お知らせ

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第153回・21世紀構想研究会報告

2020/03/05

どうなるイギリス!? ~EU脱退後の経済と社会~

 川野祐司(東洋大学経済学部国際経済学科教授)

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 どうなるイギリス?というタイトルなのですが、どうなるのか誰にも予測できない。ジョンソン政権は本当に真面目に交渉をする気があるのか。今そういう状態かなと思います。

 今日は、数年前までさかのぼって、まず一体何が起きたのか。イギリスの国民はもうこの問題うんざりしています。今イギリスのBBCを見ても、この問題よりも、王子様がカナダに行っちゃったというニュースのほうがよっぽど重要なニュースになっています。

 イギリスはEUにもう30年以上入っているわけですが、そこに不満があったのかというところから見てみたいと思います。こちらはGDPの2001年、ちょうど21世紀の初めを100として見ていきますと、明らかにイギリスのほうが高いです。経済上の問題があるからEUから出るということはなさそうです。

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 国民投票後、EUの出身者はイギリスにはあまり入ってこなくなりました。一方、ノンEUは増えています。ただし、アジアの人たちは留学生が多いです。留学生は2,3年するとイギリスから出ていくし、今中国人の留学生がすごく多いですが、彼らは何しろお金持ちだから、イギリスにとっていいことです。

 イギリス人がブロックしたいのは、いわゆる低賃金労働者とか、単純労働者です。今世界では、非常に能力が高い人は取り合いになっています。日本もそうです。高度人材には入ってほしいと言っています。能力の高い人たちをどんどん招いて、活躍してもらうというのは大事なんですが、イギリスはそういう能力の高い人から見放される可能性がある。

 国民投票の結果です。年齢が高ければ高いほどEUから脱退したいということです。10代、20代、30代くらいの人は、残ったほうがいいでしょうという話になります。都市部の人たちは残留派です。

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 シティではどういうことが起きているか。こちらは皆さんの表に出ていると思うのですが、ロンドンで働いている金融関係の人たちの推移ということで、マイナスが2016年以降続いているということです。

 つまり、金融マンがちょっとずつ減っているというのがこのロンドンの状況ということで、このシティは今世界ナンバーワンだけど、この先どうなるんですかというのが話題になっています。私は、シティの順位は下がると見ています。ニューヨークに抜かれて、1位から2位になります。しかし、ニューヨークとロンドンの差ってあまりないので、ちょっと抜かれるというくらいだと私は思っています。

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  ここからは質疑応答に入ります

参加者:

ありがとうございました。お話大変わかりやすく、詳しいお話を伺ったのですが、今一つ、なんのために脱退するんだというのが正直ストンとこないところがあるのですが、しかし、それは議論をしても仕方がないというお話だったものですから、それはさておいて、これからの流れがどうなるかという目で見た場合に、同じEU圏内でも、ポピュリストであるとか、極右であるとか、政治情勢が非常に流動的で多様化しつつあると。そうすると、場合によってはEUというヨーロッパの統合形態を描いてきた、ある種の理念があって、それを遂行していくということがだんだん難しくなるという懸念もあります。その場合に、イギリスが一足先に出ちゃった。いろいろ苦労はするけれども、イギリスは出た結果、特段のダメージを受けずに、独自の成長力がなんとかやっていけたということになったとしたら、今のEU加盟国の中で、そういう全然統合理念と違う動きが政治情勢では出てきた場合に、じゃあ俺たちも出ようと。そのほうが自分たちの考え方をより一貫してできるから、イギリスのようにダメージを受けることがないんだったらそうしようじゃないかと。そういうのが続々と出てきやせんかなという心配もあるんですけど、ここらへんはどういうふうにご覧になっていますか?

