お知らせ

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第160回21世紀構想研究会・報告

2021/03/07

開催日 2020年10月17日(土)午後4時―同6時 ZOOM開催
演 題 「46歳記者がデジタルジャーナリズムの世界で見たもの 新聞の未来はどこにあるのか」
講 師 坂井隆之(毎日新聞統合デジタル取材センター副部長)


坂井 本日は、現在の新聞社、新聞記者が直面している状況をお話しさせていただき、皆さんからもぜひご意見やご質問をいただければと思っております。

新聞記者としての経歴
私はほぼ20年間にわたって、毎日新聞記者として新聞報道に携わってきました。いわゆる夜討ち朝駆けを含めた取材合戦に明け暮れ、いかに他社に先駆けて特ダネを取るか、あるいは企画記事を紙面に大きく載せるかに多くの時間を費やし、とにかく紙面で読者に届けるということを、日々しのぎを削ってやってきました。
所属は経済部がほとんどです。1998年に入社した頃から経済部を志望し、2003年に経済部に参りまして、日銀とか金融庁、財務省といった定番の取材先をぐるぐると回りまして、2012年から4年間ロンドンで特派員をしておりました。
ロンドンの特派員時代には、イギリスのEU離脱を問う国民投票の取材をした経験もあります。2016年の秋に経済部に戻ってきて、その後経済部
副部長、いわゆるデスクをやって、そして2020年4月に、統合デジタル取材センターという現在の持ち場に異動し副部長、デスクとして仕事をしております。

激減する新聞部数
まず、新聞業界が今どういう状況にあるかを数字で示したいと思います。皆さん、よくご存じだと思うのですが、新聞読者というのは劇的に減っております。

新聞協会の数字では、2000年には全国で5371万部発行されていました。単純に言えば、人口でいうと半分、平均2人に1人くらいは新聞を読んでいたということになります。
それが、わずか19年間のうちに、3781万部まで30%も減った。読売新聞と朝日新聞を足したくらいの数字が消失したということです。
それでもまだ3700万部あるのかという見方もあるかもしれませんが、20年前までは1世帯あたり1.13部を取っていたので、1世帯で2紙取っている家も昔はけっこうあったんです。私の子どもの頃も我が家で2紙取っていました。地方紙と全国紙を取るとか、全国紙とスポーツ新聞を取るという家庭もありました。
2019年においては、1世帯あたり0.66部。1を大幅に割り込んでいる状態です。このように、新聞を取らない世帯というのが明らかに増えているということです。

新聞は、テレビやインターネットに圧倒的に負けている
平日にメディアを利用する平均時間を年齢別データで見ると、新聞はラジオよりも低いという数字が出ています。総務省が2018年の調査結果の発表ですが、10代の人は新聞をほとんど見ていない。20代、30代と年齢が上がるごとに上がっていって、60代でそれなりに見えてくるという状態です。
高齢の方はインターネットが苦手じゃないかと思っていましたが、これを見ますと、実は新聞よりも圧倒的に見ているという状況があります。
いまだにテレビが強いなという印象ですが、なんとなくつけっぱなしにしている時間も含めてでしょうから、一概にイコール影響力というわけではないのかもしれません。
もうちょっとブレイクダウンして言いますと、これも総務省のデータなのですが、「新聞を1日10分以上読んでいる人」という調査でいうと、20代というのはわずか5パーセントです。働き盛りの30代でも13パーセント。40代ですら23パーセント。つまり40代でも、4人に1人くらいしか1日10分以上新聞を読んでいないということです。10分以上読んでいる人で5割を超えるのが、やっと60歳以上。52パーセントということです。
つまり、20代の学生とか、若手の会社員、社会人という人は、1日10分以上新聞を読んでいる人が5パーセントしかいないということです。95パーセントは新聞を5分未満しか読んでいない、あるいはまったく読んでいないということになります。

