お知らせ

お知らせ

シンポジウム「時代に取り残された学校現場」工藤先生・冒頭発言

2023/04/06

 3人のパネリストによる冒頭プレゼンテーション

 漆 紫穂子先生に続いて工藤勇一先生のプレセンテーションを報告します。

 ひたすらサービス提供を続ける学校教育

工藤勇一氏:横浜創英中学・高等学校校長の工藤です。この学校をあずかって3年が終わりますが、前任は千代田区にあります千代田区立麴町中学校で6年間校長をしておりました。

今日の問題提起の結論は、このスライドです。教育の世界に限らず、日本社会全体が、ただひたすらサービスを受けるのを待っていて、うまくいかないと人のせいにする。何か日本全体がそんな社会になったと、そんなふうに感じています。

解決策は、今うちの学校でやっていることですが、まずは学校を子供たちにあげちゃう。当事者にするということです。当事者にするというのは、さまざまな考え方があるので、当然対立が起こる。その対立は対話を持って解決していく、そういう力を付けていきたいと思っております。

 

急速に変化する世界の状況

今日はこの問題のために、日本社会と日本経済と学校教育との関係という切り口でお話をしたいと思います。世界は急激に変化しています。

一方、日本はどうかということですが、日本はなかなか変わり切れないでいる。特に科学技術の進歩に従って、社会システムを変えなきゃいけないのに、日本の政治も含めて、なかなか結論を出せない。ずるずる停滞しているわけです。

例を挙げると、これはよく最近テレビで使われるビッグマック指数と言われているものです。それを今日は金額で示しましたが、日本はいつの間にかビッグマックの値段が世界で41番目に安い国になった。

2000年ころは世界で5番目だったのが、いつの間にかこうなった。これはどういう意味かというと、日本の中では生活しやすくて、物価が安いということなのですが、世界の変化とは大分ずれがある。390円は去年の7月の時点の値段ですが、これだけ安いのは当然働いている人たちの賃金が安いことを示すことになります。

世界と比較すると、いつの間にか日本は貧しい国になってしまったということです。賃金が上がらないという大きな問題が生じているわけです。

もう一つ、日本の企業の問題も盛んに取りざたされていますけど、平成元年のころの世界のトップ企業の株式の時価総額を見ると、世界トップ20社のうち7割の14社が日本企業であり、50社に広げても64%の32社が占めていた。

それが30年経った最近は、ほとんど1社もない。簡単にいえば、優れたベンチャー企業が生まれていないということです。古い企業がいつまでも幅を利かせているというか、新たな仕組みに基づいた新しい企業が生まれていないということです。

これがいつの日にか改善されるのかということです。日本社会には、このように最大の問題があるということです。

急激な人口減少も大問題です。これは頂点が平成16年、2004年ですけど、明治維新から平成16年まで、約130年の間に人口が1億人増えている。3,300万人ぐらいしかいなかったのが約1億人増えた。毎年毎年、計算すると70万人増えています。70万人増えていく時代と、今、80万人減ったと言われています。これから毎年70万から80万の人がどんどん減っていくということになると、100年経つと明治維新と同じ人口になるということです。

これがどんなに大きな問題かというと、人口が右肩上がりの時代は、物は作れば売れるわけですから、当然物の値段は上がります。高く買ってくれる、給料も上がる。会社は基本的に右肩上がりで、誰かの成功したビジネスを真似すれば、その会社も勝てた時代でした。

今の時代は右肩下がりになってきた。買う人が少ないので、当然買ってもらうためには、物を安くしなきゃいけない。物の値段を安くするということは、賃金が上がらない、労働環境が悪化する。この負のジレンマからどうも逃れられそうにないということを示しているわけです。

百何十年間続いたビジネスモデルが通用しなくなった。僕はいま63歳ですが僕らが生きてきた成功モデルと今のビジネス環境は全く違うということになります。人口が減っていく時代の成功モデルって何なのかということを考えなきゃいけないわけですけど、当然、安売り競争に巻き込まれてしまえば、日本経済の未来はないということです。

状況を知るために世界に目を向ける

どういうことかというと、新たなベンチャーの企業、今までないものに付加価値を付けて、物を高く売ってくれる、そういった経済活動です。これからの日本は、国内消費はどんどんしぼんでいくので、まだまだ発展している世界に目を向ける必要があります。

これからを生きる子供たちが、いつも意識しなければいけないのは、オンリーワンを目指すようなこととか、今発展している世界の国々、たとえばベトナムです。あるいはインドなどです。

僕も最近写真を見て驚きました。ベトナム、インドなどでは経済がどんどん発展しているということです。一つの会社に就職して定年までという、そういう教育モデルはもう成り立たないということです。

従来の教育モデルは通用しない。自ら起業をしたりまたは転職をしたり、副業したり兼業したり、または特別な技能を身に付けて、それを高く売るというようなことも求められてきました。

自分で考えて行動する力を磨け

今までのように大学卒業後、会社に入って定年までほとんど経済的に安定していた時代というモデルは、多分二度と来ないということです。忘れてならないのは、教育は「自分の頭で考える子をつくる」ということです。