川野:

皆さん最初のほうのグラフを見ていただければと思いますが、イギリスは、経済的に見るとやはり特別だったということがいえます。一番最初のGDPのグラフとか、失業率のグラフを皆さんにお見せしたと思うんですけど、こういう動きをしている国ってはっきり言ってイギリスだけなんです。イギリスは出てもやっていける。私もそう思います。じゃあイタリアがEUから出たらやっていけるかと。それはイタリア人はやれると言うかもしれないですけど、イタリアのリラが復活しちゃったらもうたぶん天文学的な数字が出てきます。ギリシャが脱退したら。皆さん、ギリシャの通貨覚えていますか? ドラクマというんです。フランスでさえ、この前大統領選挙で、一番最後の最後でなぜルペンさんが駄目だったかというと、はっきりと反EUを最後まで言えなかった。言い切れなかったんです。つまり、フランスでさえ最後まで言い切れないんです。もし今EUから出て、やっていける国があるとしたら、ドイツしかない。ドイツはたぶんやっていける。しかも、ドイツが抜けたら、周りの周辺のチェコとかをついてきてくれて、EUを自分たちでつくれる。フランスが抜けたら誰がついてきてくれるんですかということになると、フランスはもう自信がない。ということになったら、これはイギリスだけの特別な事情だと思います。つまり、他の国は政治家はみんな吠えるんです。だけど、現実的に脱退できて、あなたユーロから外れますよと言われた瞬間に、ルペンさんですら外れていいよと言えなかったということですので、たぶん政治的にはいろいろあるんでしょう。私政治詳しくないんですけど、あるんでしょうけど、脱退に向けて現実的な動きをする国は出てこないんだろうというふうに思っています。

参加者:

ありがとうございます。たぶんそうだろうと思うんですけど、今おっしゃったように、ドイツが唯一の独自のポテンシャルを持っている国なんだと。逆にいえば、ドイツのポテンシャルでギリシャその他支えられているという実態がありますよね。そうすると、そういう実態に対するドイツ国内での問題というのがどれくらい悩ましくなるのかなという、ちょっと心配もあるのですが、そこは予測の話なのでもうこれ以上は結構ですけど。

川野:

予測でいいんだったら。ドイツとEUとの関わりが大きく変わったのは、2005年あたりからだと私は考えています。戦後ドイツはどうだったかというと、皆さんご存じのとおり、2回も戦争をやっちゃって、ナチスの問題が出て、ドイツというのはフランスが出す枠組みに積極的に従うと。私たちの権益はどんどん譲ると。マルクもいらんと。だからみんなドイツのことを信用してねというのがずっとドイツのやり方だったわけですが、先ほど2004年、欧州憲法という話をしましたけど、それ、フランス人がつくったんです。ジスカール・デスタンがつくったんですけども、それがフランスでこけて、そして、東ドイツ出身、科学者、女性と、しがらみがないとは言わないですけど、そんなもの知らんと言える人がドイツでメルケル首相という人が出てきたと。そこでヨーロッパの政治の状況ってちょっと変わったなと私は見ていて、それ以降ドイツが全てを進めていく形になって、どっちかというとフランスのほうが情けなくなっちゃったと。フランスが進めていたEUというのが、ドイツが進めたEUというふうに変わってきたと考えています。そうなって、ドイツ国民たちも、昔は自分たちは2回も戦争を起こしたし、ヒトラーに投票したし。だから、刺されてもしょうがないと思っていたのが、その頃くらいからを境に、どうして自分たちの権利が認められないのかとドイツ人たちが言うようになってきているんです。特に若い人たちはあまり戦争のことを知らないので、私たちの権利をもっと認めてほしいと。なんでギリシャのために増税されないといけないのかと彼らは言いはじめて、今ドイツのための選択肢という極右政党がありますけど、ドイツの全ての州議会選挙で議席を持っています。持っているどころか、主要政党になりつつあるんです。今おっしゃられたような問題が出てきていて、その人たちが本当に第2党、第1党になったときに、ドイツはEUと協力するのかというのはちょっと疑問があるというふうに私も思っています。ドイツについてくるんだったら支えると。でも、一言でも文句を言うんだったらもう知らんという可能性があるかなと思っていますけど、2020年代の後半になったら、もしかしたらそういう問題が出るかもしれない。予想ですから外れても文句を言わないでください。以上です。

司会:

今日はドイツの専門家は来ていないかな。ちょっとコメントを聞きたかったのですが。荒井さんは何かありますか? 荒井さんのコメントを聞いた後、学術研究の立場から、中尾教授。後で発言の機会を与えますので、よろしくお願いします。それから福岡先生。医学研究ではやはりイギリスは世界のリーダーをずっと保ってきていますけども、EU脱退などで何か影響があるのかとか、そういうことでコメントがあったら、後でお願いします。それではアライさん。何か一つ。

 

荒井寿光:

