お知らせ

お知らせ

日中科学技術協力は進めることができるのか? 報告5

2021/09/27

PDF版はこちらです。日中科学技術協力は進めることができるのか報告5

講演 白川展之 1

急進展した中国の科学技術研究

新潟大学工学部工学科協創経営プログラムの白川です。本日は、「中国の科学技術力;国際比較と特徴」と題しまして、大局的に見た中国の科学技術というのはどういったものなのか、直近のデータや10年前の研究成果から予測できたことをもとに、お話をさせていただきます。

それをもとに、いま話題になっている機微技術の管理、安全保障、貿易管理の問題や科学技術協力の関係をお話したいと思います。

科学論文数は質量とも世界トップに

中国の研究力を研究のアウトプットの面から見ていきます。この図表は、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が毎年出している科学技術指標2021です。昨年度は、量の面では中国の論文が世界一になったというのが、ニュースになりました。今年度は、総合科学技術・イノベーション会議などで質の高いとされる論文数の指標として、ベンチマークとされている、いわゆるトップ10パーセント補正論文数で、中国が1位になりニュースになりました。

日本は1997年から8年の平均で2位であったものが、量では4位に落ちています。質の面(Top10パーセント補正論文数)で見ると、1997から99年のところでは4位であったところが、ついに10位まで転落し、主要国の座から落ちようとしています。日本の科学研究力の衰退を特徴づけるものとして大きな話題になりました。中国の台頭と日本の衰退というのが、今年ほど際立ったことはなかったということです。

この指標の最新版のデータは2017年から19年の平均を取っています。何のデータをねらって測定しているかというと、2018年のデータを見ているのとほぼ同値だと思っていただきた。このデータは、指標として公表されるのは今年になっていますが、この時期は、トランプ政権が非常に中国に対してアグレッシブな態度に転換した時期に重なります。だから、こういったデータがたぶん内々に出ていたんだろうなということが米国の政策転換の背景にあると推察されるわけです。

 研究開発総額が圧倒的な伸長

なぜこんなに質が良くなっているのか。インプットを見てみるとこれは当たり前です。背景に、米国に迫るくらいに、研究開発総額が圧倒的に伸びています。

日本はずっと購買力平価ベース、OECD推計で見てもほぼ横ばいの中で、実は中国に圧倒的に差を付けられています。現在は、むしろ人口の少ないドイツや韓国といった国と競う状況になっています。

入れるものがなければ、出るのが下がってしまうという、非常にわかりやすい状況です。中国の投資の充実は、国際比較の面から見ても明らかです。

国際的な頭脳循環の中核を担う中国 

人材面ではどうだったのかをみてみますと、国際的な頭脳循環で、中国は中心的な役割を担っています。これも科学技術指標2021年版のものです。

高等教育(注:中等後教育)、専門学校、短大、大学、大学院、修士課程、あとは博士課程における留学生を、出身国別にみると、圧倒的なシェアを中国が持っています。図の左側が留学生の出身国・地域です。右側の棒グラフが受入国・地域です。

米国にとっても中国は主要な留学生の供給先で、中国は世界トップクラスの送り出し国となっています。英国にとっても同様です。また、日本にとっても同様です。さらにオセアニア、要はQuadの中で出てくるような国々、オセアニアに対しても中国は相当なシェアを持っています。

これは2017年のデータで、ちょっと古い状況でありますが、日米の研究の中心になっている大学院、特に科学工学、自然科学分野で見てみますと、実は大学院の院生は日本、または米国ともに圧倒的に中国に依存しています。途中で米国の数字が切れておりますのは統計上の関係です。

米国の場合、中国ともう一つインドが大きな人材の供給先になっております。日本は英語圏ではございませんので、中国一本打法。あとは近くの韓国から来ていただいているか、もしくはインドネシアといったような、近隣の諸国に頼っている思います。

とりわけ、理工系、自然科学、科学工学になりますと、米中ともに中国の人材は研究の中心的な担い手になっているといます。人材流動のフローの状況では、こうした状態です。これが年ごとに積み重なっていったとすると、どういうようなインパクトをもたらすかが、お話しの結論になります。

「サイエンスマップ」にみる中国の科学技術研究     

AI・IOTの社会実装の研究で存在感

現在の科学研究と中国の状況を俯瞰してお見せしたいと思います。実はこの3、4年で新たにデータとして見えてきた今の世界の科学研究の状況です。他の西欧社会、つまりヨーロッパや米国といった、かつての科学研究の中心地で起きた科学以外の新しいものを中国がつくったという歴史的な意義があります。

以下では、詳細については、割愛しますが、これはサイエンスマップと呼ばれる、科学技術・学術政策研究所でつくられていています。論文同士の引用関係を可視化し科学研究で盛んな研究分野・領域を地図のように表現し見せるようにしたものです。その中で、この4年くらいで、非常に顕著な変化が出てきておりますので、これを紹介したいと思います。

大体見ていただくと、白いところに出ているのがライフサイエンス、医学生物学などです。黄色の部分はナノテクとか、化学化合物とか、ナノサイエンスで化学とか、量子力学、素粒子、宇宙とかいったような、物理とか化学です。日本が強い科学研究のイメージの領域です。もう一つ見ていただきたいのは、AIとか、社会情報インフラ関連研究とか、エネルギー関係とかがあります。

4年くらい前までサイエンスマップには、AI関連の研究というのはごく一部を除きほとんど出ていませんでした。なぜかというと、AIとか情報系の研究は、国際会議で採択率が低い、超有名なカンファレンスで発表できるかできないかというのが研究者の競い合う、オリンピックみたいな場になっていることも影響しています。そういった中で、なかなか見えていなかったという状況がこの4年くらいで見えてきました。

これは何が影響しているかというと、中国の科学技術の台頭が影響しています。研究領域を指導する論文とここでは呼びますが、この領域の中心的になる大本の論文、一番中心に引用されている論文という意味に解釈していただければ結構です。

米中がそれぞれ50パーセントのシェアを占める研究領域をピンク色で図示することが、サイエンスマップのWEB版では簡単にできます。ざっと可視化してみましたが、左側の米国は、白い線のものが多いです。先ほどの地図でいうとどうなっているかというと、ライフサイエンス、要は生物学や医学といったところの部分が多いということがわかると思います。

一方、中国のほうを見ていただきますと、黄色い部分と赤い部分、つまり、物理・化学と大きくまとめてくくって示したところと、AI・IoTの社会実装という研究領域で、社会情報というようなテーマの研究でコアペーパーが多いという特徴があります。

米国がNIHをつくって以来、第二次世界大戦後、ライフサイエンスという科学領域自体を創出してきたわけです。この科学の地図上で見ると中国は、AI・IoT分野、さらにその社会実装という領域で新たな科学領域を創出していると考えられます。

つづく