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高市政権と日本の行方 【第二部 質疑・討論】

2025/11/15

高市政権と日本の行方

――山積する政策課題をどう乗り切るのか――  

【第二部 質疑・討論】

馬場 橋本さんには、最近の政権だけでなく過去にまでさかのぼって、非常に整理された分かりやすい政局論評を聞かせていただき、ありがとうございました。高市政権は発足してまだ間がなく、これからどう動くかわからない面もあるので、今後も状況に応じて分析論評をお願いすることとして、後半の質疑に移ります。ご参加の皆さんから、コメント、感想、質問などを、よろしくお願いします。

 政治の「国際競争力」をいかに高めるか

荒井寿光(元内閣官房知的財産戦略推進事務局長、特許庁長官) 大変鋭く、分かりやすい解説ありがとうございます。最近の政治のことを超えて、より広い日本の問題も、非常によくわかりました。日本の政治状況は結局、政党政治が時代に合っていないというか・・・。自民党は弱くなり、立憲民主党が、すぐに政権交代する気迫がないし、他の党もバラバラ。近年のヨーロッパ型の政治状況と似ている気がします。 外をみると、非常に強い独裁的なアメリカがあり、しっかり強い中国が隣にいて、ますます強くなりつつある。こうした状況下、もう一度、日本の政党政治がしっかりする必要があると非常に感じました。
 ところが今、一番問題になっているのが「政治とカネ」の話。アメリカ人からみていると、「何の話をしているんだ」といったところでしょう。こうした状況が続くと、オールジャパンとして取り組まなければならない大事な政策がさっぱり育っていかず、日本の国際的な地位が下がっていく。産業競争力、経済競争力などの低下が叫ばれていますが、政治競争力を分析して、これを立て直す。政治の国際競争力を高める運動が必要だと思います。

 「政治とカネ」 問題の本質は何なのか

橋本 荒井さんのおっしゃった政治とカネの件ですが、この問題の本質は何なのかに立ち返って考える必要があります。政治資金パーティーの問題は、新人議員が政治活動の資金のために個人としてパーティーを開いたって、簡単には買ってもらえない。 だから、派閥が代わりにやってくれているわけ。 例えば目標額の500万円があったとして、700万円分売ったら差額の200万円をあなたにあげますよと。これ自体は、なにも悪いことではなく、むしろ奨励すべきことですよ。

問題は、それを届け出なかったというだけの話ですよ。 届け出なかった人間は厳しく処分する。 法律的に処分されるだけではなく、政治的には選挙という審判を受けることで、政治的に裁かれる。この二つを経ることによって、また出てくればいいだけの話ですよ。いつ終わるかも分からないまま、際限なく続けるような問題ではないので、もっと大きな課題に取り組む次の段階に進むべきでしょう。

 政治家も学術界と交流を

馬場 オールジャパンで取り取り組むべき課題という話が出ましたが、教育関係に携わる中尾先生、思うところがあると思いますが、いかがですか。

中尾政之(東京大学名誉教授) 政治の世界をやや離れて、大学ではいろいろな変革が進みつつあります。明治以来の縦割りを脱して、工学、理学、農学などを融合した新学部を作ろうとする動きなどもあります。それと、DXやAIの急進展とか・・・。こうした変革期には、政治の世界でもその動きに対応できるような政治家が出てくるとありがたいと思いますが、そのあたりはどうなんでしょうか。これまで、学者・学術界と、政治の世界の交流があまりなかったようにも思いますが。

 

永野博(公益社団法人・日本工学アカデミー顧問) ほかの党のことはわからないが、自民党だとずいぶん勉強していますよ。学者・研究者を呼んで、朝の勉強会をやったりして。 結構、役所より中身のあるような報告書をまとめたりしています。いろいろな調整を経る役所の報告書が、はっきりものを言わないのに比べてすぐれている。若い政治家の中には、けっこう人材がいるように感じますね。

 

 

 