非常に総合的なお話、ありがとうございました。ヨーロッパが、要するに、こういうことでもういっぺん国際政治的に見て強くなるのか、弱くなるのか。たぶん今より20年前、30年くらい前だと、アメリカに対してきちんとヨーロッパがものを言って、しっかり世界がコントロールできるように、いい意味でのコントロールに発展しようと。秩序づくりに、ヨーロッパは大変貢献したと思うのですが、最近の10年間くらいはヨーロッパもほとんどそういう意味でのプレゼンスが減っているんじゃないかということで、突然アメリカのああいうアメリカファースト的なものが目立っているけれども、アメリカはずっとああいう国なわけで、しかし、それに対していつもヨーロッパの知性というか、理性みたいなのがあって、世界の国の国際的な安定というか、発展の基盤ができていたと思うのですが、この10年くらいは、ヨーロッパが非常に静かになって、内向きになっているじゃないかと。それで今回こういうことになったら、英独仏の体制がさらに弱くなるんじゃないかという気がしまして、国際政治的に見て、マイナスもそうとうあるんじゃないかと。もうちょっと本来ヨーロッパがしっかりせにゃいかんところ、今アメリカファーストのトランプさんと世界強国になるという習近平さんが、そっちだけでやって、独裁者2人がやっているような面もあると思うので、こういうところはどんなふうに予想を、当たらなくていいですから、ご覧になって聞きたいなと思いまして。

川野:

私は政治が専門ではないのであれですけど、21世紀になって、もう一つ見ないといけないのは、グローバルな社会といったときに、昔は欧米だったんです。そこに日本がちょっと入ってだったのですが。21世紀に入って、もっといわゆるアクターの人たちが増えてきて、やはり今G7じゃなくてG20になってきているんです。なので、そもそもヨーロッパとかアメリカの比重が下がる分だけ、そこの間は中国だとか他の地域が出てくるというのは、それ自体は正常な流れなので、相対的にヨーロッパが弱くなったように見えるというのはそういうことかもしれない。ただ、それ以上にヨーロッパが内向きだといわれるのはまったくそのとおりで、ヨーロッパは外のことを考えたことは、少なくともEUを見ている限りほとんどないと思われます。アメリカに突っつかれてしょうがないから答えているだけで、彼らの関心はいつも中をどうするかということにしかなくて、今フォン・デア・ライエン内閣で他にやろうとしていることは、国境管理、これをやりましょうと。つまり、EUの中と外をはっきりさせましょうと。こういうのもけっこう上のほうの課題になってきていまして。私は実は昔からヨーロッパは、国際政治とか国際秩序の中で、自分たちの都合のいいところは出るんだけど、全体的に関わっていて責任を持とうと思っていないのではないかと。自分たちが良ければ良くて、自分たちに関心のある話題だけ口を出すと。そういうスタンスは、実は今も昔もあまり変わっていなくて、逆に中国とか新興国が出てきたのでもっと下がっているように見えるのかなと思っています。専門じゃないので、なんでも言えますので。以上です。

司会:

ありがとうございました。中尾先生どうぞ。

中尾政之:

どうもありがとうございました。僕は工学部でものづくりみたいなことをやっているのですが、イギリスの大学から学生さんなんかも、今論文を書くのでも、国際的なインターナショナルに何人かやったりとか、EUはプロジェクトがいっぱいあるから、いろいろ、ドクターの学生なんかは渡り歩くような感じになっているんです。そうしたら、イギリスの大学はマイナス30パーセントくらいで、みんな行かなくなっちゃったんです。それで、ドイツばっかりこの頃行くようになっちゃって。ただでさえイギリスに行って、あまりしょうもない産業しかなくなっちゃったので、またドイツだけになる。論文が、リファレンスなんかやって、どうせみんな英語だろうと思うと、ドイツ語の論文が機械工学のあたりはバカバカあって、僕読めないんです。迷惑だな、ドイツ語ばっかりって、勝手に翻訳しろよという感じで、英語で書いてくれないんです。それだから、ドイツだけは偉そうにしないために、と思うんですけど、どうなんですかね。大学なんかはあまりいまいちなんですかね。

川野:

