お知らせ

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21世紀構想研究会・200回記念シンポジウム 「科学立国再興への道」(上)

2025/05/03

   開会あいさつ 「構想研創設から四半世紀 目を覆う日本の惨状」
       馬場錬成(認定NPO法人21世紀構想研究会理事長)
  当研究会(構想研)は21世紀を目前にした1997年9月に創設されました。今回は、200回目という節目の研究会であり過去を振り返りながら未来を語るシンポジウムを開催することにしました。来るべき世紀は、日本が飛躍する100年になるだろうと期待をこめて構想研を創設し、様々な活動を通じて政策提言を行い、より良い活性化した日本を作っていこうという意気込みでした。ところが、創設以来四半世紀を過ぎて日本はどうなったかというと、国力はほぼ横ばい状態。国家の政策や政治、行政、司法などはむしろ劣化しております。今日は「科学立国再興への道」と題して論じていただきますが、まずは現状の一端を紹介します。

  凋落する日本と企業の将来投資不足
  2025年の平均年収をOECD(経済協力開発機構)の統計でみると、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国に続いて、日本は6か国中で最下位に沈んでいます。日経センターが先日発表した50年後の日本の姿はどうか。1人当たりGDPの順位は、今は29位ですが50年後には45位にまで転落すると予想されています。このように日本が貧乏な国になっているのに、企業の内部留保はかつてない金額が積み上がっております。96年度に145兆円だったのが、2021年度は516兆円、直近では555兆円と言われています。

この金額は、日本の年度予算(一般会計と特別会計を合わせた額)の2年分に相当します。2025年の平均年収をOECD(経済協力開発機構)の統計でみると、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国に続いて、日本は6か国中で最下位に沈んでいます。日経センターが先日発表した50年後の日本の姿はどうか。1人当たりGDPの順位は、今は29位ですが50年後には45位にまで転落すると予想されています。
  
  30年間で3. 8倍の内部留保が積み上がる一方で、企業の設備投資は逆に減っている。日本の大企業は設備投資を怠り、研究開発、新製品開発投資を怠り、従業員の賃上げもせず、日本を劣化させました。その延長線上で科学研究の停滞も招いたと、私はみております。こうした状況を打開して未来を拓くため、科学立国として存在感を出すためにはどうするか。本日は、存分に討論し、意見交換していただきます。

  最初はパネリストの先生から順次、冒頭発言をしていただき、続いてファシリテーターの橋本五郎さんによるパネルディスカッションを展開します。本日、オンラインで参加する大倉先生、続いてご登壇いただいた3人の先生から順次、ご発言いただきます。

    基礎力を重視した長期戦略が重要

    大倉典子(芝浦工業大学名誉教授)

 まずお話ししたいのは、基礎力の重要性についてです。2021年12月に開催された国連総会において、2022年6月から1年間を「持続可能な発展のための国際基礎科学年」とすることが決議されました。

 私たちの日ごろの思考や行動は、どうしても近視眼的になりやすい。 そのようななか、問題解決に直結しない基礎科学への興味が薄れがちです。基礎科学から応用科学に至る息の長い活動によってようやく問題解決の道につながるということが忘れられないよう、警鐘を鳴らしたのが国連の「基礎科学年」の設定です。

   特に日本の場合、これまでに多くのノーベル賞受賞者を輩出してきたのは、基礎科学にしっかりとした基盤があったからだとされております。昨今、強かったはずの基礎科学力の低下を懸念する声も、多く聞かれます。  

 

  「モノつくり」から「コトつくり」へ価値観転換を

   次に強調したいのが、「モノつくり」から「コトつくり」への価値の変化を浸透させたいということです。 20年以上前の2003年に、「横断型基幹科学技術研究団体連合」(横幹連合)が発足しました。 文理にまたがる43(設立時)の学会が、自然科学と並ぶ技術の基礎である「基幹科学」の発展と振興を目指して大同団結したものです。

   限りなく縦に細分化されつつある科学技術の現実の姿に対して横の軸の重要性を訴え、それを強化するための様々な活動を行う取り組みです。ここで横断型基幹科学技術というのは、論理を規範原理とし、自然科学、人文・社会科学、工学などを横断的に統合することを通して、異分野の融合を促し、それにより新しい社会的価値の創出をもたらす基盤学術体系です。