新聞を読む人間はどんどん減っていく
当然ながら、これは我々新聞業界としては恐ろしい話です。たとえばNIE(Newspaper in Education)といわれる「教育に新聞を」という事業をボランティアでやったりして、教育現場に記者が出向いて新聞を読む授業をやったりもしているのですが、そんなことでは全然追いつかない。そもそもお父さん、お母さんの世代がもう新聞を読んでいないという状況なので、年々減っていくことになります。

じゃあ年を取ったら新聞を読むかというと、実はそうでもありません。若いころ新聞を読んでいない人が年をとって新聞を読み始まるということは基本的にありません。
今60歳以上の方、もっというと70代以上の方が新聞の読者の主力です。この方々は、いわゆる全共闘世代と言われる人も含め、戦後の民主主義の、新聞がメディアの王様だった時代に、新聞を非常に熱心に読んでいた方々です。ずっと読み続けてきたコアな世代として、それがそのまま年を追 って、持ち上がってきたということなのです。
今この世代方々が、ものすごい勢いで新聞をやめています。介護施設に入られたり、亡くなられたり、あるいはお一人暮らしになられたりして、新聞が毎日来ると邪魔であるという理由で止めてしまうので、新聞購読の停止が相次いでいるのです。
先ほどの部数の減少というのは、これから先ますます加速していくというのが、一般的な見方です。この数字でいうと15年後どうなるのか。理論的にいうと、20年後にはゼロになるという勢いで減っているということであります。

紙の新聞と広告料による売上高も大きく減少


新聞業界全体の売上高を新聞協会の集計でみると、2006年度は2兆3000億円でした。周辺のいろいろなことも含めればもっとあるかもしれませんが、2兆円くらいの規模の総売上高だったのが、2009年度で1兆5000くらいになり、35%、1兆円近く減っています。
内訳を示していないのですが、大体7~8割くらいが新聞の販売および広告で、これが新聞社の収益の柱です。残りの2割くらいがいわゆるイベントなどの事業とか、不動産とか、そういった他諸々で2割くらい稼いでいるというイメージです。
この8割の販売と広告というところが今どんどん減っていまして、たぶんこの比率でいっても85パーセントとか90パーセントくらいあったのが、おそらく今75パーセントくらいまで減っているのではないかと思います。つまり、いわゆる紙の新聞と、それに付随しての広告収入というものがどんどん減っているということであります。

新聞は骨董品に?
じゃあこのままいくと紙の新聞は骨董品のような世界になってしまうのではないか。言ってみればレコードがなくなってCDになり、ついにはデータ配信になったとか、カメラもフィルムがなくなってデジタルカメラになったというように、新聞も紙のものが一部の好事家といいますか、紙で読むのがどうしても好きだという方だけが楽しむためのものになる可能性があるということです。
そもそも新聞社として果たすべき使命、つまり多くの人に情報を届けるという使命を果たすうえでは、紙の新聞だけを発行していたのではもはや成り立たないというのは、これは共通認識となっています。

紙からインターネットへ、デジタルシフトの必要性
じゃあどうするのか。まさにデジタルにシフトしていくしかないということです。さきほどの表でいうと、インターネットに媒体として乗り換えていかなきゃいけないということです。新聞というのは明治維新後に生まれたメディアです。よく言われるのですが、当時、もしインターネットがあったら、インターネットでやっていただろうという言い方があります。
つまり、当時としては、紙で宅配網を使ってみんなに配るというのが一番効率的なシステムだった。紙で配るという形は、かつてはそれが一番効率的であったから普及したのであって、現在インターネットがこれだけ皆さんの生活の中に定着して主流となっている時、インターネット経由で情報を届けることに本気で取り組まないというのは、それはもうレコードだけを出し続ける会社みたいなものであろうということになります。マスメディアとして引き続き世の中に必要とされるのであれば、このインターネットに行かざるを得ないということです。

