お知らせ

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第5回21世紀構想研究会・生命科学委員会の報告

2015/07/03

7月2日(木)開催された生命科学委員会は、委員長でもある黒木登志夫先生(日本学術振興会、東京大学名誉教授)が『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』の演題で講演をしました。

  講演ではまず、iPS細胞を作成して2012年にノーベル医学賞を受賞した山中伸弥先生が黒木先生の著書「がん遺伝子の発見」(中公新書)を読んで感激し、講義に来た黒木先生からサインをもらったというエピソードから始まりました。

 当時、山中先生は研究者としての情熱を失いかけていた時期で、この本を読み著者からサインをもらって再び研究者として情熱を燃やすことになったのです。

  山中先生がiPS細胞を作製するまでの研究の道のりを紹介しながら、常識を覆す発想とそれを立証する科学研究の現場をわかりやすく示してくれました。

 体のルーツになるES細胞の意味と核移植の研究歴史の紹介、クローン羊やクローンマウスの研究成果などについても解説しました。

  (スライドはいずれも黒木登志夫先の講演内容の一部を再掲)

 

  そしてiPS細胞の登場により、これまで考えられなかったような研究が可能になった実態を次々と示しました。

  たとえば、ブタの体内にヒトの膵臓を作ることが可能になり、シャーレの中に脳を作ることも可能になりました。シャーレの中で再現したアルツハイマー病やパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難病の細胞を作り、新しい薬を開発するなどの研究が進んでいる現状も語りました。

 


  またシャーレの中に各種病気の細胞の分析を行うことができるようなり遺伝子の働きの

分析もできるようになりました。家族性の病気についてもこの手法で研究が発展し病気の細胞を使って薬を開発する研究も飛躍的に進展しそうです。

 薬の効く人と効かない人、病気になる人を早く見つけ治療することも可能性が出てきました。

  

 しかし再生医療にはいくつもの壁があることも示し、黒木先生は8つの壁として説明しました。

①倫理の壁(受精卵を使うか,体細胞を使うか)、②免疫の壁(自分の細胞か、他人の細胞か)、③腫瘍化の壁(腫瘍は出来ないか)、④時間の壁(幹細胞作成までの時間、分化までの時間)、⑤費用の壁(細胞調整費用)、⑥規制の壁(政府の規制)、⑦有効性の壁(本当に病気は治るのか)、⑧iPS細胞の壁(iPS細胞以外はいらないのか)

  また細胞シート法の開発、拡張性心筋症の治療、黄斑変性の再生医療、軟骨損傷の再生医療、遺伝子組み換えによる遺伝病の治療など具体的な研究状況も解説しました。

 

 また日本人のノーベル賞受賞者が21世紀になって増えてきた状況を説明しながら、受章業績の年代などについても分析して解説しました。

  黒木先生の講演は洒脱なユーモアがつきものですが、今回もノーベル賞受賞者の所属国の一人当たりのチョコレート消費量と受賞者数が正のきれいな相関関係にあることを紹介して和ませました。