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緊急論評「これでいいのか日本の政治」(下)

2024/12/20

第196回21世紀構想研究会 

緊急論評「これでいいのか日本の政治」(下)

 橋本五郎(政治評論家、読売新聞特別編集委員)

この緊急論評は、2024年11月25日午後8時から、ネットで開催されました。

馬場      橋本さんには、政権のあり方を過去の実例なども引いて解説していただき、石破政権の行方なども占っていただきました。ありがとうございました。それでは、この機会にぜひ質問したい、あるいは自分の意見を述べたいという方がおりましたら、どうぞ。

自民党はブラックホール

黒木登志夫(東大名誉教授)     

今度の選挙結果、僕は非常に良かったと思っています。で、今後の新しい日本の政治について一つ思っているのは、自民党が右派を中心にした党と中道の党の二つに分かれるともっといいと思いますが、いかがでしょうか。

橋本      自民党が二つに分かれる? 何と何ですか。

黒木      右派の人たちが自民党から出ていって、一つの党。中道の人が国民民主党などと一緒になって、中道を中心としたもう一つの党を作る。そうすると政権移動もうまくいくんじゃないかと思いますが。

橋本      それは、一つの考えではあります。ただ、自民党には自民党たるゆえんがあって、無限抱擁とでもいえますか、右から左までを飲みこんでブラックホールのようなところがある。その中で総理を代えて政権交代するわけです。今度もそうです。いくぶん野党的な石破を選び、一番右の高市を取らなかった。真ん中寄りを選んだわけです。こうした選択のためには、右も左も必要なんですね。

分裂して新たな党を作るというのは大変なエネルギーを要します。みんなそれぞれ出自も違うし。今のままでいいのではと考える人たちが多いのです。大きな再編が起きるためには、自民党がもっと減らないと駄目です。政権を取れるうまみも忘れられないし、次は自公でまた過半数を取れるかもしれないという気持ちが多くの人にあると思います。

戦後80年に国のあり方を考える

荒井寿光(世界平和研究所副理事長)

 日本の政治の混乱は、国民の状況を反映していると思います。国民がしっかり考えていない。一つの理由は、80年前に憲法をつくって、それに安住しきっているという面があるのです。軍事だけでなく、経済も技術もアメリカ依存が深まっています。AIが典型例です。学生も、留学で外国に出ていこうともしない“引きこもり状態”です。そうした時に、トランプ大統領が出てきて「自分の国は自分で守れ」と言っているわけで、日本も自ら考えざるをえません。

こうした「トランプ効果」も受けて、戦後80年の今、国のありかたを考え直す機会にするべきではないでしょうか。軍事の問題だけではなく、経済も文化も教育も・・・。21世紀に日本はどのように生きていくのか。「政治家にリーダーシップが足りない」などと言っているだけでなく、国民が自ら考えるべきときだと思いますが。

ウクライナの教訓は何か

橋本      おっしゃること、すごくわかります。石破政権は何をやるべきか。まず安全保障政策では、ウクライナの教訓を忘れるわけにはいきません。ロシアのウクライナ侵攻では、専門家はことごとく読みを間違えました。プーチンはウクライナを侵略はしない、侵入しても短期間で終わると言っていましたが、間違えましたね。それから、必ずやロシアの中に民主化運動が起きると。なぜなら、自分の子どもを戦争で亡くしたお母さんたちが立ち上がるだろうと。だが、全然立ち上がらない。それはプーチンにはプーチンの正義があるからですよ。我々はそれを認めないが。それらから私たちは何を学ぶべきか。自分の国は自分できちんと守るという国民でければ、(日本を守るための)日米同盟は機能しないということがまずあります。

グローバルで大きな戦略を

橋本  それから、今の科学政策においても、経済やものづくりにしても、一体どのように取り組むかという戦略が欠かせないということ。戦略の重点は日米だけの話ではなく、日中だって大事なわけですよ。今、トランプがアメリカファーストで内向きになればなるほど、逆に日本としてはもっとグローバルに考えた大きな戦略で「日本という国は世界に貢献するんだ」という姿勢を示す。安倍元首相はトランプとの関係をうまく使ってヨーロッパに対して、存在感を発揮しました。今度はそれらも全部超えたうえで、世界のいろいろな紛争をなくすため、世界の平和のために、先頭に立って日本は多角的に取り組むということを示すいいチャンスです。様々な分野の学者を全部糾合して、検討してはどうでしょうか。分科会も設けて。