 SNSの弊害と情報教育

馬場 教育だけでなく、行政にも詳しい山本先生は、高市政権をどう見ていますか。

山本眞一(筑波大・広島大名誉教授) 高市政権はまだ始まったばかりで、評価的なことは言えません。やや離れてこの数か月、あるいは半年の間の世の中の言論の状況が気になっています。右傾化しているというか、非常に極端な言説が横行しているように感じます。心ある人が正論を言おうと思っても、SNSなどですぐ攻撃される。そのため、用心して思い切ったことを発信しなくなるという状況ですね。

世の中に何らかの不満を持っている人たちの意見、あるいはそれを利用しようとしている人たちが、煽っているというような印象が極めて強い。数年前に比べて、今のSNSの意見交換は、なにか恐ろしいほどすさんでいるような気がします。

私の専門領域は大学教育、あるいは学校教育なわけですが、正しいものの見方を子供たちに教えないといけないと思います。 ところが日本では、政治教育をやってはいけないとされてきた。特定の政治グループを後押ししたり誘導したりするのがいけないのは当然ですが、「政治というのはこういうものである」と教えることすら避けている。その弊害として、若者だけではなく大人も含めて「考えない人間」があまりにも多い。何かのきっかけがあると、一方的に流されるような気がしてなりません。 

 AI時代に即した教育改革を

馬場 オールジャパンで取り組むべきこととして私は、初等中等教育から高等教育、大学教育まで、戦後築いてきた教育制度を、AI時代も踏まえながら大改革すべきと思います。 良質の人材を、教育界に呼び込むという政策は絶対必要だと思いますね。 OECD(経済協力開発機構)の統計を見ると、教員の平均給与がビリから何番目というくらい日本は低い。 初等、中等教育の教員の労働時間もやはりビリから数番目くらいに長いんですね。

労働時間が長い割に教育に費やせる時間が少なく、賃金も低い。 そういう職場に有能な人材は集まらず、教員の質が落ちていくというのは当たり前の話なんですね。

 高市さんは、こうした問題にどの程度関心を持っているのか、橋本さんいかがでしょうか。

橋本 ストレートな回答にならないかもしれませんが、教育に限らず私は、「制度論」はあまりよいやり方ではないと思っています。 例えば今、政治の世界で中選挙区制に戻そうという意見があります。小選挙区制がよくないのは、死に票が多く、1人の人間を当選させるためにみんなにいい顔をしなければならない。個性的な人が出てこないで、多様性が損なわれるといった声ですね。

 制度には、メリット、デメリットがあるし、制度を変えるというのは、手間暇のかかる大変なことです。政治でいえば、まず自分を支持してくれる人をいかに多くつくるか、自分の選挙区で愛されて当選するのが先で、その上で、他の課題に挑める。まず、ゴム長靴を履いて田んぼを回って・・・と、不断の努力で地元に選ばれることが基本です。制度を変えたら偉大な政治家が出る、などというものではない。

 教育の場合でいえば、以前に「ゆとり教育が必要だ」と言いながら、今度は「ゆとり教育には弊害が」といったことが繰り返されてきた。制度論にこだわりすぎると、時間はかかるし、あまりいい方策ではないと思っています。

 農業の現場で 存続策を模索

馬場 教育の議論は短時間で尽くせるものではないので、やや分野を広げましょう。今日参加されている合原亮一さんは、東大法学部を出て有名企業に就職した後、突然辞めて長野県下で農民になった方です。水田の下の部分でイネをつくって、その上に太陽光発電のパネルを設置して電気エネルギーも作るということを実践しておられます。農業の現場でこうした試みをしている立場から、政治にもご意見がおありでしょうからお聞きしたい。

合原亮一(株式会社「ガリレオ」代表取締役社長) 政治の問題を考える前に身近な農業の現状をみると、日本の農業ってあと5年後にはたぶんなくなってしまうのではないか、といった状況ですね。 携わっている人はほとんど70歳以上で長くは続けられないし、若い人も入ってこない。農業をやりたがる人が少ないのは、農業だけでは生活できないからですよ。