  図にあるように、機械とか電気、化学、土木といった縦型の学問分野に対して、モデル、シミュレーションあるいはデザイン、統計学、ヒューマンインターフェースといった学問体系は、それぞれが縦型の学問体系に様々な形で適用することができるという特徴を持っています。

  横幹連合では、縦横の分野を超えた成果の実例として「コトつくりコレクション」を選び、「QRコード」、「タグチメソッド」などを顕彰してきました。従来からの「モノつくり」重視の日本で、こうした横断型基幹科学技術が「コトつくり」として広がることを願っています。 

  欧米基準から日本(アジア)基準へ

  次に申し上げたいのが、欧米基準から日本あるいはアジア基準へと評価軸の転換がすでに起きているという観点です。

  中津良平先生(京都大学特任教授)が著書などで紹介していますが、「眼鏡をかけてカメラを持っているのは日本人」というのは過去の話で、今では日本人以外の世界中の人たちもみんなカメラやスマホを持って写真を撮りまくっています。欧米のような個人主義の文化より、コミュニケーション中心のネットワーク社会に適しているのはアジアの文化だというのが中津先生の主張です。

 またNHKが「新ジャポニズム」という放送を始めています。欧米諸国の芸術家や富裕層を中心とした従来のジャポニズムと違って、アジア、アフリカ、中南米など世界各地の幅広い層に波及し、多様なジャンルの日本文化が彼らを魅了しています。

   日本アニメの手塚治虫や宮崎駿のキャラクター、あるいは 「ハローキティ」などもかわいいですが、「かわいい」という感性価値は、日本が誇るべきものだと考えています。 また、私自身は日本の人工物を可愛くして世界進出を加速する「かわいい工学」というものを創設しております。

 「安心感」という感性価値

 さらに別の感性価値として、「安心感」というものもご紹介します。 2017年に、日本学術会議で安心感に関する小委員会を立ち上げました。最初に議論になったのは、安心に対応する英語がないという話でした。英語で「safe and secure」という言葉があり、日本語で「安全・安心」と訳されますが、safeもsecureも安全で、安心とはニュアンスが違います。

  2023年9月に同会議で「工学システムに対する『安心感』の醸成」という意見書を出しました。例えば、自動運転の社会実装などで最も重要なのは「社会受容性」であると指摘しました。 つまり「安心感」を感じられるということが一番重要ということです。 超高齢化社会へ進む日本は、こうした感性価値というものを重要視して問題を克服する、課題先進国であるべきというのが私の主張です。

 

 

  イノベーション創出に向けた新しい産学協創と大学の役割

     染谷隆夫(東京大学副学長)

  東京大学の染谷と申します。 私自身は半導体が専門ですが、今東大においてはスタートアップの育成を担当しておりますので、その視点から話させていただきます。

 科学の資本主義化が進む

  今、大学から見えている景色ですが、一言で申し上げると、科学とビジネスの近接化が進んでいる。あるいは、「科学の資本主義化」が加速しているともいえます。 こう言うと違和感を持つ方も多いのではないかと思いますが、資本主義の流儀が科学の領域にものすごい勢いで浸透しています。具体的にはデジタル革命が起こり、プラットフォーマーとなった一部の民間企業が勝者となって市場を総取りし、巨額の資本を蓄積しているわけです。

  この富が科学の方に回ってきて、この資金がないと科学でも勝てないような状況になってきている。 好奇心を基にした基礎科学の重要性を否定するつもりは全くありませんが、ビジネスで成功して巨額の資金を持っていないと科学でも勝てなくなってきている。 つまり、基礎科学で新しいものを生み出すところまでできたとしても、それに続いてビジネスで成功するところまでいかないと、次の再投資に資金を回せません。こうしたことも含めた本質的な課題解決に向けて、大学の知恵への期待が高まっているといえます。

 

 複雑化する社会課題

 これに関連して申し上げたいと思いますが、社会課題が複雑化し、課題の難易度が上がっている。 また、市場のニーズが不透明で、かつ重要なシーズも見えにくい。変化のスピードが速く、一体どの技術に投資したらよいのか勝ち筋も見えにくくなっています。いろいろな領域の知恵を集めてインテグレーションしていく必要があるわけですが、日本はそういうことがあまり得意ではありません。

  新しい課題に遭遇したときに総合力でチャレンジするという人材が不足している。課題を俯瞰的に捉え、多面的に対応できる総合力を持った人材の育成が求められており、大学への期待が高まっていると思います。