海外は一歩先にデジタルにシフト
これは世界中で同じ傾向があり、海外ではもっと激しい勢いで紙が減っています。日本では自宅に新聞を届ける宅配システムが定着しているので、勢いよく部数は減りません。家に届けるという、いわばサービスとセットで新聞を売っているので、毎日届けてくれるから読む。その習慣化されたサ ービスとして売っているので、そんなに減らないのです。
コロナショックの中でも、意外と新聞は部数としてはそんなに減っていません。ところが、新聞先進国であるアメリカとかイギリスの紙の新聞は、日本以上に劇的に減っています。というのは宅配ではなく、基本的にはニューススタンドといわれるような、売店のようなところで売っていることが多いからです。減るだけ減った状態になっています。そのために、日本よりもはるかに早くデジタルへのシフトを進めています。

ニューヨーク・タイムズはいち早くデジタル化に成功、読者が650万人に
世界的にデジタルシフトが成功しているといわれているのが、ニューヨーク・タイムズです。ニューヨーク・タイムズはデジタル化で契約数を伸ばしていますが、紙の方は右肩下がりです。
デジタル版というのがぐんと伸びております。デジタル有料コンテンツというのは、基本的には有料会員購読料です。例えば月980円とかお金をいただいて、あるいは年間で1万何千円とかいただいて、それでウェブサイトの記事は読み放題ですよというようなサービスです。
これがいわゆるデジタルの有料会員モデルです。それに、ウェブサイト上にも広告というのがありますので、ウェブサイト上に載っている広告の収入と、お金を払って読んでくれる読者からいただける会員料の両方が収益源です。

ニューヨーク・タイムズの読者数は2011年には150万人だったのが、今、デジタル読者がどんどん増えた結果、全世界に650万人の読者がいるということです。ちなみに毎日新聞は、私が入社した1998年は400万部と言っていたのですが、今は300万を切っています。そう考えると、デジタルの読者を含めるとニューヨーク・タイムズに逆転されたということになるわけです。
これを売上高ベースで見ますと、有料会員の購読料、これはサブスクリプション、定額のお金を会員料としていただいて記事が読み放題というサービスのことですが、このサブスクリプションの売上、デジタルで記事を読んでもらって会員料をもらうというサービスが、2019年はNYTの60パ ーセントを占めています。
一方、広告は減っています。特にリーマン・ショックをきっかけに減ったのが戻らなくて、今では29パーセント、3割しかないということで、ニュ ーヨーク・タイムズの収益構図というのは、今や広告よりもデジタルでのサブスクリプションの売上のほうが多いということになります。このニューヨーク・タイムズのように、減っていく広告収入、紙の収入、あるいは紙の読者をデジタルで補うというのが、我々の目指す理想形です。

日本の新聞のデジタル化は簡単じゃない?
しかし、決して容易なことではありません。この表はだいぶ古い2016年の数字ですが、ニューヨーク・タイムズの有料会員が150万人くらい。日本では一番デジタル化が成功しているといわれている日経新聞が、フィナンシャル・タイムズを傘下に収めていますので、合わせて100万人超ぐらいです。
ウォール・ストリート・ジャーナルも100万人弱という数字ですが、俗に100万人くらい会員がいると事業として独立して成り立つんじゃないかという説もあるくらいです。つまり有料会員の数を相当取らないと大変です、というわけです。
大手紙では一番デジタルの会員数が多いのが日経新聞、朝日新聞がその次だと業界ではいわれていまして、毎日新聞がその次くらい。我々もかなり頑張ってはいるのですが、日経新聞の背中も見えていないし、国際的に見ればニューヨーク・タイムズとかウォール・ストリート・ジャーナルレベルには当然達していません。しっかりデジタルで売上が立って、広告とか新聞が減っていくのを補うほどの会員が現時点で獲得できているかというと、まったくそんな域には達していません。

毎日新聞「総合デジタル取材センター」という部署
今私が勤めているのは、統合デジタル取材センターという部署です(※2021年4月に「デジタル報道センターに改称」。新聞業界というのは変わ っていかざるを得ない。毎日新聞のウェブサイトに皆さんに来てもらって読んでもらう。できれば有料会員になってもらうということを進めるために、戦略的に取材して記事をつくっていく部署が、統合デジタル取材センターです。
これはビジネスをやる部署ではなくて、報道をしていく部署です。ウェブサイトで読まれる記事で、しかも、できればお金を払ってでも読みたいと思えるような記事を書く部署です。それに特化した戦略的な部署です。
経済部とか、政治部とか、社会部というのは、もちろん今までどおり仕事をしているのですが、その人たちの意識とか行動様式を切り替えるというのはなかなか難しいので、あえて新しい部署を作って、そこに特化して戦略的にやっていこうという部署です。毎日どうやったらウェブ上でみんなに記事を読んでもらえるかということを必死で考えて仕事をしています。私はデスクとして、記者に指示したり、記者から来た原稿を読んで直したりしているというわけです。