荒井      日本の学者、あるいはマスコミ陣が、「よし、石破のもとに集まろう」という雰囲気を早くつくってほしいものですが、どうでしょうね。

馬場      お二人のやりとりを聞いていると、日本の国家像というものが政治の中からは全然出てこない。橋本さんは党首会見とか党首討論の時、よく司会者をしておられるが、今の党首クラスの中に総理ができそうな政治家はいますかね。

橋本      いませんね。

SNS選挙の行方

長谷川芳樹(創英国際特許法律事務所長)         

このところ、選挙を通して感じることがあります。2016年に選挙権の年齢が18歳まで引き下げられて、若い有権者がドッと増えました。それで、状況がものすごく変化している。もう一つは、SNSとかYouTubeとかが急に注目され、選挙に大きな影響を与えている。令和新選組とか、保守党とかいろいろ出てきて、今回の衆議院選で国民民主が勝ったというのも、そうした影響のひとつです。名古屋市長選では、保守党の副市長が対抗候補にダブルスコアに近い差をつけて当選しました。こうしたうねりが次の選挙、都議選とか参議院選などに波及すのではないかと感じますが、いかがですか。

橋本       一時的ブームといえばいいのか・・・。だんだん慣れていって落ち着くところに落ち着くと思っています。名古屋にしても個別の事情があって、負けた候補者は全党相乗りでした。相乗りというのが、有権者に一番嫌われるんです。選挙戦術を間違えたのではないでしょうか。1回、2回と選挙をやるごとに、ブームでたまたま当選した候補もやがて淘汰されていくのではないか。既成政党はこれを、反省するよい機会にすればいいんですよ。

短命内閣が続く兆しか

馬場      日本の国政選挙は衆議院総選挙と参議院選挙と二つありますが、大体は勝った選挙の次の選挙は負ける。バランス感覚といわれますが、私にいわせればバランスじゃない。国民のいい加減さなんですよ。「勝った勝った」というと、次はお灸をすえる意味で、負けるほうに傾いていく。今回の選挙は与党のボロ負けでしたが、では次の選挙(25年7月の参議選)ではどうなるのか。今回のボロ負けの反動で、自公の与党が参院選でまた盛り返すという、私にとっては最悪のドラマが見えます。このあたりを橋本さんはどうお考えですか。

橋本      それは、これからの国会の動き次第でしょう。野党にとっては、「期待したのに何だ」と有権者に思われるおそれもある。これまでのように、汚い言葉で他党をののしる姿を見せるようでは・・・。野党主導のなかで、国会運営がどう進むかが注目されます。また、石破政権側も同様で、そのたたずまいが問われます。

私は、日本政治にとって最大の問題でもなんでもない「政治とカネ」の問題にはさっさと決着をつけて、もっと大事な課題に取り組むべきだと思います。どのように決着させるか、国民に見えるように全部オープンにして早くやればいいんです。先ほどの荒井さんのご意見にあったように、日本の国のあり方はどうあるべきか、その戦略はどうするかといった大きな問題に取り組まなければなりません。国民はよく見ていて、「いつまでも、小さなことでぐずぐず何をやっているんだ」と、必ずしっぺ返しを受けますよ。

馬場      今の話を聞いていると、現政権は短命に終わるような気もしますね。安倍政権後や、さかのぼれば小泉政権後にも短命政権が1年交代ほどで続いたことがありました。石破短命内閣から始まって、また似たような状況になるのではと危惧を感じますが。

橋本      それを何とかするには、解散するしかないんですよ。選挙でやるしかない。ただ、もっと負けるのではと心配になるから、簡単には解散出来ない。しかし、「着実にきちんと実績を上げてきました。いろいろな人の意見を聞きながら、こうやってここまできました。それを見て欲しい」と訴えて解散をやるという手もありますからね。そのくらいの気迫を持ってやれば、活路が開けるかもしれません。

日本の教育の問題点は

馬場      最後に、国家像のことを考えていただきたい。日本の国家はこうあるべきだということのひとつに、私は教育改革があると思っています。戦後始まった「6-3―3-4制」の学制は、その後1回も変えていない。小手先で様々なものを変えてはきましたが、国家としての教育体制はまだちゃんとしたものになってないという気がしますが。黒川先生、何かご意見ありますか。

黒川清(元日本学術会議会長)  