 社会連携講座10倍に

  私は2年前まで東大の工学部長をしておりましたが、その際に社会との連携や絆を深め、社会課題を解決することを加速していく活動を始めました。「社会連携講座」といい、外部からの資金を大体6000万円から9000万円ぐらい集められると、新しい研究室を作ることができるという仕組みです。

  7年間で、金額ベースで10倍になり、今は75の社会連携講座(研究室)ができています。東大工学部のような大きな研究組織ですら300ぐらいの研究室しかないなか、民間資金で75の研究室ができ、そこに教員や新たな若手教員などが雇用されるため、大きなインパクトになっています。 

  もう一つ私が担当しているのが、スタートアップです。東京大学では、スタートアップ10倍計画というものを進めています。 東大関連スタートアップは昨年末までに577社ありますが、これを倍増させようというわけです。

 求められる知財収益の強化

  そうした中、課題になっているのが東大を含む大学が知財力をいかに強化していけるかということです。図に示したように、大学が取得している特許の数というのはアメリカと日本を比べて大体2倍ぐらいしか違わないんです。しかし、大きな違いは金額ベースでの特許収入で、1件当たりの特許の収入をみると、アメリカは日本に比べて52倍大きいのですね。 日本は基礎力を強化して、新しいシーズを生み出す力、研究力を強化すると同時に、知財力も強化して稼げる知財を生み出していく必要があるということです。

   競争力を高めるための産学連携についても工夫をしております。従来は、企業と大学の共同研究といえば既存領域の発展型が多かったのですが、新規事業を探索する際に大学が持っている基礎力と企業が持っている実践力を掛け合わせることによって大きな展開が図れるのではと期待して、相談させていただいています。

  さらに、スタートアップに大学が協力しながら伴走したり、大学と企業が連携してイノベーションを起こせる人材を育成したりすることも求められています。

          

      「近道」としての「女性研究者応援」

     高橋真理子(科学ジャーナリスト)

  高橋真理子と申します。 昨年、『科学に魅せられてー女性研究者という生き方』(日本評論社)という本を出版しました。1933年生まれから1985年生まれまで、様々な専門分野を持つ女性研究者28人のインタビューをまとめたもので、 日本の科学界の「村社会」ぶりが浮かび上がる内容になっています。今日は、そういう1人1人の研究者の目から見える日本の科学界の課題というものを、明らかにしていきたいと思います。

 「村社会」の中で苦闘する女性研究者

  一つの例としてまず、「木村中立説」を取り巻く日本の学界状況を紹介します。木村資生(きむら・もとお)さんはご存知の方も多いと思いますが、分子進化の中立説を1968年に打ち出したことで有名な集団遺伝学者です。1976年には文化勲章を受けられています。

  私の本に登場する太田朋子さん。彼女は1933年生まれの、最年長の方です。 アメリカで集団遺伝学を学んで博士号を取り、日本に帰って国立遺伝学研究所の木村研究室に入りました。木村さんとは独立に、中立説とは異なる「ほぼ中立説」を1973年に発表します。 ところがなかなか理解されず、長年経って2016年にようやく、女性の自然科学者として初めて文化勲章を受けられました。 

   太田さんは、「木村先生の中立説はうまく説明できない点があると気になって、中立な変異の他に少し有利、少し有害といった弱い効果を持つ、ほぼ中立な変異もあると考えると問題点が解決すると気がついたんです。 ところが、その話をすると、木村先生や同僚の研究者たちからえらく批判され、議論をしようとしても喧嘩みたいになってしまった。 それで黙って投稿しました。 幸いすぐにネイチャーに論文が掲載されたのですが、それでも相手にしてもらえない時期が長く続きました」と、インタビューに答えています。

  国内でみなが中立説を信奉するなか、太田さんの説は中立説をわかりにくくしただけと受け止められ、木村先生だけでなく、ほとんどの集団遺伝学者から批判され続けました。2015年にその太田さんが、「クラフォード賞」というノーベル賞が対象としない分野の顕著な科学業績に与えられるスウェーデンの賞を取り、ようやく認められるようになったのです。

  似たような例として、「今西進化論」もあります。 今西錦司さんは、京大教授などをなされた方で、日本のサル学の生みの親。今西進化論の提唱者として有名です。今西進化論は一時、大変もてはやされましたが、科学的なメカニズムが説明されておらず、今は科学的な説とは認められていません。 