デジタルと紙媒体の違い
デジタルと新聞、何が違うんだと、どんな特徴があるんだということなのですが、事業者側から見て特徴的なのは、毎日新聞のウェブサイトに来ていただいて皆さんが記事を読むと、今現在1人読んでいるとか、10人読んでいるとか、100人読んでいるということがオンタイムでわかるということです。
もちろん誰が読んでいるのかという個人情報はわかりませんが、どの記事が今どれくらい読まれているか、あるいは1日のうちにどれくらい読まれているかというのが全部わかります。今までは紙の新聞というのは配ってしまうと、一体何人が読んでいるのかさっぱりわからなかったわけです。だから新聞記者の中で、これは読まれるぞとか、これは絶対読者に届いているだろうとか、なんとなく独りよがりで言っていたのですが、デジタルだと、どれくらい読まれたかという結果が全部わかるということです。
デジタル版のライバルはゲームや動画?
デジタル版を、ほとんどの人は今、パソコン、ラップトップでは見ていません。スマホでニュースを読んでいます。スマホでニュースを読んでいるということは、我々の競争相手は他の新聞社というよりも、むしろゲームであったり、動画であったり、SNSであったりがライバルになっているということです。スマホを見る時間を、ニュースサイトや他のいろいろなものが奪い合っているという考え方です。大変競争が激しいわけです。
それから、サブスクリプションについては、入退会が非常に容易です。紙の新聞をやめようと思ったらそれなりにストレスが必要なところはありますね。しかし、ウェブサイトですと、何回かクリックすればもうやめられますので、簡単に皆さんやめてしまって、人の出入りも激しいということであります。
これらの特徴に沿って、こういうフィールドの中でどうやったら一番記事を読んでもらえるかということ、どんな記事の書き方が最適かというのを考えながら仕事をしているわけです。

デジタル版で一番読まれたのは猫の記事!
じゃあデジタルで読まれる記事って何?というところで、非常にわかりやすく、この1週間、毎日新聞のニュースサイトで読まれた記事のランキングを貼り付けました。

これ、PVという言葉を入れていますけども、ページビュー(page view)の略でして、要するに、ウェブのページにどれだけの人が来てくれたかという数字です。
生のデータはお示しできないのでランキングだけ示しますけども、見ていただいていかがでしょうか。いわゆる新聞の一面にあるような記事は一つもないというふうに思われるのではないでしょうか。
特に1位は猫の記事ですね。しかも、これオリコンニュースという、毎日新聞が契約している外部媒体から提供を受けている記事です。つまり、我々新聞記者が、1000人近い新聞記者が一生懸命毎日、警察とか政治家とかを取材しているわけですが、実はこの1週間で一番読まれたのは猫の記事だった、ということなんです。
2位は餃子の王将で、長年学生にただで食べさせてあげてきた、人情味のある店主さんの話。3位あたりがようやく社会派の話になるのですが、4位は韓国絡み。日韓関係というのは非常に読まれるんです。5位はいわゆるGo Toトラベルで、つまりお金絡みの話。これも非常に読まれます。
ということで、いわゆるウェブサイトをポチッとクリックされやすい記事というのは、こういった傾向があるということです。新聞というより、ややワイドショーに近いノリじゃないでしょうか。