国が何とかしなければならない問題だけど、国にまかせているだけでは・・・と始めたのが、発電と稲作の組み合わせで環境問題にも貢献するという方式です。もちろん、イネがあまり減収にならず、作業もしやすいようパネルの設置形態などを工夫しています。「コメだけでは儲からないけど、こんなパネルをつければ、発電でこれだけ収入になりますよ」と農家に勧めるのですが、なかなか受け入れられない。「もう70を超えたし、あと20年以上は生きられないので」と、しり込みされるわけです。他にも、農林水産省の規制が厳しくてパネル設置に制約があるといった悩みもあります。

 「強い経済」を目指す高市政権

合原 ところで、高市さんはどちらかというと積極財政派といわれています。福祉の分野などで国民の負担が軽くなるのはありがたいのでしょうが、長い目でみてどうなのか。負担を後回しにして、あとで破綻するようなことはないのでしょうか。

橋本 負担と給付の関係というのは、すごく難しい。 高市さんが今、一生懸命めざしているのは「強い経済」です。ただ、どこから始めるかが問題。賃金から始めるか、そうじゃなくて大きな経済から始めるかで違ってくる。安倍さんの場合は、「官製春闘」といわれるように、賃金上げろ、賃金上げろとやったが、あまりうまくいかなった。

強い経済になれば、社会保障に回せるお金も出てくるわけですが、どこから始めるかの問題がまずあります。それと、やはりムダなところは切らなければならない。社会保障だってムダがないわけではない。日本医師会が強いから、開業医の診療報酬が他に比べて恵まれているといった問題もあり、これからの改革は今までとは違うものが出てくるような気がします。

 再配分機能がうまく働くためには、負担すべきところはきちんと負担してもらわなければ困りますよ。 適正な負担をしてもらい、経済を大きくしたうえで、自分の力で出来ない人たちに手を差し伸べるということではないか。高市さんには、「働かざる者 食うべからず」といった気持ちがあるのではないかという気がします。

 科学技術政策は大丈夫か

馬場 経済を強くするには科学技術が欠かせないと思いますが、政治の世界でこのところ「科学技術立国」を旗印にする政治家をみかけませんね。今年は日本人二人がノーベル賞を受賞し、今世紀に入ってからの自然科学分野の受章者数はアメリカに次いで日本が2位になっています。ただ、これは過去の業績が評価されているということで、今の状況でこの先、大丈夫なのでしょうか。

中尾 そう見捨てたものでもありません。量子とか化学、なかでも触媒の分野は、相当に健闘しています。研究業績のインデックスをみても、日本はすごく強い。それをみていると、ノーベル賞がずっと出ているのも理解できますね。

馬場 ただ、論文数などの指標でみてみると日本はこの20年ほど横ばいか、全体的には下がってきていますよね。 やはり政治の場で、目に見える形で科学技術力の強化を明確に打ち出してもらいたいと思いますが。

永野 論文の数というのは、投資した金額に比例します。日本の場合はこの20~30年、研究費が一時は増えたが、このところ横ばいが続いている。論文の数も、減りはしないもののこれも横ばい。対して中国はこの間に、10倍ぐらいになっている。あまり経済、経済といいたくはないが、経済力が強くならないと研究費が増えないのも事実です。

 高市さんは今、経済のことを言っていますが、次には必ずイノベーションのことを言うはずです。 前にイノベーション担当大臣だった時、非常に一生懸命やられた。その重要性はわかっているはずですが、イノベーションの基盤として基礎研究力が必要なことにまで意識が及んでいるのか、気になるところです。

 日本の知的財産政策の不振

馬場 科学技術研究、 基礎研究の成果というのは、実用化に結びつかないとなかなか成果として認められません。研究力を経済力につなげるには技術開発とその成果を、特許やノウハウとして保護――もっとはっきり言えば囲い込んでロイヤルティーで稼ぐ。 それを新しい産業の創出に結びつける。アメリカが一番うまくやっており、最近は中国もこの分野が急速に強くなっています。日本の知的財産制度の現状はどうなっているか、元特許庁長官の荒井さん、いかがですか。

