お知らせ
お知らせ
緊急論評「これでいいのか日本の政治」(上)
- 2024/12/17
第196回21世紀構想研究会
緊急論評「これでいいのか日本の政治」(上)
橋本五郎(政治評論家、読売新聞特別編集委員)
この緊急論評は、2024年11月25日午後8時から、ネットで開催されました。
馬場理事長 先の総選挙で過半数を割り込み、「ボロ負け」した与党の自民・公明党は石破内閣続投で切り抜けようとしています。自民・国民民主党の政策協議も進められていますが、国民よりも自党の利害をすり合わせながら話し合いが進んでいるようにも見える。アメリカでは、トランプ大統領の再登場というドラマチックな展開になり、弱体政権の欧州諸国や日本にショックを与えています。
総選挙後の不安定な政局の中で日本の政治はどうなるのか。本研究会会員でもある橋本五郎さんに、現行の日本政治を縦横に解説してもらい、あるべき政治を語ってもらいます。
国政選挙には三つの選択肢が
橋本 私はここ四半世紀、国政選挙の前日に読売新聞朝刊一面に、「拝啓有権者の皆さんへ」というタイトルで、各回の選挙の意味、何を基準に投票すればよいかを書き続けてきました。今回の総選挙では、大別して三つの政権の姿、選択肢があると書きました。一つ目は、自公政権の継続という選択肢。第二は、野党による政権交代。三つ目は、自公で過半数を割り込むものの、他の野党が加わり、新たな連立政権が生まれるという可能性。どの道を選ぶかは、ひとえに有権者の皆さんの1票にかかっていると、紙面で訴えました。
とは言っても有権者には迷いもあるに違いありません。そこで、福澤諭吉の言葉を添えました。「政治とは悪さ加減の選択である」と。政治にベスト、最善を求めてもそれは無理。ベター、次善も、なかなか至難。せいぜい「どちらがより悪くはないか」という冷めた目で判断すればいいのではないかと呼びかけました。
有権者の絶妙な判断 自民惨敗・立民も喜べず
そして、10月27日の投開票。私は絶妙なバランス感覚が働いた選挙結果だと見ています。自民党には厳しく反省してもらわなければいけない。自公両方合わせても過半数には至らないというある種の罰を与えた。一方で野党の立憲民主党は148議席。これ非常に微妙な数。50議席も増やしたといっても、もとから少なかったから150議席に届かず比較第二党という結果になった。立憲民主が政権を取れるような信頼感がまだないというメッセージだと私はみています。
公明や日本維新にもお家の事情が
今回の結果からは、それぞれの党の事情がうかがわれます。議席を減らした公明は、長年クリーンを売り物にしていたのに、自民との補完関係が続くなか、自民で処分された非公認候補を自党で推薦したことが大きな痛手になった。母体の創価学会員の高齢化なども、活動が鈍くなる要因になっているのでは。
日本維新の会は44議席から38議席になって、6議席減らしました。大阪の小選挙区は公明の全議席も奪って、19選挙区全部勝ちということになりました。だが、比例区では伸びず、今回選挙の一番の目的だった地域政党から全国政党に飛躍するための足掛かりにすることができませんでした。
理由ははっきりしていて、兵庫県知事選の問題だけでなく地方議員にスキャンダルが続いています。とにかく数(議席)を増やしたいと、品定めを十分しないまま決めるので、一旦公認を決めてから取り消すケースが非常に多い。共産党や公明党のように組織がしっかりしていないという弱点が、今回も出たなという感じです。
国民民主「手取りを増やす」に路線転換
一方で、国民民主党が7議席から28議席と4倍増になったのはなぜか。これはSNSのせいとかいろいろいわれますが、やはり一つの争点をつくるのが非常にうまかった。立憲民主や維新など野党各党が「政治とカネ」の問題を強調して選挙戦を闘うなか国民民主はいち早く争点を変えました。政治とカネは軽く触れるだけにして、途中から例の「103万円の壁」に象徴される「手取り増」を訴えた。若者らが共感するなど完全に功を奏しました。玉木代表に不倫問題が出ても、国民民主の支持はそんなに減らない。選挙の途中で作戦を変える。これはなかなか大したものだと感じました。
少数政党と「弱者の恐喝」
いずれにしても石破内閣は少数与党で再スタートを切らざるをえない。何かしようとしても、大いなる譲歩をしない限り短命で終わりかねない。鍵をにぎる国民民主は自分の政策を実現させるため、その限りにおいて与党に協力するが、閣僚を出すわけではなく、連立政権に加わるわけでもありません。自党の意向を通すために、いつまでも少数与党を苦しめることができます。こうした状況を私は「弱者の恐喝」と呼んでいます。
