お知らせ

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第142回・21世紀構想研究会の報告

2018/08/15

 第142回の研究会は「第4次産業革命と未来の栄養学」のタイトルで、女子栄養大学副学長の香川靖雄先生に講演していただきました。

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 朝食がこんなに重要だったんだ・・・

 第4次産業革命が波及することによって、今後20年で702の職業のうち約半数はなくなると言われていますが、栄養士は残る職業の11位とのこと。今回は、その理由だけでなく、体内のしくみ、食事と健康の関係性に触れながら、朝食に関する正しい知識とその重要性、および未来の栄養学についてのお話しでした。

 

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 まず、現代の食文化は「フードシステム」というしくみが出来上がっていること。そしてその裏方のコンピュータとは非常に親和性が高く、集められたビッグデータの分析により、売れることを大前提とした食品を作り上げています。

 

国民健康・栄養調査結果によると、我々消費者が食品を選ぶ条件は、味が第1位で栄養価は7番目。そのようなビッグデータの分析により販売される食品は、当然おいしさを優先したものになります。

 

その結果、日本人の栄養状態は悪くなっており、なんと、国が定めた推奨量の6割程度の栄養価しか摂取していない。健康ブームが長く続いており、現代は健康になっていると思っていましたが、逆の結果となっている現状にショックを覚えました。

 

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 からだの仕組みと食事のリズム

 次に体のしくみについてです。我々の体内は中枢時計と末梢時計を持っており、中枢時計が光を感じて昼夜のリズムを刻み、末梢時計は食事のリズムと関係しています。

簡単に言うと朝陽と朝食によってそれぞれの時計のリズムが形成され、2つの時計が同調することで人間の活動力が高まるそうです。

 

朝食を適切な時刻に取ることが非常に重要なことを、時間栄養学に触れながら理解できました。不規則な食事は抹消時計が狂い、中枢時計と同調できずに体調の乱れなど不健康の元になります。

 ここから、朝食の重要性についてインパクトのある話が続きました。

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 先生のお話は、時間栄養学の観点から朝食の重要性の説明に入りました。朝食摂取後の新陳代謝の活性化は、遠赤外線サーモグラフィーで見ると一目瞭然。また、朝食は心身の活動の栄養になるが、夜は肥満に消費されるとのことです。

 

他にも、朝食欠食者と朝食摂取者の体重は等しいが、朝食摂取者のほうが体力テストでも好成績、学業成績も高い、等々、統計データを用いた説明が続きました。

 

朝食をとらないと後になってつけが回ってくる

 ここまで朝食を摂取することの優位性を説明してきましたが、今度は逆に朝食欠食の害についての講義内容でした。

 

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朝食欠食は、

 ・20年後にその影響が表面化する

 → 高LDLコレステロール、高血清インスリン、動脈硬化有病率が増す

つまり生活習慣病の発症率が高いそうです。

 

そして、遅い夕食は、

 → 肥満・糖尿病を誘因する率が高い、高頻度で肥満者が多いそうです。

 

また、食事はゆっくり食べることが大切。食事速度が速いほど肥満・糖尿病のリスクも上がります。

食べる順番にも言及がありました。野菜を先に食べることで血糖値の上昇を防ぐことができます。

コーヒーとパンだけの朝食は、栄養バランスも悪いし、時計遺伝子のリセットには不十分です。更に白人と西欧人の食生活を比較すると、日本人は古来からの朝食がよいことを示唆してくれました。

 

 ここで、香川先生が関わっている埼玉県坂戸市の朝ごはん摂取運動の活動事例の紹介があり、なんと朝食欠食率(男性)が全国平均54.2%に対し坂戸市では14.4%まで改善されたとのことでした。

成人式で冊子配布をするなど、地道な活動の成果だと思います。

 

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 21世紀の食生活の価値を高める知恵

 最後に、21世紀の話です。

 第4次産業革命により今後20年で、702の職業のうち47%は失業するという話がありますが、日本の社会は人手不足であるため、早く第4次産業革命で自動化する必要があるということです。

 

栄養士は残る職業の11位ですが、その理由を一言で表すと食事は「愛情」であり、機械化・自動化できない部分があります。栄養士の仕事はビッグデータやAIによる自動化できる部分とできない部分があるということです。

 

 第4次産業革命は医学・栄養学にも大きな変革になるもので、すでに糖尿病重症化予防でIoT活用による実証実験も始まっており、その効果の検証もしているとのことでした。

 

結びに、今日の振り返りです。

「時間栄養学で健康寿命を延ばす方法」

①  食事

  時刻: 朝食を必ず取り、夜食は避け、朝::=3:3:4の比率で

  速度: ゆっくり120回は噛む

  順序: 野菜から先に食べ、炭水化物を後に取る

  栄養バランス: 1日や1ヵ月のトータルではなく、毎食の栄養バランスが必要

  GI(グリセミックインデックス):胚芽米、繊維を取る(血糖値の上昇度合が低い食品)

②  減量: 1月に体脂肪1kg=腹囲1cmが目安、骨密度と筋肉量維持すること

③  運動: 18000歩、運動時間は分割(こまめに)、速歩20分、筋トレを加味する

④  休養: 毎日7時間睡眠、短い昼寝も可。座業は体を動かし休みを取る

⑤  精神: 抗ストレス、瞑想。日常の社会活動と交流

 

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1時間という短い時間の中にこれだけ内容の濃い講演に、参加した皆さんは大いにためになり、これからの健康食事、生活習慣への注目度を高める素晴らしい講演でした。

香川先生、ありがとうございました。

(文責・21世紀構想研究会事務局・渡辺康洋)