お知らせ

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100回記念シンポジウムの報告(その3)

2017/06/29

  当日の様子をUstreamで放映しております 

                     番組URL:http://www.ustream.tv/channel/kosoken-100

 記念シンポジウムは、「希望ある日本のために何をなすべきか」をテーマに、5人のパネリストによる意見発表と討論を行った。

モデレーターとパネリストは、次の通りである。

モデレーター

橋本五郎(読売新聞東京本社・特別編集委員)

パネリスト 

岩本沙弓(大阪経済大学 経営学部 客員教授) 

塩崎恭久(自民党衆院議員、元内閣官房長官) 

藤嶋 昭(東京理科大学学長、東大特別栄誉教授) 

柳澤幸雄(開成中学・高校校長、東大名誉教授)

 

 シンポジウムの進行は、冒頭に各パネリストから10分間の意見表明が行われた。

 5人の表明内容を順次報告する。

 

岩本沙弓氏の表明内容

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私は日本経済について論じる際には、悲観的になる必要ないという見解であり、その主張で本を書いてきた。各国と比較しても日本は大丈夫を伝えてきたのだが、4月の異次元緩和実施以来、日本国債市場において新日銀体制の意に反して国債価格が下落したり、5月下旬には黒田総裁の記者会見を受けて東京株式市場が暴落したりと、市場の乱高下が激しくなったために皆さんは不安を抱いているように思う。

  詳しい状況がわからなければ人は不安になるものである。そこで、最近の市場動向を分析することで皆さんの不安を払拭できればと考える。

  債券が買われると金利は下がり、逆に売られると金利は上がることになるが、特に黒田新体制となってから異次元緩和前実施される当日までは指標銘柄である10年物の債券は金利が急激に下がり、緩和後は一転上がるという荒っぽい動きをした。

  こうしたここ数か月の動きは激しいように見えるかもしれないが、今年2月の段階で10年物の国債の利回りは0.8%、最も低下した時点が0.3%、それが0.8%台に戻った状態である。言うなれば超超低金利が超低金利の水準に戻っただけとも言える。

  10年物国債の金利の超長期の経緯を辿れば、80年代後半の8パーセントから1パーセント以下まで下がってきている。しかも一直線で金利が低下してきたわけではなく、これまで大体4年半ほどで上がっては下がるというサイクルを繰り返してきたのが日本国債の歴史でもある。

  最後のサイクルは昨年末あたりで終了しており、現状は金利が上昇しやすいステージにあると言えよう。景気が回復基調にあり、株価が上昇、マイルドなインフレ期待が出てくれば長期金利は上がりやすい。日本国債の市場価格が下落(利回りは上昇)すると、日本経済や金融機関が破たんするという論調が見られるが、これは明らかに行き過ぎた見方だ。

  どんな市場でも上がったり下がったりしており、一直線で上がることは危険だ。むしろ調整があった方が健全であり、そういう意味で日経平均株価の今回の下落は、特に4月以降の余りにも急激な上昇の調整と見てよいだろう。

  昨年11月以降の日経平均株価のチャートを見れば3段上げと言われる典型的なパターンを示していた。Aのライン上で価格が安定していたものがBのライン上で推移しはじめたので要注意。Cのラインは上昇スピードが速すぎるため、行き過ぎとなる。Cのラインを切ったところで大規模な調整が入りやすい。調整の目処は高値から2割が順当である。

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 今回の市場の動揺を受け、日本は再度不況になるという人もいるが、結論を出すには余りにも焦燥だろう。安倍政権はスタートを切ったたばかりであり、ここは冷静に見る必要がある。日本の基礎的な経済力は健全である。向こう3年で50年後100年後を見据えた真の国力の増強に努めるべきだろう。

 

塩崎恭久氏の表明内容

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 昨年9月の自民党総裁選で安倍晋太郎氏が総裁に選出されたが、そのときの総裁選で一番に訴えたのが経済の再生だった。政治は、国民の期待、希望、夢、やる気を作るのが仕事である。安倍政権になり、アベノミクスが走り出し、国民の期待が出てきている。方向は間違っていない。

  私の選挙区は愛媛県であり、地元では昔から竹細工をしている人がいる。お茶の花入れとか小さな作品を作っている人が多い。その方々が作業場を大きくするのはどうか検討していたが、大きくしようという気を起こした。これもアベノミクスの効果である。中小企業も頑張ろうという気になっている。外国人もそう言っている。