荒井 正直いって、日本の知的財産は非常に厳しい状況です。 企業からよい発明が生まれていない。なぜかというと、アメリカの投資家の利益のために、短期的に利益を出す経営をしろ、どんどん配当しろと迫られて、日本の政策が変わってしまった。民間企業の技術開発投資が、非常に少なくなってしまいました。

これに対して中国では、習近平さんが「知財強国」を旗印に強力におしすすめ、世界で一番知財について強くなっている。一方のアメリカは、個人の発明家がどんどん出てきてAIの分野などで成果が花開いています。フロンティアスピリットの国ですね。

日本もかつて、産業界や大学が発明を非常に大事にして産業に生かし、特許大国として強い経済を築いた時代があったのに、今はすっかり崩れてしまったという状況です。 何とか立て直すことが求められていますね。

 中国とはバランスの取れた外交を

馬場 中国経済などの話が出ましたが、中国問題に詳しい杉田さん、日本はどのようにこの国と付き合っていくべきなのか。いかがですか。

杉田定大(SMBC日興証券株式会社顧問) もう少し、したたかに中国と対していくべきだと思います。中国との間のパイプを持っている政治家や経済人が、非常に薄くなっています。アメリカは、トランプ・習近平会談にみられるように、どんどん中国と接触しています。中国はアメリカにとって痛いところ、たとえばレアアースのようなところを突いてくるし、逆にアメリカは半導体で中国を抑えようとしている状況がありますから。中国の方も、アメリカで活躍していた中国出身の人たちがどんどん母国に戻り、半導体のチップ開発を進めるなど対抗しています。

そうした状況の中で、日本はどうしていくのか、よく考えなければなりません。安倍政権時代のように、バランスの取れた政治・外交をやることが求められていると思います。その点で、高市さんが韓国で習近平主席と会談した後に、APEC(アジア太平洋経済協力会議)に来ていた台湾代表(元副首相)と会談したのは残念ですね。立ち話程度ならともかく・・・。事務方が注意するなど、慎重に対処すべきではなかったでしょうか。

  高市政権への期待

馬場 最後に、高市政権はいったいいつまで、もつのでしょうか。政権がくるくる替わるようでは安定した国政が営めないでしょうし、国民もこうしたことに関心が高いと思うのですが。予想しろといっても無理でしょうが、政治評論家としてどのようにお考えか、お聞かせください。

橋本 意図はわかりますが、その質問はほとんど意味がありません。というのは、長くなると思われていた政権で長かった試しはないし、逆も多い。竹下内閣は長く続くと思われていたが1年半で終わり、1年程度ではと思われていた中曽根内閣は5年近く続いた。最近では、それほど長くはないとみられていた岸田内閣が3年やって、この間に原発再稼働や防衛費の対GDP比2%など賛否両論ある機微な重要課題を、時間もかけないで乗り切った例もあります。

高市政権の場合は、私の経験上、単なる右翼だけの政権で終わらず、「化ける」のではないかと感じています。少数与党であるため丁寧な政権運営をやらざるを得ず、現に丁寧に対応している。もうひとつは、自分のやりたいことがはっきりしており、そのためにいささかも躊躇しない姿勢が、国民の支持を得るのではないかとも思えます。

高市さんを長くみてきて、総理になる前より、今の彼女の方をより評価するようになりました。揺るがない信念を持って、大胆に決断する政治をやられたらいいと思っています。

馬場 政権の行方を予測してもあまり意味がないことなど、よくわかりました。本日は、大変明快な政治評論を聞かせていただき、大変ありがとうございました。高市政権はまだ始まったばかりで、これから大変重要な局面が生じたり、選挙の動きが出てきたりすることもありえます。そうした際には、橋本さんの解説・論評が欠かせません。またのご登場をお願いして、本日の研究会を終えたいと思います。

 

 

 

 

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