そんなことはないとは思うんですけど。経済学では、やっぱりみんなイギリスに行きたいと言いたがるので。ただ一つ、ドイツってインダストリー4.0という取組みを進めていますよね。あれで研究者をたくさん集めて、いろいろな研究をしてもらっていますから、ちょっと集まりやすいのかなというのは思いました。インダストリー4.0というのはいわゆる第四次産業革命というやつで、日本のような匠の技がなくても、多種少量生産で大量生産と同じコスト。しかも、より効率ということをやっています。例えばアディダスという会社がありますけど、中国の工場を閉じちゃって、ドイツに工場を戻しちゃったんです。お店で足のを全部測ると、そのデータがその瞬間に工場に飛んで、カスタマイズされた靴が2、3日後には届く。中国だと時間がかかるということです。それはシステムができていて、一つのシステムに乗っかっちゃっているので、中国でつくるのとそんなに変わらない値段でできると。そういうシステムを全産業で入れようとしているのが今ドイツでして。それで、工学系の人はドイツに興味があるのかなと。それはただ今思っただけです。

中尾:

ドイツが圧倒的に勝ちです。だから、学会に行っても、ドイツの研究者が日本の倍くらいですね。前まではずっとドイツと日本は同じだったんですけど、ドイツが勝って、もうイギリスなんかいないですよね。イギリスから出てくる人はみんな中国人になっています。だから、イギリス人ってどういう人だっけ?という、そういう感じ。

川野:

ありがとうございます。次の本でそういうのを書かせてもらおうかなと今思いました。ありがとうございます。

司会:

ありがとうございました。福岡教授、お願いします。

福岡秀興:

素晴らしいお話をありがとうございました。私は産婦人科の医者で、経済的なものは私よくわからないんですけど、今日お話を聞いて、世の中の動きをよく知っておかないといけないということを改めて痛感いたしました。私の専門は産婦人科ということで、医学の中でも非常に狭い範囲なのでなんとも言えないのですが。私が興味を持っているのは、イギリスで小さく生まれた子どもさんは、将来的に非常に生活習慣病のリスクが高くなるということを初めて言いはじめたのが、やはり、イギリスのバーカー先生なんです。私、バーカー先生を見ていますと、アングロサクソンというのが大変な人類、種類の人たちだといつも思います。といいますのは、彼がこの説をとなえはじめたときは、非常に研究費もなくて厳しい状況でした。世界からすごいバッシングを受けていたんです。ですけど、何があっても、一旦思ったことはどんなことがあってもやり通すという、そういう意識を持って、今この考え方というのは、世界の将来的な医学の中心になりつつあるんです。そういうふうに伺いますと、イギリス人を本当の研究者だというのは、自分の目で見てこれが正しいと思ったら、どんなことがあったとしてもやり遂げるような、そういう種類の人ではないかと思います。先ほど、馬場先生が、おっしゃられたノーベル賞というのは将来的にもかなわないだろうと言われた予想、私はそのとおりだと思うんです。それはアングロサクソンという性格というんでしょうか。物事に対する考え方が、少なくとも日本人とはまったく違っていて、逆にいうと、一旦彼らはこれがいいと思ったら、どんな経済的な貧しい状況が起こったとしてもやり遂げるという、そういう種類の人ではないか。そういう意味では、逆に新しい医学の考え方というのは、どうしても、私は、歴史的に見ると、イギリスの本当に研究費の少ない、貧しい環境でも見てきたという、そういう人たちのように思います。だから経済的に研究費が少なくなった場合には、それは一時的には研究成果が上がらないかもわかりません。ですけど、それはやり抜くような、私は経済的なものというのはわかりませんが、将来的に、やはりアングロサクソンがいろいろなところに行くかもわかりませんけど、基本的には新しいサイエンスをつくっていく。特に生命科学に関してつくっていくんじゃないかという、そういう期待を持っている次第です。

川野:

ありがとうございます。私、生まれたときが2,300グラムだったせいで自分が太っていると今思っていますので、そうかと。イギリス人には優秀な人がたくさんいると思いますから、まったくそのとおりだと思うのですが、そこは政府が彼らをとどめる。さらに外国人の優秀な人も呼び込む。そういう何もしないと彼らは失望しちゃうので、何かやっぱりする必要があるのかなというのが私からのメッセージです。それで、イギリス人はイギリスにとどまり、さらに優秀な人が外国から来てくれれば、イギリスは悲観する必要はないのですが、今ちょっとその傾向が見えないかなというところが現状です。

文責・馬場錬成