PV数は収益にはあまりつながらない
では、統合デジタル取材センターの人間はこんなことばっかりやっているのかというと、まったくそうではありません。私達の部署が重視しているのは、やはりきちんと毎月980円を毎日新聞に支払っていただいて、継続的に読んでもらえる読者を獲得することです。良い記事を書いて安定的な読者を獲得し、安定的な経営基盤を作って、さらによりよい報道をしていく。そういう好循環を何とか創り出したいと思っています。
もちろんPVにも意味はあります。PVという数字は、うちのウェブサイトにどれぐらいの人が来てくれているかの目安のデータであると私は思っています。商店街にどれくらいの人通りがあるかというようなデータです。まず来てもらわないと、我々の本気で書いた記事というのは目に留めてもらえない。さらに人通りの多い商店街であれば、広告の看板の単価も上がるわけなので、広告収入の点でも重要な指標です。しかしウェブの広告収入というのはそんなに収益的に大きなものではありません。新聞業界はかつて、無料で記事を流して広告収入で稼ごうとしていた時期があるのですが、それでは持続的な経営の安定は見込めない、と判断した結果、各社がサブスクモデルに切り替えているわけです。

新聞は読者に信頼されているか?

ところで、皆さんメディアを信頼していますでしょうか。新聞は信頼されているというふうに我々は思いたいのですが、最近は新聞を疑ってかかるという方も多いと思います。
これは毎日新聞に掲載した表で、2020年最新の数字です。これを見ますと、「新聞は信頼できる」「やや信頼できる」は69.5パーセントで、テレビ66.8に比べてやや高いと思います。それからSNS、一番下のほうのツイッターとかYouTubeみたいなのに比べると、だいぶ高めにはなっております。

ロイター調査で日本は?

しかし、国際比較というのを見ますと、これはロイターの調査なのですが、英語になっていて恐縮ですが、オレンジ色が新聞社とか新聞記者本人が思っている、要するに俺たちは信頼されていると思っている数字。それから青いほうが、読者が信頼できると思っているかの数字。
日本を見ると、なんとジャーナリスト自身は俺たち信頼されていると91パーセントの人間が思っているのに、読者のほうは17パーセントの人しか信頼できると思っていないということですね。だから、ニュースをつくる側と受け取る側の認識のギャップがものすごく大きいということです。
これはメディアの調査なので、新聞だけじゃなくて、テレビとか、雑誌とかネットメディアとか、いろいろなものも含めてなのですが、日本の特徴というのは、つくり手側は自分たちは信頼されていると思っているけれども、受け手側がメディアは信用できないと思っているということなんです。
例えばフィンランドとかは、5割以上の人がメディアは信頼できると思っている。ポルトガルなんかも50パーセントを超えています。そういう点では日本は韓国よりも低い。果たして新聞だけ見たらどうかとか、そのへんはわからないのですが、総じてメディアに対する信頼度が低いというのが日本の特徴ですね。

当局から情報をもらって特ダネを取るのはもう古い?
このような状態の中で、我々はどうやったら安定的に読者にお金を払って記事を読んでもらえるのか。裏返せば、どんな記事だったらお金を払ってでも読みたいですかということです。さっきのニューヨーク・タイムズを始めとする欧米メディアもそこは一生懸命調べていて、大体一つの方向性というのがわかっています。
一つは調査報道です。みんなが知らない事実を調査、取材をして白日の下にさらし、誰よりも早く社会に届けることです。
日本の新聞が長年やってきたのはいち早い特ダネ報道で、当局の決定とか逮捕とか、そういうのを1日とか2日、下手すると当日の朝、一足早く特ダネを打つというのが伝統的な日本の新聞のやり方でした。
そういうのは海外では、すでにあまり価値を見いだされていないのが実情です。実際さきほどのロイターの数字を見てもわかるとおり、そういうことを長年やってきた我々は、当局と癒着して、当局から情報をもらっているから、当局に忖度して何も書けないのだろうというふうに、おそらく読者、国民から疑念を持たれてしまっているのではないでしょうか。
そうやって警察とか政治家に密着して、1日、半日早く書くことをやっていると、どうしても取材相手と「一体化」してしまうのではないか。取材相手に借りをつくってしまうということになるので、彼らが困るようなことを書けないのではないか。長年の新聞の取材の仕方や書き方といった仕事のスタイルがだんだん読者からの不信を招いて、結果としてこういう「信頼できない」という数字につながっているんじゃないか、と私は思っています。

