お知らせ

お知らせ

21 世紀構想研究会創設 25 周年記念シンポジウム  報告2

2022/11/13

時代に取り残された学校現場 

教育施策の立て直しを考える

冒頭発言 パネリスト 小本 翔

1985 年東京生まれ。青山学院大文学部卒。埼玉県公立小学校に 3 校、計 14 年勤務。子どもたちの「主体的・対話的で深い学び」作りのため、様々な「授業準備」に力を入れる。学年主任・生徒指導主任を歴任。現在、埼玉大教職大学院で学ぶ。研究テーマは「異文化理解を見据えた小学校外国語科の授業デザイン」

体験の中から話をしたい

現職教員としてこの場に参加させていただきました。埼玉県の公立小学校合計3校、約14年間勤めてまいりました。今回のシンポジウムのテーマである「時代に取り残された教育現場」を見て、自分自身も取り残されているのかなと思いながら出席しました。自分の経験の中で実態はこうなんだということのごく一部を紹介できればと思います。

今回の発言と私の考えは主義や信条、イデオロギーと関係なく、普通の教員の立場から述べさせていただき、多くの教員の思いを代表するつもりで発表をします。
学校に関するニュースの中には、教員離れに歯止めがかからず採用倍率が低下しているとか、それに伴って教員の質の低下が報道されています。あるいは残業、過労死というキーワードであったり、学校のブラック化など働く環境として恵まれていないイメージが強く報道されています。

 

教員のなり手が少ない理由のうちの一つに、学校での労働環境が良くないと指摘されることがあります。数年前から埼玉県のある公立小学校の教員が、労働環境の悪さの一つとして、残業代が支給されないのはおかしいとして県を相手に訴訟を起こしています。

原告側の主張は、長期にわたって過酷な時間外労働がまん延していること。給特法という法令により、教職員には時間外労働手当が一切支給されないこと。これは、おかしいという訴訟を起こしております。

今年8月の二審判決でも、原告側の訴えは棄却され、現在は最高裁へ上告をしています。

学校の先生って超過勤務? 残業時間で何をしているの? と疑問に思われる方が多いのです。ここに、ある教員の一日の勤務内容を一例として円グラフで示しました。

教員によって業務内容に差はありますが、正規の労働時間が午前8時半から夕方4時50分と定められているにもかかわらず、朝は約1時間、終業後も2時間、3時間、4時間と超過勤務を強いられている毎日です。

授業内容などの画像は、容量が大きいのでここでは、すべて割愛します。ただし、ウエブ掲出では、すべて入れます。

学校の先生の大切な仕事はもちろん授業です。その授業をするためにはどんな準備が必要なのか。簡単に説明・紹介したいと思います。小学校は担任の先生が基本的に全ての授業をこなします。数えてみると10科目以上、1年生から6年生まで6学年教える、こんなにも幅が広いんだということです。

音楽などの専門教科は、専科の先生がいてお任せできる学校も多いです。この時間割は、私が4年前に担任した6年生のときの時間割表です。授業では国語・算数・理科・社会の科目をイメージすることが多いと思いますが、小学校ではご覧のとおり、主要科目以外の教科が毎日あります。

数ある授業の中で準備の負担が大きいのも、この主要科目以外の教科である場合が多いのです。毎週おこなわれる書写の授業準備を一例として紹介します。書き初めの単元が入った授業をするにあたってどんな授業準備が必要なのか写真で紹介します。

書き初めには毎年お題が配られます。そのお題は、教員が事前に児童用のお手本を一人一人原寸大に拡大コピーをしています。あらかじめ半分に分けて印刷をしてのり付けした後は、余白をはさみで切ったりします。

子どもにやらせればという意見もあると思いますが、実際に子どもにやらせてもうまくいかず、授業時間内には収まらないので教員があらかじめ用意する場合が多いのです。

授業で必要な半紙や画仙紙も児童分が勝手に届くわけではなく、1,000枚規模で注文します。それを児童一人一人に、やれ10枚、20枚と小分けにして配ります。先生はその袋にも児童の名前を書いたりします。

書き初めの授業は机がある教室ではおこなえません。学習室や体育館でおこないますが、あらかじめテープやシールなどで床に印をつけ、児童一人一人のスペースを確認します。自分の場所がわからない、子どもに落ち着きがないことが多いので、あらかじめこういった準備が必要なのです。

 

              

 

書き終わった半紙や画仙紙を保管する作品綴じは、あらかじめ児童数用意します。ときには2時間以上かけて準備をする内容が多いのです。

児童一人一人に良いところアドバイスなどを朱墨で添削をしたり、学期末が近づくとクラスで選抜された児童代表の指導に毎日追われることとなります。終わった後は廊下に掲示をしたり、保護者会に見てもらう作品コーナーなども用意します。

  

このスライドは、小学校5、6年生でおこなわれる家庭科の調理実習です。毎週の授業の中で家庭科、体育、図工というのは、担任にとってすごく準備の負担が大きい科目です。家庭科の調理実習前には、使う道具の除菌や洗剤に不足がないかなど逐一担任が確認します。

 

調理に伴うワークシートもあらかじめ用意します。授業に使う食材も買いに行きます。使われる調味料のしょう油、かつお節などもクラス人数分計算して購入します。学校で一括して買えばいいと思うかもしれませんが、クラスごとに集金をします。

買い物もまずは1回担任が代金を立て替えます。活動班ごとに、使う分の小松菜や調味料などを小分けにしておかないとパニックになってしまいます。このように入念に準備しないと授業ができないということです。

      

   

書き初めも調理実習も特別な授業ではなく、日常の授業のうちの一つです。いわゆる算数・国語という主要科目と並列しておこなわれる授業です。他にも体育のハードルの準備や家庭科のミシンの準備、図工の版画、理科の実験の器具の準備など、子どもが帰った後に担任が必要最低限の準備をしています。このように授業準備をしないと予定時間内に終わらないし、スムーズに授業が進まないからです。

このように負担を感じながらも準備が整った授業をすると、子どもたちが満足して楽しんでくれます。その姿に励まされながら教師は遅くまで仕事に追われていると思います。

冒頭で紹介した、公立小学校教員の訴訟問題に戻ります。二審判決では教員の残業が認められないというものでした。その判決内容に、とても引っかかる箇所がありました。授業準備は教員による自発的なものであり、労働時間には当てはまらないという判断でした。

つまり、先ほど私が紹介した書き初めの準備、家庭科の調理実習の買い出しやまな板の除菌も全て労働時間ではなく、教員の自発的なもの、いわゆるボランティアとして認識されているわけです。

授業準備やテストの丸付け、欠席児童への電話連絡、登下校指導など勤務時間外におこなわれる業務がたくさんあり、毎日それに追われています。その教員の仕事が正当に評価されないという判決が出て、とてもやるせない気持ちになりました。

今回の裁判長にしろ、国や文科省の方々にはまず、学校現場で教員がどのような仕事に従事しているのかに注目してもらいたいと思います。非力ながら、自分自身の経験を述べさせていただきました。また、冒頭でも述べましたが、私自身は組合や団体といったものに所属しているわけではなく、あくまでも一般の教員の立場として話させていただきました。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               つづく