  先日、シンガポールの知人が、東京にマンション買ったと言ってきた。東京へ来るとホテル住まいだったが、マンションを買ったということは、腰を落ち着けてビジネスをやるということだ。彼が言うには、いま東京のマンションを買うのは得だという。割安感があるという。また、海外に出ていく人も多くなってきた。

  夢や希望を持っていても、政治はこれを実現できるようにしなければならない。愛媛県は柑橘類の生産では全国一である。ミカンでもこんなおいしいものがあるかと思うくらい素晴らしいミカンがある。PTT(環太平洋戦略的経済連携協定)になっても柑橘類では負けないと自負している。ただ、旧来の農家は大変だろうとは思う。

  東日本大震災にも耐え得る日本人の素晴らしさを守りながら、一層変化に応じ、多感かつ個性豊かで逞しい多様な価値観を受け入れる国際人材をいかに育てるかが喫緊の課題である。

 それら一人一人の個性と能力のある国民の声がより良く反映され、国民が主人公として、皆の心が一つになれる国家の意思決定・実行の強い仕組みをいかに構築するかである。これらこそ、希望ある日本を作るのではないか。

  教育と国家ガバナンスが必要だ。大学改革なくして日本の将来はない。国家は国全体の力を引っ張り出すことであり、ガバナンスがないとダメである。だから国家のガバナンスの改革が重要だ。

  霞が関が強いことが問題なのではなく、立法府が弱いことが問題なのだ。国会は調査能力が貧困である。公務員は、民間と国の機関を自由に往復できる制度を作らないと強い国にならない。日本の官僚は入省してからずっと同じ省にいるが、英も豪もかつてはそうだった。しかし今は両国とも官と民との出入りを自由にやっている。事務次官でも入った役所でなる人はほとんどいない。いろんなところを歩いて、最後はその役所で事務次官になる。いろいろな役所で経験を積んで、深く思索できる人がいい。日本は公務員改革をやり、優秀な人は民も官も関係なく、出入り自由にする公務員にするべきだ。

 

藤嶋 昭氏の表明内容

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 日本の将来を考えると、資源の少ないわが国では、科学・技術の振興しかあり得ない。

 スライドに「753から864へ」と出したが、これは次のような意味である。いま理科の好きな子の割合を調べてみると、小学5年生で70パーセントあるのが中学2年生になると50パーセントになり、これが高校2年生になると30パーセントまで落ちてしまう。

  年齢を重ねるにしたがって理科が嫌いになっていく。これでは困るのでこれを864に増やそうという運動をしている。小学5年生は80パーセントが理科好きになり、中学2年生では60パーセントが理科が好き、そして高校2年では40パーセントにしたい。

 最近少しだけ理系大学への志願者が増える傾向がみられるが、安心することなく、常に理科のおもしろさを小さい子供の時から知ってもらい、科学・技術に関する後継者を育てていく必要がある。

  科学に関連する童話などから、子供たちに理科のおもしろさを知ってもらうことが大事だと思う。もちろん子供たちだけでなく、お父さん、お母さんたちにも科学のおもしろさを実感してもらいたい。私自身は身のまわりの不思議な現象を科学的に説明しようと試みている。

  たとえば理科の面白さを分かってもらう一番簡単な例は、「空はなぜ青いか?」という疑問だ。空中には埃がある。太陽光は7色である。最初は空中の埃が反射して空は青いと思ったが、アルプスの頂上に昇ってみると空はもっと青いことが分かった。これでは埃ではない。

 研究しているうち空気は酸素と窒素でできていると分かってきた。太陽の光もいろいろな色が混ざっていることが分かってきた。空が青く見えるのは、酸素や窒素に太陽に含まれている青い色の光がぶつかって散乱するからだと分かってきた。散乱しやすい性質を持つ青色の光が空いっぱいに広がるので空は青く見えている。

  夕焼けが赤く見えるのは、太陽の光が斜めになり、太陽の光が届くまで距離が長くなるので散乱しやすい青色の光は散ってしまうが、散乱しにくい赤い色の光が届くので空が赤く見える。

  そこでこれを実験で見せるとよく分かる。ここに酸化チタンの粉がある。直径10ナノ(1億分の1)メートルの粒子だが、これをペットボトルに入れて水を入れ、下から懐中電灯で明りをあてると、光が強く当たるボトルの下方は青く見え、光から距離のある上の方は黄色に見える。青い空と夕焼けが、このように実験で見ることができる。