調査報道に希望を
じゃあどうやったら国民、読者から信頼されて、お金を払ってでも毎日新聞を応援しよう、毎日新聞を毎月読もうと思ってもらえるか。一つは先ほど申し上げた調査報道です。

手前味噌ですが、左側が毎日新聞が2001年に掲載した旧石器ねつ造という調査報道で、これはもうまったく当局なんかに依拠せずに、我々が我々のメンバーで全部、Fさんという方をずっと追いかけて、決定的場面を写真に撮って、それを本人に当てて証言を引き出した。歴史の教科書を書き換えたというスクープです。
これについては、それは読むでしょうと思います。これがもし当時、ウェブサイトにバーンと出て、有料会員オンリーとなったら、たぶんみなさんお金を払って読んでくれただろうと思います。

右側が、これは伝説的なスクープであるウォーターゲート事件報道です。その左側に見える新聞記事が、博物館にあるウォーターゲート事件の最初の報道。右側は執筆した記者のメモです。こういう特ダネを継続的に書くことができれば、それはきっとお金を払って読んでもらえると思います。
まずこういった調査報道、本当の意味での調査報道を行っていくということは当然あるべきだと思います。我々もそのための取材班をつくっています。特別報道部という専門部署や、暫定的な取材班を作るなどして、これはやっています。
しかし、残念ながら、こういう本当の一世一代のスクープというのはそんなに頻繁に出るものではありません。そのときだけお金を払って読むということになってしまうと、我々も安定的な収益にはつながりませんので、やっぱり日常的になんらかの面白い記事を書いていかなければいけません。
有料会員でない読者がウェブサイトにアクセスして記事を読もうとしますと、ここから先は有料ですと出てきます。どこのメディアのウェブサイトでも同じです。続きを読みたいと思ったら、そこで手続きをして会員になってから、その先を読むという流れです。
サイトの運営側は、どの記事を読んでいる途中に有料会員に入ってくれたかという情報を把握することになります。要するにこの記事が引き金となって、読者にお金を払ってもらえたというデータがとれるわけです。

PVの多い記事とお金を払って読みたい記事は違う?
そのような分析をすると、PVの多い記事とお金を払って読みたい記事とは必ずしも一致しないということが分かります。例えば、毎日新聞で直近の1週間に会員を獲得した記事のランキングをみていただくと、PVのランキングと一つも重なっていないことがわかると思います。猫の記事さえ書いておけばいいとか、アイドルの話を書いておけばいいとか、勘違いされがちなのですが、有料会員の獲得という意味で言えば、まったくそんなことはありません。数字を取るために仕事をする、ただ単に多くの人に読まれるような記事を出す、そんなのがジャーナリズムか?というふうに思われる方も多いのですが、いわゆるワイドショー的にたくさんの人に見てもらえばいいということと、ちゃんとお金を払って、毎日新聞のファンとして読んでもらうというのは、別の論理だと思っています。

一方、紙の新聞の内容は?
さっきから全部デジタルの話をしていたのですが、私たちは当然、同時進行で紙の新聞をつくっているわけです。

今日の、これは朝刊です。見ていただくとわかるとおり、一面トップはNHKの受信料の話、それから学術会議問題、都市対抗などですが、これはそれぞれの記事がそのままウェブサイトに載っています。
一般的な話ですが、このようなニュースで有料会員を獲得するのは難しいと言えると思います。もちろん既存の有料会員の方は読んでいるのですが、新しくお金を払って読もうという人は読まないということになります。なぜなら、このような記事は全部無料でいろいろな媒体に書いてあるので、ヤフーのニュース・トピックスとかを見たら載っていますし、なんなら昨日のNHKのニュースとかを見たら半日早く報じているからです。
だから不要だということではまったくないのですが、新聞に掲載される記事、特に1面に載せるような記事が、無料記事と差別化できていない記事が多いのは事実です。本来ならデジタルと同時に新聞の中身も見直していかなければいけないと私は思っていますが、そのお話はいつか別の機会に譲りたいと思います。

