お知らせ

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第147回・21世紀構想研究会の報告

2019/04/23

「日本を国民主権国家にするには一人一票実現が不可欠だ」

升永英俊弁護士(一人一票実現国民会議代表)

 2019年3月6日(水)

今年は12年に一度、参議院選挙と統一地方選挙が重なる「亥年選挙」の年です。しかし、7月に実施する参議院選挙が違憲だとしたら?いえ、すでに今回の改選対象となる6年前(2013)の参院選も「(一票の格差があったため、)違憲状態である」との最高裁大法廷の判決(2014)が出ています。いまだに違憲状態が続く中、この状況を打破すべく全国民公平な「一人一票」実現のための活動を続ける 升永英俊 先生に講演いただきました。

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 一票の格差

現在の日本は、住んでいる地域(選挙区)によって一票の格差があります。

201810月の衆議院選挙(小選挙区)を例にすると、神奈川3区は人口544516人、この選挙区から一人の衆議院議員を選んでいます。一方、一番少ない選挙区人口の鳥取2区は283500人ですが、ここでも同じく一人の議員が選ばれるのです。倍近い人口の差があるのに、一人しか国会に送れない。これが平等と言えるのでしょうか?一票の価値を換算しますと、神奈川3区は鳥取2区に比べ0.5票の価値しかない、つまり一票の格差は2倍となっています。

この状態は日本国憲法に違反していると言えます。立憲民主主義の基本である「多数決」は、すべての有権者が平等の立場で行なうことを前提としています。これが守られていない状況なのです。

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一人一票裁判

一人一票裁判は升永先生のグループが、選挙のたびにすべての高等裁判所(支部を入れて14ある)2009年から訴えを提起している活動です。

特に2013年以降は、衆議院すべての選挙区289、参議院すべての選挙区45で原告が立ち、14の高裁・高裁支部で一斉に訴えを起こしました。

 

 越山康先生の存在

なぜ一斉に裁判するのでしょうか?

それは時代を少し遡りますが、そもそもの一人一票裁判というのは、まだ升永先生が大学生の頃の1962年、越山 康 先生が、司法修習生のときに一票の格差について参議院選挙の無効訴訟を起こされています。それ以降、越山先生は2009年に亡くなるまで現役で生涯この裁判を続けられていました。升永先生のグループは、越山先生が亡くなる数か月前に、伴走する形で裁判を起こしました。

越山先生は、昭和51(1976)の最高裁大法廷で「憲法に違反するが、無効ではない」という歴史的な判決を引き出しています。しかしこの『(選挙は)無効ではない』という部分、憲法違反なのに無効ではないとはどういうことか。それは、この裁判は千葉4区だけが対象でした。もし選挙を無効にすると、千葉4区のみ議員不在になります。そうすると千葉4区の住民の声が国会に届かなくなる、という配慮(理屈)から「無効にしない」と言っているのです。(当時、中選挙区は170ありました)

そのような理屈をつけられないようにするには、全選挙区で裁判を起こせばよい、全選挙区でやろうではないか!ということで、一人一票実現国民会議の発足となります。このとき、伊藤 真 先生が加わりました。

 タフな伊藤真先生

ここで、伊藤先生の話になりますが、

「憲法の伊藤真」と呼ばれており、日本の裁判官の8割以上、伊藤塾に通って司法試験に受かったんじゃないかというくらいの人物。去年だけでも130回以上、全国で憲法の話を手弁当でされている。とにかく普通じゃないタフなこの先生は、予備校の先生でもあり、37年に渡って 久保利英明先生と升永先生とともに活動してきました。

これらの強力なメンバーが加わわり、全国で一斉に裁判を起こすことにより、「無効ではない」という判決を出せない状態を作りました。

 

全選挙区裁判のもう一つの効果

昭和51年当時、まだ比例代表という制度がありませんでした。

中選挙区の議員がいなくなるとその地区の代表となる議員がいなくなってしまうという不都合なことが起きてしまいますが、昭和58(1983)に比例代表と小選挙区の並行制度(小選挙区比例代表並立性)ができました。つまり、小選挙区すべての選挙が無効となった場合でも、比例代表の議員が国民の代表として存在するわけで、無効の判決は出せないという論理です。

 

繰り返しになりますが、無効判決により全小選挙区から衆議院の代議士がいなくなって社会的混乱を起こしてしまうと思いがちですが、衆議院の比例代表は176人いるわけですから、比例代表の議員だけでも衆議院は機能しますし、参議院も比例代表の議員がいれば機能するということです。

比例代表は一人一票を実現しているので、違憲な状態は回避できるのです。

 

と、いうわけで、全国で原告が立つということで、今までとは争点が変わりました。もう「無効ではない」という言い訳はできない。憲法98条にあるとおり、憲法に反する選挙はその効力を失うということです。

 

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  一票の格差、アメリカは?