  実験をして自然の面白さを見て体験してもらう。このようなことが大事なことだ。私たちの周辺で体験するいろいろ不思議な現象を分かりやすく解説した「世の中のふしぎ400」(ナツメ社)をいう本を出版した。いま本屋で売っているので是非、買ってほしい。

  稲妻が起きると豊作になる。これは雷が発生すると窒素と酸素から天然の肥料ができるからだ。これが豊作のもとになっている。

 私は「時代を変えた科学者の名言」(東京書籍)という本を書いたが、ここには108人の人の名言を収納している。このような科学者に学ぶことも大事だ。

  私は雰囲気ということを大事にしている。鎌倉時代には仏教の偉大な指導者が生まれている。ダヴィンチの時代にはミケランジェロ、ラファエロなど偉人が固まって出てくる。ある雰囲気があると偉人も固まって出てくる。

  理科の好きな子を作ると固まって出ていくことも考えられる。東京理科大学で新書本7千冊を買って、前理事長と2人で文庫コーナーを作って学生に本を読んでもらうようにしている。ガリレオの本やファラデーの「蝋燭の科学」、ワトソンの「二重らせん」など感銘する本を読むことが大事だ。そのようなことを学生に言っている。

 最後に3Fを身につけようと学生に言っている。3Fとは、Fight 
Fair  First  である。やる気、フェア精神、そしてナンバー1になることだ。

 


柳澤幸雄氏の表明内容

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 私は開成高校の校長をしているので卒業式の話をしたい。開成高校では東大合格発表前の3月1日が卒業式になっている。校長の式辞では、卒業おめでとうの次には自信と誇りを持ちなさいと語っている。

 私は米国のハーバードで教えてきた経験から、開成高校の卒業生は、18歳の集団として世界一のレベルにあると話している。能力とは知識だけでなく成熟度も世界一だと言える。

  しかし東大で教えてきた体験から言うと、首都圏の進学校からきた東大生が伸び悩んでいることを憂慮している。18歳で世界一なのに4年後には、日本1でもなくなる。なぜだろうか?

  首都圏の進学校の生徒は、大学生になると自宅から通学している。受験の重しがなくなり受験のない高校と同じになる。東大生は3つのタイプに分類できる。

 第1は燃え尽きた東大生である。効率よく受験勉強のやり方を教わった。しかし大学に入ると、自分で勉強する方法を見つけられない。それまでは大学受験が目標だった。だから大学に入ると燃え尽きたことになる。

  第2は、冷めている東大生である。大学の勉強は、そこそこやっていればいい。友人もいるし自宅から通学しているし不便を感じたことがない。勉強のやり方も知っているし、高校時代の友人も多数いる。それで冷めた学生になる。

 第3は燃えている東大生である。地方から出てきて友人がいない。居場所を見つけられない。自分で居場所に適応しようとしている。親元から離れているので、いろいろ自分で考え、適応しようとする。大人として大学生活をはじめようとする。これが燃えている東大生である。

  学生が海外の大学を目指すことは素晴らしい。ただし、卒業後に日本企業に就職を希望するときは、大学の所在国で求人活動をしている企業から選ぶことが重要だ。また外国で教育を受けたものが日本企業に就職した場合、彼らの自己主張は企業方針とミスマッチを起こすことがある。

 「沈黙は金」、「雄弁は銀」という価値観の文化がある企業に就職すれば、ミスマッチを起こすことになる。

  日本の小学生は、クラスの中で静かにして先生の言っていることをよく聞き、授業中頑張っている子が肯定的な評価になりいい子になる。

 しかし英語で「He quiet in the class」と言えば、彼は授業に知的刺激を感じない生徒であると解釈される。雄弁は金であるという国では通じない

 グローバル時代 次世代のリーダーシップを発揮できる次世代の育成が急務である。

  私の考えでは、高校卒業時にはいい人材は十分に育っている。高卒段階では沢山の希望の星が育っているが、次第にその輝きが失われていく。これは今、社会を担っている我々が曇らせているのではないかと思う。ジョン・F・ケネディのあの有名な演説の中の国とあるところを次世代に代えてみた。

 「あなたの次世代(国)が、あなたのために何ができるかを問わないでほしい。あなたがあなたの次世代(国)のために何ができるかを問うてほしい」

  最後に私は、現代版遣唐使制度の創設を提言したい。

 政府は、1000人分の留学生奨学金を準備してほしい。

 350万円×4年×1000人=140億円である。アメリカでは500万円くらいかかるが、きちんと主張できる集団を作りたい。東大も素晴らし大学だが世界で競争するにはもっと改革していく必要がある。この制度が実現できれば、将来、この人材は素晴らしい貢献をするだろう。