大学教育に関して、私のところに大蔵省や文部科学省の役人が意見を聞きにくることがあります。何がダメかいろいろ話しますが、かいつまんで言えば、日本の教育は大学入試をターゲットにして、いかに合格するかばかりに労力を集中しすぎています。そして、入ってしまえば、たいして学ばない学生が多い。

アメリカのハーバード大学やイギリスのケンブリッジ大学などでは、事前の共通的な試験はありますが、日本のような入試はありません。それぞれの大学がどういう人間を入れたいのか、独自の基準と手法で選び、入れたら猛烈に勉強させます。

結局、象徴的な東大や京大が変わらない限り、入試至上の日本の高等教育は変わらないと思っています。

活きのいい研究者も出てはいますが、一方で若手官僚の辞職が相次いでいるのも国家衰退につながっています。

馬場      それでは、名前の出た東京大学の中尾先生、コメントをお願いします。

中尾政之(東大工学系研究科教授)       

大学教育・研究の現場は変貌しつつありますよ。今、JST(科学技術振興機構)のACT-X(戦略的創造研究推進事業)という若手研究者にお金を配る事業を手伝っていますが、こうした助成が充実しつつある。たかだか600万円くらいしかくれないけれども、ありがたい。若手の上の世代への助成も変化してきました。主任教授であるかどうかなど講座制の元での地位にかかわらず、研究代表者(PI)になって競争的資金を獲得すれば、自分が自由に使える研究費が増えるというPI制度が定着してきました。

教授、准教授、講師とかいう講座制の序列が崩壊しつつあります。講座の番頭を長年やっていた准教授がPI制度を使って、「私は独立して研究をします」と教授の元を出ていく。大学によっては、「〇〇の乱」とか、「××の変」と呼ばれるこうした旧秩序破壊の事態が起きています。いずれにしても、若手研究者はこのところ元気がいい。40歳以上の世代に比べて元気です。

馬場  そういう活きの良い若者をよく知っている中尾先生のところから、政治家が出てほしいですね。影響力ある政治家に育てたい。中尾先生、そういう人材いませんか。

中尾      政治家? 今、役人の世界も問題を抱えています。産総研(産業技術総合研究所)で生産技術にお金を出してくださいと頼むため、僕も経済産業省によく行くが、すごいことが起きている。辞める人がいっぱいいて、僕の交渉相手もすぐ辞めて代わってしまう。若手の役人がこんなに辞めてしまって大丈夫かと、心配になりますね。

若い政治家が志を取り戻すためには

馬場      行政府の劣化の原因については、やはり政治家の問題に行きつくのではないかと私は考えています。ちゃんとした人間が政治家になっていない。政治家の劣化が、行政にも影響しているのではないでしょうか。橋本さん、いかがですか。

橋本      みんな一応は志があって、政治家になっているんですよ。最初につまずくのは、やはりお金を集めなければならないこと。国からもらっているお金だけで足りるわけはないのだから。だから政治資金パーティーもやるわけですよ。かつては大口の寄付もあったが、非常に厳しくなってきた。そうすると、以前は社長に会ってお金をよろしくお願いしますと言っていたのが、今は係長クラスのところに行って頼みこむ。これでは、志も萎えちゃうわけですよ。 

政治家を育てる風土を

橋本  本当は、「この人を立派な政治家にしたい」と、お金で支援する人がもっと出てくればいい。ところが、口で文句や注文ばかり言いながらお金は出さない。政治家を育てられないこうした日本の政治風土はかなり問題で、人のことばっかり言ってないで、少しは金を出せと思いますね。とにかく頭を下げて、金をもらうことばかりしていると、若い政治家は挫折してしまいます。

こうした中でも志ある人がいるはずで、たとえば今度の総裁選に出た小林鷹之なんかは、いい人材で人間的にも愛されている。政治家は基本的にはやはり愛されないと駄目なんですよ。「憎まれてもいい」というのは、実力者になってからの話です。

優れたリーダーには、必ずそれを支える人たちがいたという過去の実例からみても、そのための努力を日々やる必要がある。若手がその余裕さえなくしている現状は嘆かわしい。嘆いてばかりいてもしょうがないので、志ある若手政治家を育てるように政治風土を変えていかなければなりません。それは政治家だけの責任ではなく、支える側や有権者の問題でもあると思います。

馬場  国家の課題は政治家や官僚だけではない。司法の劣化も私はあると思っています。メリハリの利いた統治国家をつくるためにはしかし、国民がしっかりしなければならないということに行きついたように感じました。

これからも国家像について討論と意見発信を続けます。本日は有難うございました。