神奈川3区は鳥取2区では約2倍の格差があることを説明しました。

ではアメリカはどうでしょうか?

ペンシルバニア州の米国連邦下院選挙(小選挙区)の選挙区割は646372人、最小人数の選挙区は646371人で、差が一人です。これは人口に比例しているといえますが、神奈川3区と鳥取2区の差26万人は人口比例しているとはとても言えません。

それ以外でもニューメキシコ州では1つの選挙区が686393人、3つの選挙区がありますがどの選挙区も同じで人口比例。フロリダ州も696345人で1人しか差がない状況です。

ほとんどの方は、「人口比例は技術的にも無理なんじゃないか」と考えてしまうものです。戦後72年このような選挙が続いていますが、アメリカがこのような選挙をしているとは日本人は誰も知らない。だが、このアメリカの事実は、人口比例ができることを証明している。

  閑話休題

日本は多数決主義のため、衆議院、参議院のどちらとも過半数を取ったほうが、右であれ左であれ、勝ちになります。だから日本では過半数を取るという政治が戦後73年間続いています。それが人口比例してないということは、多数決の原則が崩れているということになるのです。

ではここでクイズ、一票の格差、先の説明で27万人の差があり人口に比例していないことがわかったと思いますが、国会議員の過半数を人口の何パーセントの国民が選んでいるかわかりますか?わかる人、いらっしゃいますか?

→ 1人目の解答者:30%くらい

2人目の解答者:23%

なかなか厳しい数字が出ましたが、これは48%なのです。48%の人だけで多数決を取って公平と言えますか?

 

 まとめ

実は48%の国民が国会議員の50%選んでいる。これは、平成28年からアダムス方式という人口比例の選挙方式が実施され、選挙区割りを変えるという法律に変わった結果です。

実態として48%まで上がってきた。これは元々がこんなにいい数字じゃない、もっともっと悪かったのです。

越山先生が生涯頑張ってきて、升永先生が引き継いだ時は46%だった、それから2ポイント上げた。これが実態です。

もう一方の参議院はもっと惨めだったのですが、越山先生が50年間裁判を続けられて、その結果国民の40%が国会議員の50%を選ぶという状態まで上がってきました。だが升永先生たちが2009年から全国で裁判を起こして、40%が去年の選挙では45%という状態となりました。それでも45%、衆議院と比べると非常に悪い。これを、この45%を、50%にしないといけない。また衆議院の48%も50%にしないといけない、これが我々のやらないといけない仕事なのです。

 

升永先生の言葉が熱を帯び、最高潮になったところで、講演は終了となりました。

引き続き、QA・意見交換のコーナーに突入です。

  意見交換/QAコーナー

  ※ Qは聴講者、Aは升永先生です。

  まずは馬場理事長からです。

Q:48%から50%に上がるまでには、まだまだかかると思うが、先生は楽観論ですか?

A:400年はかかると思っている。その400年が10年でできたので、楽観論で見ている。

Q:10年でここまできたことはすごい。一人一票の活動には当初から賛同してきた、構想研でも一度、講演していただいている。

 

次に長谷川芳樹理事から

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Q:アメリカの例で出た人口で1人の差だったが、選挙の度に確認しているのか?

A:アメリカは10年に1回の国政調査の結果で決めている。毎回は確認しておらず、割り切った対応をしている。

Q:選挙区を変更する際には、ゲリマンダーの可能性があるのではないか?

A:ゲリマンダー問題は1790年頃から指摘されている。今でもそうだ。ゲリマンダー問題も合わせて升永戦え、とよく言われるが、ひとつひとつ進めるべきで別の問題と考えている。近々、米最高裁で ゲリマンダーは違憲であると判決が出そうだ。

Q:アメリカは是正するという風土がある。日本は政治家が選挙区をいじるので、政治の怠慢で50%にならないと言われているが、この問題を叩かない地方に問題があり、地方は忖度しているのではないか、「地方よ、もっとしっかりしろ」、と言いたい。

A:まったく同感である。アメリカでも一人一票問題が裁判で1964年に違憲だとされた(レイノルズ判決)。当時、アラバマ州では16倍あった。アラバマが合衆国に加入して160年たつがこの状態が続いている。
この問題は、選挙を何度繰り返しても政治家では解決できない。理由は簡単、法律を作る人が利害関係者だから。
日本の場合は全員が利害関係者となっている。これでは是正されるわけはない。アメリカでも160年間、山は動かなかった。動かしたのは裁判所の力。投票(民主主義)ではどうにもできない、政治の力では無理だ。

 

  ここで再び馬場理事長

Q:日本では選挙区を行政区で区割りしているが、人口比で選挙区を作ってみるとどうなるか、試算したことがありますよね?どのようになるのでしょうか?