情報の洪水の中で新聞社の役割は?
最後に、我々が今力を入れていることをお伝えしたいと思います。新聞社なんて本当に必要なのか、どういう存在意義があるんだと言われるかもしれません。もうウェブで、なんなら無料で読める記事もあるし、ネットを通じて一人一人が発信しているんだから、そんなに新聞なんか読まなくたって情報は入手できるよと思われると思います。

今、世の中にはあまりにも膨大な情報があります。非常に古いデータなんですが、1996年と2006年という、はるか前同士の数字を比較してでも、日本に年間流通する情報量というのは、10年で530倍に増えています。2006年以降、さらにインターネットが普及しましたから、いまはこれどころじゃないくらい増えていますね。
これは視覚的にわかりやすくすると、96年の時点で、新聞紙で表すとこれくらいの量だったのが、2006年時点で、もう東京タワーのはるか上くらいの量になっていますよということです。だから、もし現在このデータがありますと、たぶんもう宇宙のレベルまでいっているのではないか。それくらいの情報の洪水に我々は毎日さらされているということです。
もちろん情報が増えるということはいいことです。というのは、昔は我々新聞社とかテレビとかしか、マスメディアと言われるものがなかったので、我々がある意味独占的に情報を流通させていたわけです。
しかし、今は皆さんSNSを使って、一人一人が発信できるようになった。あるいはインターネットを使って、直接当事者が発信する情報にアクセスできるようになった。つまり、情報の流通が民主化された。インターネットの普及によって、経済全体で生産者と消費者の間を取り持つ仲介・流通業者がどんどん衰退していくという流れの中に、新聞社、マスメディアも入っているわけです。
じゃあ独占的なポジションを失った我々は何をしていくべきかというと、一つは先ほど申し上げたように、世の中に流通していない情報を掘り起こしてきて、発信する。単なる情報の仲介ではなく、我々自身がニュースを生み出していくことに力を入れる。つまり調査報道です。
もう一つは、この膨大に増えた情報を、情報のプロフェッショナルとして、我々が重要度をある程度ランク付けし、セグメント化して届けていく。さらには、膨大に世の中に流通している情報をスクリーニングして流す。つまりゲートキーパーとしてのメディアの役割。これもあるのではないかということです。

新聞社の持つコアバリューとは?
その話と関連しますが、我々が持っているコアバリューってなんなのだろうと考えてみます。毎日、紙の新聞を家庭に届けることでしょうか。それもあるかもしれません。でも、それはだんだんこの世の中で必要でなくなっていく、ウェブでいいじゃないかとなってくると、もっとプリミティブな原初的な我々の価値ってなんなんだろうというと、やはり取材することに行きつきます。
取材して情報を取ってくる、あるいは世の中に出回る情報が正しいかどうかを確認し、正確な情報を流すということにあると思います。
我々は支局の1年生時代から、取材、裏取り、原稿執筆というのを毎日のようにやってきている。そういう意味で、訓練を積んでいます。ですから、情報のエキスパートとして、正確で信頼できる情報を提供していくというのが我々のコアバリューではないかと思うのです。

デジタルコンテンツにおけるファクトチェックを!
さっきのデジタルの話に戻りますと、それをデジタルのコンテンツに落とし込んでいったとき、新しく我々がやっていくべき仕事だと思っているのが、このファクトチェックです。ファクトチェックというのは、要するに、世の中で膨大に流通している情報の真偽を我々が検証して、それに対してレーティングしていくという試みです。

毎日新聞ではいま、世の中に出回っている情報を検証して、この表にあるようなレーティングをして、ウェブに流すということをやっています。ファクトチェックというのは我々が始めたことではなくて、世界中でもう始まっていまして、右上にあるピノキオのイラストは、これはワシントン・ポストがやっているのですが、情報の真偽を確かめて、うそであるという場合はこのピノキオマークの数でレーティングをするということをやっています。
国際団体もありますし、日本ではファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)というNPOが、ファクトチェックの判定の基準をつくっています。「正確」から「虚偽」まで7段階ありまして、我々はこのガイドラインに沿って情報を検証して、チェックして、それを流すということを始めました。