  進化生物学者の長谷川真理子さんが、今西進化論に対して疑義を唱えると、京大の研究者らから〝国賊〟扱いを受け続けたといいます。

  このお2人の例からわかることは、今西先生や木村先生といった偉い先生に逆らわないというメンタリティが日本人男性研究者にはあるということです。 これは私の仮説ですが、偉い先生が言ったことでも間違っていることは間違っていると主張できるメンタリティが、女性の研究者にはそなわっているのかもしれません。

 「論文を書くための研究」の弊害 

  他の女性研究者の話からは、研究の在り方や、研究資金の問題点も浮かびあがりました。1975年に生まれで、生命の起源を研究する鈴木志野さん。彼女は、こまごまと論文を書くことを指導され、「論文を書くことが研究」とする日本の状況に絶望して渡米します。そこで、「論文を目的化してはいけない」ことに気づかされ、研究業績を伸ばします。

  何が言いたいかというと、20世紀にはまだ自由に研究できる風土が日本にもあったが、21世紀に入って自由な研究が窒息しつつあるのではないかということ。国立大学が法人化され、競争的研究資金の獲得競争が進むと、質はともかくとして論文の量が求められます。「お金に見合った量の論文を書け」というわけです。

  日本は研究資金が減ってきているといわれますが、資金を増やせば問題が解決するという単純な話ではありません。

 

  時代遅れの研究イメージ

  28人の女性研究者インタビューから気がついたのは、彼女らは必ずしも競争を好んでいるわけではないということです。競争嫌いでも立派な業績をあげておられ、「ライバルがあってこそ科学の進歩がある」という考えが、必ずしも正しいわけではないことがうかがわれます。それから、「一つの分野を極めることこそ尊い」という日本人男性研究者にありがちな通念に反して、自由に研究分野を変え新しい研究に挑戦して成功した人も多いのです。これは、何も日本人女性研究者に限ったことではありません。

 「村社会」の構造を変えるために

   いろいろ例をあげましたが、結局は村社会の構造を変えて風通しの良い研究環境を作ることが重要だと思います。研究室内の風通しだけでなく、研究室と大学執行部、さらに大学と文科省、大学と企業の間の風通しなどもあります。あらゆる関係性の中で、お互いに対等な立場で議論し合える環境というものが必要なのです。

  具体的な方策として、一定数以上の女性や外国人を研究現場などに入れること。いわゆる「多様性」ですね。 そうなると、村社会が維持できなくなって、結果として風通しが良くなるのではないかと思います。 

  科学には女性の視点が必要

  素粒子物理学の「パリティ非保存を示す実験」で有名な 呉健雄(チェンシュン・ウー)さんは、女性として初めてアメリカ物理学会長になった人ですが、1983年に来日した時にインタビューしたことがあります。「女性も男性も知的能力は同じ」という彼女の言葉には共感しましたが、さらに「科学自身にとっても、男性とは違う視点を持った女性が必要である」とまで言われたことが、強く印象に残っています。 

  

 「科学立国の再興には、女性研究者を増やし、女性が活躍しやすい研究環境を作っていくことが必須である」。これが、今日私がお話ししたことの結論です。

   

 

       新たな「知」がイノベーション・国力の源泉

      井上諭一(文部科学省科学技術・学術政策局長)

   文部科学省の井上です。 1991年に科学技術庁に入りました。以来ほぼ一貫して科学技術行政に携わっております。 「資源がない日本は科学技術だろう」と思って入ったわけで、科技庁に入って34年。この期間が、ぴったり「失われた30年」と重なっているんですね。だから、本当に忸怩たる思いでおります。しかし、日本にはまだ何とか反転できるチャンスがあるのではないかと、行政官を続けています。

  懸念される大学の機能不全

  まず現状認識ですけれども、イノベーション・国力の源泉として、新たな「知」が求められているということです。今や基礎研究を大学がやって、それを民間が価値化するというリニアモデルではなく、「知」と社会をつなぐシステムが複雑化、多様化しており、ダイナミックに動いています。こうしたなかで、言葉が過ぎるかもしれませんが、新たな知を生むメインプレイヤーである大学は機能不全に陥っているのではないかということです。

 

  これは大学だけが悪いわけではなく、いろいろな社会システムなどの影響もあります。 課題はいろいろありますが、まずは低調な研究開発費。 それと、大学のマネジメント、研究者のマインドなどにも問題があります。

