であり、国家100年の計として、日本は教育しか生きる道はないぞと位置付けて、創造的能力を育む教育に取り組むべきです。個別の問題ですが、大学では3年になったら就活を始めます。1年2年生ではいろんなことを勉強して3年4年になったら就職活動をするということは、日本は6・3・3・4制かと思ったら、6・3・3・2制なんです。
大学の方も次の受験生との関係で就活も大事だから、授業に出なくてもいいから会社を回って歩けというようなことをしているのが実態だと聞いています。本当にもったいない青春時代を過ごしていると思います。
第2は、科学立国再興です。
今や第3次情報産業革命から第4次AI産業革命へなだれ込んでいくと言われています。以前は、インターネットを使ってあれこれ探していましたが、いまはChatGPTなどを利用して問いかけると、数秒後に回答が出てきます。昔役所にいたときに部下に向かって、明日の朝までに資料を探してくれと頼んでいた時代とは、全く違います。
今までの産業革命と違って、今度の革命は、頭の部分を代わりにやってくれる人工知能ということで、これに後れをとってはならない。以前は、どこの会社に行っても、うちは技術が中心ですと言っていましたが、今はそんな技術開発に金かけていると、短期利益にならないとして多くの日本企業は技術開発にかけるお金と研究者を減らしています。
企業の中央研究所はぐっと減りました。技術部もぐっと減りました。企業がもっと技術開発できるようにしなければなりません。政府が今までアメリカ式経営をしろということで、アメリカのファンドの要求もあり、内部留保を吐き出して、配当している会社もあります。内部留保を技術開発に回せというように、政府の方針をまず変えなければいけません。大学院の博士課程進学者が少ないと問題になっていますが、民間企業の研究所が増えて、博士にいっぱい来てくれということになれば、博士課程進学者はどんどん増えるわけです。
産業政策を官民が協働してやることが世界中に広がっています。中国だけではなく、アメリカもヨーロッパも産業政策を復活しています。日本だけが一回りから二回りも遅れています。
「日本病」を治すのは国家ではなく国民
それから三つ目の経済政策ですが、今の状態は、“日本病”です。元気がない状態が続いています。これを不定愁訴というんでしょうか。こういうのは昔、英国病と言われていました。
英国病はサッチャーが治したわけですが、そういう英国病と同じ状態に日本がなっていると感じることが多くなってきました。「おねだり国民」と言ったら叱られますが、今の選挙制度であれば、バラマキ予算でお金をいっぱいばらまくと票が入る。自分の政党に投票したら、給付金が増えるとか、減税するとかみんなでそう言ってます。財源なんか考えなくていい、10年後の人が払うんだからということです。
昔から世界中でいろんな国が赤字国債を発行して中央銀行に引き受けさせて結局払えなくなってパンクするということがありました。世界中、中央銀行の赤字国債引受は、やってはいけないということで禁止になっています。日本も禁止です。国債の購入は、日銀が直接引き受けているのではなくて、政府が発行したら、民間の銀行や証券会社が買います。それを日銀が買うから、これは直接引き受けじゃない、間接引き受けだという説明です。
アベノミックスの異次元金融緩和は、病気に例えると2年間薬を大量に投与すれば、治ると言われましたが、10年続けているけども、治らない、それどころか、副作用としてどんどんどんどん借金が溜まっています。しかし政治家は、そんなことを言うと選挙に落ちる、国民は給付金をくれるから貰っておけということで、国全体が“裸の王様”になっていると言われています。これを健全な国家にするのは、国民が課題をしっかりと理解して政治に反映させなければ根本的な回復はできないでしょう。
安全保障分野で、トランプ大統領は、自分の国は自分で守れ、アメリカに頼るなということを、日本やNATOに言っています。戦後、アメリカは、日本が自分で守ると言って再軍備したら、また強くなるぞと警戒して、再軍備を禁止しました。それが、80年経ったんだから、日本も自分の国は自分で守れと言われるように変わったのです。
経済安全保障が重要になってきました。アメリカが中国に対して半導体を輸出しないとか先端技術を出さないとか言っています。中国は影響を受けています。技術は国境を越えた公共財であり、自由に流通すると思っていたら、そうではなくて、国がコントロールする経済安全保障の中核になっています。
こういう時代です。日本はしっかり経済安全保障に役立つ技術を自分の国で開発することが必要です。他の国が欲しがるような技術を持っていれば、他の国も、日本のことを大事にするというわけで、技術が経済安全保障として大変重みが増してきています。技術は単にいいものを作れるとか、競争力が増すことだけではなく、国の安全に直結するのです。
日本人の創造的能力を発揮する。これは同時に文明の進歩にも貢献できるわけです。科学技術で日本が世界で名誉ある地位を占めるようになります。ノーベル賞受賞者の大村智先生は、ゴルフに行ったら土を取ってくる。その土の中に有益な化学物質を作っている微生物がいる。それを見つけて薬を作る。イベルメクチンを見つけて世界中の重篤な風土病を一掃してしまった。世界中の人々から感謝されています。そうしてノーベル賞を授与されたわけです。
トランプ劇場には、イーロン・マスクだけじゃなくGoogle、Apple、Facebook、Amazonとかマイクロソフトとか、ビッグテックという情報時代をけん引する経営者が政権の近くに入り込みました。第4次産業革命は政治のパワーバランスを変えています。日本人もみんな彼らの製品やサービスを使っています。
そのツールと手段を使って生活し仕事をしているときに、アメリカから日本は気に食わないからGPSを使わせないとなったらどうなるか。日本の自衛隊だってみんなGPSを使ってやっている、船だって動いているわけです。インターネットを使わせないと言われたら、生きていけない。情報分野でアメリカに生殺与奪を握られていることの弱みをよくわかってない。
今回のトランプ劇場を見ていると、ああいう激しい人が世界一の国のリーダーになって、領土を拡大するとか、世界一強い軍隊にすると、言っています。昔からのアメリカ人を凝縮したのがトランプ大統領だというふうに見えます。
世界は激しく動いています。世界は、トランプ・習近平・プーチンという恐竜みたいな政治家が暴れまくっているように見えます。日本は単に再生すると言って、従来の政策を繰り返して停滞国家でいるのでは、世界の中で、順位を下げるだけです。
日本は明治維新の時は、近代国家になること、第2次大戦後は戦後復興し、成長することを、国民の共通の国家目標にして、成功しました。日本は国際政治の厳しい現実と、急速に進む第4次産業革命を直視しないといけません。
どんな国にするか、どんな国家像を持つか、早急に考え、国民のコンセンサスを作り、日本人の創造的能力を結集して、強靭な国を作らないと、世界の競争から落後してしまいます。