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21 世紀構想研究会創設 25 周年記念シンポジウム  報告1

2022/11/13

21 世紀構想研究会創設 25 周年記念・教育再生

シンポジウムーその1

「時代に取り残された学校現場 小学校の教育施策の立て直しを考える」

開催日時 2022 年10月 1 日(土)午後 12時-同4時
会 場 日本記者クラブ 10 階大ホール
YouTubeで公開:https://www.youtube.com/watch?v=ye2XYLLWzco

パネリスト
安西祐一郎 公益財団法人東京財団政策研究所所長
松本 美奈 一般社団法人Qラボ代表理事、教育ジャーナリスト
小本 翔  小学校教諭

モデレータ
橋本 五郎 読売新聞社特別編集委員、日本テレビ系報道キャスター

IT 産業革命を迎えて社会が急速に変化し、社会が少子・高齢化へ向かう中で、いつの間にか教育政策は置き去りになり、教育への国民的関心が希薄になってきました。学校施設の老朽化と近代化の遅れ、教員の過重労働と不足など喫緊の課題が多数あげられています。シンポジウムでは学校現場の課題を出し合い、これを解決する対応策を模索し、政策へ結びつく提言と討論を展開します。

2022 年10 月1 日(土) 会場:日本記者クラブ 10階大ホール

挨拶 認定NPO法人21世紀構想研究会理事長 馬場錬成

21世紀構想研究会創設25周年記念シンポジウムを開催いたします。本研究会は、1997年の9月26日に創設されました。本日が研究会としては179回目の研究会開催となります。本研究会の下部組織として、知的財産委員会、生命科学委員会、食育推進委員会と3つの委員会があり、それぞれ活発な活動をしております。

食育推進委員会は、全国学校給食甲子園という全国規模の学校給食献立コンテストをおこない、今年17年目を迎えます。毎年1,200人以上の全国の学校栄養士から応募献立、食育活動が寄せられて、全国規模でコンテストをおこなっております。

創設された1997年は、橋本龍太郎内閣総理大臣の時代でした。消費税率を5パーセントに引き上げて、全体として停滞する経済状況でした。山一證券が破綻したのもこの年です。21世紀を間もなく迎えるときを捉えて、21世紀はIT産業革命が本格的に始まるとことを受け、我が国はどのような国になるのか、政策討論をして、それを提言にまとめ行政・国家の計画に反映してもらおう。こういうことで、21世紀構想研究会という名前で創設したものであります。
ところが、そのときから四半世紀過ぎまして、今どうなっているかというと、あらゆる局面で停滞していることは明らかです。日本は25年間停滞、後退した国になってきているわけですが、日本人の個人としての資質は明らかに進歩していると私は考えております。停滞、もしくは退歩しているのは、あくまでも組織・制度・機関であり、国体を支える三権でも立法・行政は明らかに停滞している。司法は違憲立法審査権という強大な権利を持っていますが、それを行使してないと私は考えております。

今日は国体の中でも一番重要な教育問題について、とくに小学校教育に焦点を当ててシンポジウムを開きたいと思います。3人のパネリストは安西祐一郎先生、小本翔先生、松本美奈先生、そして橋本五郎先生にモデレーターをしていただきます。3人の先生方に冒頭のプレゼンテーションをお願いいたします。

冒頭発言 パネリスト 安西祐一郎

1946 年生まれ、慶應義塾学事顧問・日本学術振興会顧問・公益財団法人東京財団政策研究所所長。1974年慶應義塾大大学院修了、工学博士、博士(哲学)。慶應義塾長、日本学術振興会理事長、中央教育審議会会長などを歴任。主な著書、『教育が日本をひらく―グローバル世紀への提言』(慶應義塾大出版会)、『教育の未来』(中公新書ラクレ)など。

一言でいえば教育は人間の根幹であり、国の根本だと思っております。初等教育だけに限りましても、このスライドに掲げましたようにいろいろ問題が出てきています。

とにかく教員が不足しており、若い世代は教員になりたがらない。応募者が少ないので採用試験の倍率も非常に低い。1倍レベルの都道府県もありますから教員の質が低下する可能性が非常に高い。国の根幹であるはずの教育が低下してくるということは、国が低下してくるということになります。

学校現場のその上に学校設置者の自治体があります。そこに教育委員会がありさらに文部科学省と上り、頂点に官邸があるわけです。つまり非常に複雑な意思決定構造になっています。

現場で一生懸命やっている先生はたくさんおりますが、教育政策ということになると後れを取るばかりのように見えます。小学校の学習指導要領は2020年度から新しくなりました。それによって、プログラミング教育が入り、英語が5年生から正規の科目になるなどいろいろなことが変わりました。