A:東大法科大学院の学生ウスイさんが作ってくれたものがある。衆議院では1.011倍、参議院では1.00008倍、にできる。日本でもやれるということだ。

Q:日本で実現するか?ゲリマンダー等の利害関係者が絡むので難しいのでは?

A:できないならできないでかまわないと思っている。アメリカには比例区がないが、日本には比例区がある。比例区があれば一人一票は実現できる。先ほどの質問でもあったが、ゲリマンダー問題は別にしないと一人一票は進まない。

 

ここから質問が活性化していきます。

Q:比例で選ばれた議員は選挙公約を守る必要があるのか(いわゆる、選挙区のひも付きとなるのか)、それとも国全体を考えて行動してもよいものなのか?

A:憲法の解釈だと、全国民を代表して行動してよい。選ぶところだけ人口比例であればよい。

 

Q:「違憲だが無効ではない」とは、すり替えられている感じがする。受け止め方として腑に落ちない。

A:同意見である。理屈になってない。最高裁は理屈を言うところではないし、法律論ではない。「憲法は条文であり、その解釈は最高裁の判例である」という考え方をしている。このような中、48%までもっていったことはすばらしい努力だと称えたい。国家に抵抗した運動はいくつもあるが、この訴訟だけが前進している。このプラスの面を評価したい。負けっぱなしではなく、少しずつ進んでいる。あと2%でそのギャップは埋まる。

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Q:池袋の殺人事件で身を挺して止めたり、「中村修二青色LED職務発明相当対価請求事件」の弁護など、升永先生の生き方に興味がある。社会正義を追求してルールを変えたい、という信念のもと活動しているのか?そのあたり、生き方、考え方を教えてほしい。

A:今76歳だが、毎日死ぬことを10回以上意識している。死ぬまでにやりたいことは、50%にもっていくこと、あと2%、体の動く限り取り組む。4年前の段階でこの件に15000時間使った、現在では2万時間は使ったであろう。それくらい値打ちのあるテーマだと思っている。
もし余力があれば、あと2つ、やりたいことがある。
父と祖母は病院で亡くなった。病院は完全看護だったが手をベッドに縛られていた。深夜等、経費節減のため看護師は一人で数十人の患者を担当しており、ベッドから落ちると困るからと、安全面に配慮したという理由で手を縛る。なぜこのようなことが認められているか、それは最高裁で治療行為の認めた判例が出たから。人間の尊厳に関わると思っている。この件が事件になれば個人の人権の話になるので、自分が担当し訴訟を起こせば必ず勝てる自信がある。余力があれば取り組みたい。
もうひとつは、次の機会にお話ししましょう。

 

   馬場理事長も升永先生のお人柄について話します。

   升永先生を有名にしたのは、日亜化学を訴えた中村修二先生の青色LEDの訴訟で200億円を勝ち取ったもので、知的財産権の価値が高額であるということに日本中が驚いた。雑誌のランキングでは稼ぐ弁護士のトップに載っていたこともある。このお金、どう使っているのか不思議だったが、一人一票の意見広告を214本も出すと非常に高額になるのではと納得した。

升永先生は母親の詩集を出版したりと、非常にユニークだ。裁判の準備書面でも、どんな裁判官でも一人一票を理解できるのではないか、と思うほどの資料を用意する。生き方の一部を垣間見ることができる。

 

     最後に荒井寿光アドバイザーから総括です。

20年前に升永先生と会った。当時、日亜化学の200億円の裁判の代理人をされており、一般の企業では発明の報奨金に2万円程度もらって喜んでいる時代に200億円、100万倍の額を勝ち取った。それでアポを取ってみたところ、いつでも良いという返事だったので早速会いにいってみると、寝袋で床に寝ていた。なぜ寝袋?と思ったが、訴訟に勝つ方法を考え抜くためには、思考に割り込みが入らぬよう、事務所に寝袋を持ち込んでいるらしい。1週間も1か月も考え続け、200億円を勝ち取ったのだ。もちろん先生は朝、ホテルオークラのプールに行き、入浴はしていたが。誰も頼りにならないので、民主主義を守るために、自分でずっと考えるという人だ。

そのとき、私は升永先生から「知財をしっかりやれ」と言われ、知的財産高等裁判所を作った。

裁判官にインパクトのある資料を見せるため、文字を拡大したり、色を付けたりと、工夫を重ねている。裁判官はその挑発に乗ってしまい、資料を熟読したであろう。新聞広告も自費でやっており、日本の民主主義を作っている立派な人だ。

そして、スキーや自転車などもこなし、気力は40歳、体力30歳。あと25年といわず、400歳まで生きることだろう。これからも先生のご活躍を期待する。

 

以上で講演は終わりとなるところ、馬場理事長が

『今日の講演を1字で表すと「鱗」ですね。』と、配付資料である裁判の準備書面を指さしながら締め、お開きとなりました。

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報告・21世紀構想研究会事務局 渡辺康洋

 写真・21世紀構想研究会事務局 福沢史可