国際政治に目を移してみると、北朝鮮がこのやりかたですね。ロシアと中国という二国に等距離で接して手玉にとり、今はアメリカに対しても弱者の恐喝をしようとしています。生き延びるための戦略ですね。
少数与党政権を前向きにとらえる
石破少数政権は、野党の国民民主などの要求を聞かざるをえない状況にありますが、逆に野党側も責任をもたなければならなくなります。予算委員会の委員長ポストを立憲民主がとりましたが、これまでのように野党側が審議をボイコットするなど行儀の悪いことはできなくなります。これからは、国会運営において野党の責任が厳しく問われる事態が増えると思います。円滑な国会運営にとってこれは悪いことではない。そろそろ、少数与党政権というものを前向きにとらえ、新たなモデルを作る時期がきたのかもしれません。
日本には連立政権アレルギーが
日本では、過去の細川政権とか自社さ政権などの記憶があるためか、メディアも含め、連立政権へのアレルギーが強くあるのではないかと思います。連立ではものごとがなかなか決まらず、パパっと決まる一党体制のほうがよいのではないかと。自民一等支配体制が長く続き、まれに生まれた連立政権も長くは続かなかった。そのため、連立を支える各党がいかに自制すべかなど、連立の作法が育ってこなかった。これからは、連立の状況にも慣れる必要があるでしょう。
ドイツの連立政権から学ぶ
ヨーロッパでは連立政権が長く続く国が多い。特にドイツは戦後、単独政権が一度もなく連立がずっと続いています。これは、「小選挙区比例代表併用制」という仕組みのためで、1党が50パーセント以上取るということはあり得ない。ナチスのような政党を二度と出さないために、このような制度にしたのです。
関係政党が様々な工夫しながら連立政権を組んできたが、行き詰まるとどうするか。そのときの知恵が大連立なんですね。第一党と第二党が連立政権を組む。ドイツも、憲法を改正するときは日本と同じように3分の2以上の賛成が必要です。戦後に連邦軍(1955年発足)を持つとき、この大連立で憲法を改正しました。以来、60回以上も改正しています。私は日本の憲法改正も、こうした例に学ぶべきと思うんですけど。
石破内閣の弱点は求心力不足か
少数与党の石破内閣をどう運営していくのか。様々な課題があるでしょうが、根本的な問題があります。事務方がまだ、石破首相はどういう人間なのか模様眺めをしていて信頼しきっていないように感じます。防衛相時代に彼は、事務方の話を聞かないし、省内で石破大臣を本気で支えようとする役人がほとんどいなかったという過去もあります。先日ペルーで開かれたAPEC(アジア経済協力)首脳会議で、石破首相がフジモリ元大統領の墓参に行った帰路に渋滞に巻き込まれ、集合写真に間に合わなかったという失態がありました。これは事務方の事前準備不足の現れですが、背景には首相の人間的な求心力不足という課題が感じられます。事務方が入念に準備した安倍政権時代には、こうしたことは考えられませんでした。
戦略的思考と支える体制
外交には戦略的思考が欠かせませんが、石破首相には明確な戦略が感じられません。支える体制も欠かせませんが、それにも懸念があります。また安倍政権との対比になってしまいますが、安倍には無私の精神で支える人間がいっぱいいました。たとえば、第二次安倍政権で靖国参拝をしようとする首相に、秘書官が「(中国ばかりか)アメリカとの関係が壊れますよ。どうしても行くなら、私は秘書官を辞めます」と翻意させました。私も参画した著書『安倍晋三回顧録』に他の事例も含めて書きましたが、石破政権には体をはってでも支える人たちがはたしているのか。これまで、そうした人を育てようとしてきたのか。そこに、石破政権の危うさを感じます。
少数与党政権の利を生かして実績を
石破政権に対して厳しいことばかり話してきましたが、望みがないわけではありません。私の経験では、長く続くと思われた政権が実際に長く続いたためしはありませんし、逆に短いと思われていても、結構続いた政権もあります。当初短命といわれた小泉政権が、5年5カ月。長くないとされた岸田政権も3年やりました。
少数与党はハンデではありますが、それを前提として丁寧に議論しながら、合理的な解を見つけていく。謙虚に足元を見つめていろいろな具体的成果を積み上げていけば、国民の評価も変わってきますよ。