にもかかわらず、日本の子供たちや若者たちの姿は全く違うわけです。これは3年前に出された日本財団の18歳の意識調査です。6つの設問があります。

  • 「自分を大人だと思う」
  • 「責任ある社会の一員だと思う」
  • 「自分の将来の夢を持っている」
  • 「自分で国や社会を変えられると思う」
  • 「自分の国に解決したい課題がある」
  • 「それを議論している」

どの項目見ても世界最低です。当事者意識のない、いつも不満ばかり述べている。これは若者たちというよりは我々大人の世界だということです。

教育の調査は、なかなか本質的な調査でいいものがないのです、これはUnicefが調査した、世界の子供たちの幸福度です。身体的な発育に関しては世界第1位だったにもかかわらず、精神的幸福度は38カ国中37位、下から2番目です。自己肯定感も世界で最低の国だということです。

日本の教育はいつの間にか、この2、30年の間に最も大事なものを失ったではないでしょうか。絶対失ってはいけないものを失ったのが日本の教育だということです。なぜかといったら、サービス提供です。与えられ、与えられ、与えられて、勉強ができなければさらに与える。

先生の教え方が悪いと文句を言う。クラスがうまくいかなければ、担任が外れだという、そういった社会です。手をかけて、手をかけて、最も大事にものを失っている。与え続ける教育の不幸は、主体性を失い、当事者意識を失い、自己肯定感が低くなり幸福度も低い。いつの間にか日本の教育はこうなったということです。

その根底にあるのは、日本が信じて疑っていなかった知育・徳育・体育があります。これ自体は悪くないのです。しかし知育・徳育・体育は手段にしかすぎないということです。一番大事な自分で考えて、自分で行動できる、そういった子供たちを育てるための学力であり、人間性であり、体力・健康だったのに、いつの間にか自立しなくても体力・健康をつけさせ、とにかく学力をつけさせるということになったのです。

これと同じことが、日本の社会の働き方改革にも関係します。とにかく無駄が多いということです。言われたことはやるけど、自分で課題が解決できない。

日本社会、大人の社会も、日本の労働者生産性はまだまだ下がっていて、1970年以降、今最低です。先進国の中で最低レベルです。これは日本社会そのものです。

学校の先生たちは、自分たちが働き方改革だとかブラック企業だと言いながら、子供たちに「勉強しろ」と言うのです。勉強時間が足りない。もっと勉強しろという。おかしな言葉です。勉強時間を減らして成績を上げる子をつくらなきゃいけないのに、勉強時間を増やして成績を上げようとしているのですから、おかしいということです。勘違いしたということです。自立していれば、自分で選べるのです。自立していない学校だから、教えてくださいということです。

 

 

横浜創英高校の目標

横浜創英は、今年創立82年目になりますが、これまで日本独特の学校そのものでした。今3年経って真逆の学校にかじを切っています。中心に置いているのはエージェンシー、子供たちが主体の学校です。自分で考えて行動していくという、自立を進める教育であり、多様な人たちを受け入れながら、対話をして合意していくという、なかなか日本はない考えです。

対話をして合意することができない国が日本です。必ず対話して合意しようとすると、心の教育で「思いやりを持とう」という考えで解決しようとする。

思いやりを持って解決するんだったら、あっという間に平和は来ます。いろんな人たちがいるわけだから、対話を持って合意するということは、上位の目標を考え、共通の目標を意識し、感情をコントロールして、自分の考え価値観を変えないと合意できない。その一連のプロセスを教えなきゃいけない。それが求められている。

今、うちの学校がやっているものの中心は、エージェンシー(Agency)と実学です。「Agency」とは、OECD(経済協力開発機構)が2019年5月に発表した「教育とスキルの未来2030プロジェクト」の中で、「変化を起こすために、自分で目標を設定し、振り返り、責任をもって行動する能力」と定義しました。私はこれを簡潔に分かり易い言葉として「当事者意識」としています。

エージェンシーの育成で、2大柱の1つは「学校運営を子供に全部ゆだねていく」ことです。可能な限りです。職員会議に子供たちが出てもいいと思っています。とにかく子供たちが多数決を使わずに合意するという方法を覚えさせていく。地道なことです。

もう一つは、学習者主体の学びですが、これがなかなか難しいということです。スライドにあるコンピテンシーとは、「繰り返した経験で身につけた、その後の人生で再現できる能力」と定義づけています。

うちの学校も今、総合的な学習の時間を2時間やっています。この2時間を主体的な学習にすることは、そんなに難しいことではない。問題は、約8割から9割の通常の教科学習です。これは相変わらずブレーキを踏んでいるわけです。一方的に教える授業です。これを100%真逆にしようというパズルを今解いています。2年後に全教科でそれを実施するということで、今プロジェクトチームが立ち上がって進めようとしています。2年後には中1から高3まで子供が主体で学ぶ仕組みに変えていくと思います。

現在行っているのは2割だけアクセルを踏んで8割でブレーキを踏むという教育です。これを10割アクセルを踏むという教育に転換しようとしています。

以上で僕の問題提起は終わらせていただきます。

冒頭工藤先生プレゼンテーションPDFのDLはこちらからできます

                                                      冒頭プレゼンテーション続く