フェイクニュースをいち早く検証する
先ほども言いましたが、膨大な量の情報が流れている中で、例えば米大統領選では、トランプ大統領が火に油を注ぐ形で、トランプ支持者と民主党支持者がお互いを非常に中傷し合うということがおこなわれているわけです。このフェイクニュース、虚偽情報というのが、場合によっては選挙の結果すら左右しかねないということが起こっています。そうすると、我々の民主主義の危機でもあるということです。
虚偽情報に対しては一刻も早くそれを検証して、これはうそである、あるいは、これは部分的に本当だけどミスリーディングであるとかいうことを流す必要があります。
それを我々新聞社が、我々の持っている取材力とか情報検証能力を使ってやっていこうじゃないかというのが、このファクトチェックです。
新聞社だけではなくて、NGOとか大学でもやっていますが、新聞社も本格的にやろうというのが、今日本で毎日新聞が始めていることです。

世界のメディアvs フェイクニュース
FIJ(ファクトチェック・イニシャティブ)が、ファクトチェックに取り組んでいるメディアを世界地図に落とし込んだ図をお見せします。今日本では2と書いてありますけども、毎日新聞を含めた2団体がやっておりまして、今ちょっとずつ増えています。これは少し前の古い数字になります。

見ていただくとわかるとおり、アメリカやヨーロッパが中心ですが、アジアでもいろいろなメディアがファクトチェックを始めています。膨大なフェイクニュース、あるいはデマ、虚偽情報を、世界中のメディアがウォッチして、それを正すというような戦いが今、おこなわれているということです。
はっきり言って地味な取組みなのですが、実は我々が思った以上に、このファクトチェックというのは読まれています。

学術会議OB年金250万円は、フェイクニュースだった!
ファクトチェックの例を出しますと、日本学術会議会員OBは学士院に行くことができて、学士院に行ったら死ぬまで年金250万円をもらえるというふうに、フジテレビの上席解説委員がテレビで発言したんです。これはもう完全に間違っているのですが、これをファクトチェックして、「誤り」と判定して記事化しました。
これは非常に読まれていまして、それを契機に有料会員にもたくさん入っていただきました。ということで、従来の新聞社がやってきた特ダネを狙うというのとはまったく違うのですが、ものすごく読まれて、実際有料会員という形でお金も払っていただいているということです。
我々新聞社に期待されていることというのは、だんだんこういうことになってきているのかなと思います。
みんながあと1日待てばわかるようなニュースとか、当局にぶら下がって情報をもらって流す情報ではなくて、自分たちで検証して、世の中に流れているデマとかを検証していくということが、非常に求められているのではないかと思います。
まとめさせていただきますと、従来型の新聞のビジネスモデルは限界にきている。紙からデジタルへというのは、もう必然的な流れです。
じゃあ我々は何をしていくべきかというと、本来の社会的使命に立ち返って、世の中から求められていることをやって、その対価としてお金を稼いでいくという形で、読者と一緒につくっていく、読者に支えられて成り立っていくメディアに変わっていかなきゃいけないと思っています。
その中の一つの新しい取組みが、ファクトチェックになります。私は現在46歳で、あと10年、15年くらいはジャーナリズムに関わるつもりでいるのですが、中には新聞社はもう終わったと思う方がいるかもしれませんし、実際若い記者たちの中には、辞めて別の職種に移ったり、いわゆるネ
ットメディアに転職していったりする者もいます。
しかし私は、毎日新聞が150年間培ってきた伝統とか人脈とか底力というものを使って新しいことをやっていけば、もっと大きく変えられる。あるいは社会というか、このメディア業界を変えられるんじゃないかと思っていますし、変えていきたいと思っています。
今日このような場をいただいてお話しできたのは、すごくうれしく思っていますし、ぜひ皆さんに、こういう思いを共有していただければと思っています。
どうもありがとうございました。
                        文責・認定NPO法人・21世紀構想研究会事務局