 

橋本五郎氏の表明内容

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 希望のある日本にするために3つの要素をあげたい。まず第1が真のリーダーの養成が重要だと考える。

 アメリカのケネディ大統領は43歳でなったが、いま日本の政治家で43歳でケネディのような言葉を言えば、「ツラ洗って出直してこい」と言われるだろう。しかしリーダーには何が求められるかを考えてみると、いまは政治の光景が変わったといえる。

  何が変わったか。間違いなく言えることは、総理大臣が確信をもって何かをやろうとしている人がいなくなったことだ。鉄の女と言われたイギリスのサッチャー首相は、いまその業績を総括して「格差を拡大した」とも言われているが、間違いなく言えることは一国のリーダーの姿を現していたことだ。

 サッチャーはこのように語っている。旧約聖書の預言者たちは、コンセンサスを求めることなどしなかった。彼らは、自分のビジョンはこうだ、これに賛成ならついてきてほしいと言った。

  これを引合いに出しサッチャーはこのように言った。「いまイギリス国民に言う。私に反対ならついてこなくてもいい」と。これにはいろんな意見はあるだろうが、しかし一国のリーダーは確信をもってこのように語るべきだ。トップは確信がなければならない。日本では確信なき政治家がトップに就いていた。

  私たち日本には長い間、総理は誰でも勤まるという風潮があった。しかしこれではダメだ。だれでもできない。厳しく要求しないとダメだ。私は『総理の器量』(中公新書ラクレ)という本を書いた。政治記者として22人の総理を見て来たが、そのうち学ぶ価値があるという9人の総理について書いている。

  中曽根康弘氏は「王道の政治家」であり、福田赳夫氏は「清貧の政治家」であり、大平正芳氏は「韜晦の政治家」だったと思う。韜晦とは、自分の本心や才能・地位などをつつみ隠すことである。特に大平氏は個人的に尊敬している。政治の原価をわきまえていた。政治が何でもかんでもできない。その中で最も大切なことは鎮魂であると語っていた。政治とは、人々の魂を慰め鎮めることが鎮魂であるとする考えである。いまの政治家は、国民の魂を騒がせてばかりいる。

  小泉純一郎氏は、無借金の政治家だと語っていた。自民党から首相になるためには派閥の親分なる必要があるし、そのためには金が必要になってくる。しかし彼は金を使わないで総理になった。

 5年5か月の間、構造改革なくして改革なしと毎日言い続けた。なぜ言葉を変えないか。見通しがあって言っているのではなく、よく分からないから言葉を変えなかったのだ。

 小泉氏は、何かを決めるとき迷わなかった。入念な準備であったのではないが迷わなかった。また彼は人の意見を聞かないし話を聴かなかった。さらに人に頼んだことがなかった。だから人の頼みも聞かなかった。贈り物は決して受け取らなかった。もらってお返しすることはしなかった。

  政治、経済、官界、学界など今の日本の各界には断固としてやるという確信を持ったリーダーの養成と輩出が重要である。

  2つめは地方の再生である。

 昨年の自民党の総裁選挙のときこの場で記者会見をやった。そのとき私は、地方の再生なくして日本の再生なしとして質問した。今の政治家は、東京生まれの東京育ちであり、これでは、日本の地方のことが分かるのかと言いたい。

  私は秋田の過疎で生まれ育った。東京では冬でも布団を干すことができるが、この時期 秋田では除雪をしている。これはいかにも不公平だ。すると都会人は「そんなこといったって自分たちの選んだ土地だ」と言うかもしれない。

 しかし政治は冷たい思いをしている人たちに思いを馳せることが重要だ。円安でトヨタは儲かってもいるかも知れないが、地方では灯油が上がって生活が困窮している人がいることを忘れてはならない。

  3つ目は少子化対策である。

 人口が少なくなると国力が衰退する。子ども手当はもっと出すべきだ。1人に5万2千円は出すべきだ。それをやらないとダメだ。財源はどこから持ってくると言われる。今の若い人たちが生活するのは大変だ。だから年寄りから供給するべきだ。

  年配者に使うお金を少子化対策に使うような大胆な価値観の転換こそ未来への希望につながる。年配者は苦労になれている。今の年寄りは恵まれている。年配者から若い人にお金を回すような大胆な方向転換も考えるべきだ。