これに対してどういう手を打ててきているのか。学校の先生の立場から見ると、とにかくいろいろなことが降ってくる。ギガスクール構想では1人1台の端末が配られるのは結構ですけれども、前々から準備をしてきているのか。学校現場はその準備をしていたかということになります。

11番目に、教育への科学的・技術的知見の不足をあげましたが、AIを入れろという意味ではなく、合理的な教育政策の立て方がされていないという意味です。弥縫(びほう=欠点を隠すための一時的な間に合わせ)的な、パッチワークのようなことが起こったから、大変だからこれくらいお金をつけてなんとかやりましょうねということでやってきたんじゃないかという感覚が非常にするわけであります。

一方で教育界は社会とのギャップが非常に大きい。子どもたちのためには一生懸命やっておられるけれども、社会の姿の把握には疎いように感じます。今ウクライナ侵攻、あるいはインド太平洋波高しという国際問題があり、円高、インフレという国内経済問題もある。学校の先生方はどのように捉えておられるのか。

自分たちは教育の中だけでやっていけばいいんだ。子どもたちと部活をやっていればいいんだ。一生懸命やっていればいいんだというだけでは、学校の先生は務まらない時代になっています。時代の大きな転換期を、学校の先生も実感として捉えないと本当の教育には反映されないんじゃないかと思います。

しかし同じことは国民の方にもあるわけです。国民は教育界で何が起こっているのかあまり知りません。学習指導要領は、ほぼ10年に一度変わっていきますが、10年待っていられないほど時代はどんどん変わっていきます。

次の学習指導要領は、2030年になりますが、今から前倒しで準備を始めないと間に合わないという事態になっています。

最も大事なのは教育財源の問題です。これをどこから調達するのか。ここにも示しましたが社会保障の財源、あるいは防衛財源、科学技術財源、みんな不足しているといわれています。この中で教育財源をどうやってひねり出していくのか。国民みんなで考えていかなきゃなりません。社会保障の年金を少し削るのかということまで考えなければならないということであります。

それではどう解決するのかということになります。先ほども触れましたが、2030年の学習指導要領の改訂に向けて、国民が民間臨調をつくって自分たちで民間指導要領を作成するくらいの理解と気概を持つべきではないかと思います。お上の言うことを聞いて文句をいうだけではなく、国民が行動を起こすことも教育には必要ではないかと思います。

先生方の仕事が忙しいのは事実です。昔とは比べられません。先生には個人差もあるし、校長先生、教育委員会のやり方や方針もあるし上からのプレッシャーがあります。時代と共に仕事の内容も違ってくるわけです。

どう解決するかその2ですけが、教育が国の根幹だということを国民が理解し、みんなで考えていく。教育の未来構想、政策を考えていく。そういう場がないので文部科学省、教育委員会にお任せし、それに対していろいろなことを言っているだけです。

それから財源・予算の確保をどうするか。5番目にあげた教育の文理分断から脱却することも重要です。教育関係の方、教育学の出身の方だけに任せず、国民が共有して、みんなが発言をしていく。そういう時代をつくらなきゃいけないのではないかと思っております

6番目に科学的と書きましたけれども、合理的に教育の状況をきちんと見て、どことどこをどうやって解決していったらいいのか。ポリシーとストラテジーとして考えていかないと、常に個別の政策だけに対処していくようなことになりかねないと思います。
8番目に「就活人気ランキング・トップ10」にとあげましたが、教職を魅力ある職場にするということを、みんなに分かり易くするため、就活ランキングを出したものです。

2022年3月に産経新聞の「正論」に投稿する機会があり、教育現場を魅力ある職場にしたいということと革新的人材を輩出するための高等教育、博士課程支援策などを主張して書いたものです。

最後の写真ですが、国連総長のパネルで、デジタルコーポレーションと発展途上国のデジタル化をどう進めるかというテーマのディスカッションで発言したときのものです。ゲイツ財団のメリンダ・ゲイツさんアリババのジャック・マーさんが向こう側に見えますが、アメリカと中国の狭間で日本がどのような教育をしたらいいのか。学校の先生も一緒に考えていってもらいたいという意味で紹介しました。

右寄りの教育をしろとか、左寄りの教育をしろと申し上げているわけではまったくありません。私はやっぱり子どもたち一人一人が自分で本当に考えて、自分で行動していける。しかし人の心を感じ他の人たちと一緒に何かをつくり出していく。そういうマインドを持てる、そういう教育の場であってもらいたいと思っております。

つづく