  研究論文の惨状

  論文だけが科学技術力を見る指標ではないとは思いますが、注目論文(Top10%論文)の状況を図で示します。日本は総合ランキングで13位ですね。人口が5000万人にも満たないスペインに抜かれたときもショックだったけども、一昨年はイランにも抜かれました。

  分野別に見ても、あらゆる分野で日本は負け負けです。化学とか材料は結構日本が強かったのが、全部下がっている。 これと比べて韓国が近年、急激に伸びてきています。

    伸び悩む研究開発投資

  論文を生み出す機関として、かつては大学のほか企業の中央研究所がありましたが、日本ではこれが衰退して今は完全に大学が主体。ところが、その大学への研究開発投資が相対的に減っています。各国が大学への投資を伸ばしている中、日本だけが2000年から横ばいですね。 欧米の大学は自らのマネジメントで外部資金を引き込んでおり、こうした大学のマネジメントの在り方も、日本の課題かと思っております。

  国立大学には国から運営費交付金が出ていますが、これがずっと下り坂で、加えて消費者物価指数が急上昇しているため、実質的には相当な減少幅です。大学の現場は、本当に悲惨な状況になっているということです。 

  世界の研究大学が成長する中で・・・

  世界の大学の状況はどうなのか。多くの国の研究大学が収入を大きく伸ばしているなか、日本の大学は停滞しています。なぜ差がつくのか。収入構造をみるとまず寄付金があります。「日本には寄付文化がないから・・・」とおっしゃいますが、アメリカの大学が寄付金を熱心に集めるようになったのはわずか20年前です。

  ただ、集まった寄付金でファンドを作り、ファンドマネージャーに任せて運用益を生み出す。ハーバード大の場合は4兆円以上のファンドを積み上げており、その運用益が毎年2500億から3000億毎年出ています。さらに知財収入なども加わります。

  研究支援要員が決定的に不足

  問題は資金だけでなく、大学・研究機関のマネジメント上の課題も多い。研究者にアンケートすると、研究機器のメンテナンスや操作を支援する技術支援要員(テクニシャン)などが足りずに、円滑に研究ができないという意見が多い。多くの要員をかかえる韓国などと比べ、主要国の中でも日本は最低レベルです。

  日本の大学では高齢化が進み、若手・中堅人材の比率が低いのも問題で、研究以外の事務的な負担が多いのも、研究者らの不満になっています。

 研究機器の共用促進を

  研究に欠かせない高価な分析機器や研究機器は、みんなで一緒に使えるようにした方が望ましい。ただ日本では、研究者に「これは俺のもんだ」というマインドがあって、共用が本当に進んでいません。ただ、海外では機械の共用はもう当たり前なりつつあります。

  さらに一歩進めて、装置、機械類を拠点に集中させるという動きが米英などで出ています。そうすると何ができるかというと、複数の機械をつなげて自動的に一連の分析をやる自動化が可能になる。データも集中化でき、大量のデータを体系的に集めることが容易になります。それをAIと掛け合わせて、新たなサイエンスを生み出せるというわけです。

  これからは日本でも、個人所有を転換して、オールジャパンの研究者、民間企業、スタートアップに開放するといったことを考えたいと思っています。

 国際ネットワークで存在感発揮を

  先端研究に国境はなく世界で戦うというのが基本ですが、残念ながら日本の研究者は外に出たがらないし、外からもやってこないという現実があります。米サイエンス誌は欧米を中心にした世界の主要国に審査編集委員を配していますが、アジア地域では日本が長年存在感を示してきました。しかし近年日本では、審査編集委員数が減っているようです。世界のトップサイエンティストのサークルから日本人の顔が見えなくなっていくようで、残念なことです。 

  研究で生きる覚悟のある大学を〝えこひいき〟したい

最後に科学立国再興のための諸課題を表にまとめました。物価高騰や人件費上昇に対する大学支援、民間資金を呼び込むための仕組みの構築・・・といろいろあげています。なかでも、研究で生きる覚悟のある大学を、何とか強化したい。

日本には800大学がありますが、この大学にあまねく対応する政策をと考えると角がとれて結局大したことはできません。そこで、研究で生きる覚悟のある大学を思い切り〝えこひいき〟し、優遇しようと思っています。800校のうち該当するのは20校かせいぜい30校くらいでしょうか。

覚悟ある大学にはどんどん資金を投入するなど厚いサポートをしますが、その代わり、研究環境などマネジメントを改革、強化してもらい、強い大学になってもらいたいと考えています。

続いてパネルディスカッションを報告します