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第203回研究会  橋本五郎氏が語る「総選挙総括と近未来の日本政治」

2026/03/02

  第1部 橋本五郎さんの政治論評 

 馬場錬成(21世紀構想研究会理事長)
 衆院選挙では、高市ブームで自民党が地滑り的大勝利、野党第一党が歴史的大敗北という予想を超える結果になりました。果たして日本の近未来はどうなるのか。今回の選挙結果は、日本の国民が確信をもって高市政権を支持したわけではなく、単なるブームが大勝利につながっただけではないかとも思われます。

  政治評論で活躍されている橋本五郎さんの総括を、お聞きしたいと思います。

 予想を超えた自民の驚異的勝利
 橋本五郎
 今度の衆院選は、自民党が戦後最多の316議席を獲得するという歴史を画する大勝といわれますが、実際はそれを上回る「330議席分」に相当する驚異的な大勝利だったわけです。というのは、各ブロックの比例代表選の名簿に掲載した自民の候補者数が控えめすぎて、せっかく獲得した14議席分を他党の候補者に振り分けることになったからです。
 ちなみに過去を振り返ると、与党の獲得数が戦後で一番多かったのは2009年に民主党・鳩山政権ができた時の獲得議席で、「308議席」です。これに次ぐのが、中曽根政権時代の1986年選挙の「300議席プラス4」。プラスとは、当選してから追加公認した議員数4で、合わせて「304議席」を取ったんですね。
 中曽根時代より議員定数が減っているので単純比較は出来ませんが、今回の衆院選は、当選議員実数、議席占有率ともに中曽根政権当時をしのぐ自民の大勝利となりました。

 「高市人気」が無党派票を集める
 こうした結果がなぜ生まれたのか。いろいろ要因が考えられますが、やはり「高市人気」が影響したことは大きいと思います。選挙前の高市内閣の支持率が70%前後と非常に高い一方で、自民党の支持率は低い中で、自民党内にははたしてどこまで勝てるかという見方もあった。ただ、選挙戦が始まってみると、多くの候補者は高市人気をうまく利用しました。自分はちょっと顔を出すだけで、応援にきてくれた高市総理を前面に押し出すような選挙活動やPR活動が目立ちました。
 過去の選挙例から言われてきたのが、投票者の三分の一程度を占める無党派層の行方が選挙結果を大きく左右するということです。多くの場合、野党が無党派層の票を集めてきました。現状に不満をいだいて、政権批判に傾きやすいのが無党派層で、こうした層が自民に投票することは少なかった。
 ところが、今回は違った。報道機関の出口調査でわかったことですが、前回選挙に比べて、無党派層の自民候補への投票がかなり増えています。「中道改革連合(中道)」として新発足する立憲民主党など野党候補者らがこれまで集めていた無党派層の票を、自民が取ってしまうという逆転現象が起きたのです。

 「中道改革連合」の失策
 自民にとっては、敵失という要素もありました。「中道改革連合」への期待感が高まらなかったことも、今回の結果には大きく影響しました。「突貫工事で作った党だから無理もない」と言えばそれまでですが。選挙前のある新聞社の世論調査で、「中道には期待しない」という回答が7割を超えるという報道がありました。
 立憲民主は、原子力発電所の存続や安全保障など、基本政策に関する問題を党内で深く議論することもなく、公明の意見を聞き入れる形で「中道」を作ってしまった。それまで立民を支持してきた人たちは、幻滅感を味わってしまいます。
 また、結党にあたって幹部らの顔ぶれに新鮮味がなく、野田(立民)、斉藤(公明)両氏が共同代表として顔をならべただけでなく、幹事長や政調会長もそれぞれ二人というありさま。政党の体をなしていないのは明らかで、結党の経緯をふくむそうしたことを有権者に見透かされてしまったことが、選挙結果に出たということではないでしょうか。

 小選挙区制の宿命か
 今回の選挙結果を生み出した背景にはそもそも、「小選挙区制」の効果があることも、忘れるわけにはいきません。小選挙区制下では、こうしたことが起きうるのです。
 非自民・非共産の細川政権(1993-1994年)の時に、自民の賛同も得てなぜ「小選挙区制(小選挙区比例代表並立制)」がスタートしたのか。
まず「金のかかる政治」をやめること。そして「政権交代可能な政治」を目指すことが目的でした。それまでの「中選挙区制」では、同じ政党から複数の候補者を出して当選させなければ政権を目指せない。同じ党の候補者が同選挙区内で競り合うので金権選挙になりかねません。また、どの選挙区でも半数を超える議員をそろえる政党はそうは出ないので、いつまでも政権交代が起きない。
 こうした難点を解消するには、小選挙区制がよかった。「中小政党が出てこられない」といった批判にも耐えられるように、比例代表も加味するという工夫もしました。ただこの制度では、その時々の大きな風によって、結果がドラスティックに変わります。2009年の衆院選で民主党政権が生まれますが、民主が115議席から308議席と3倍近くに伸ばしたのに対し、自民は300議席から119議席に激減するんですね。一方2012年の野田・民主党政権の選挙では、民主が230議席から57議席にまで減らし、自民が118議席から294議席に増やした。
 このようにドラスティックに変わるので、今回勝った自民が次にどうなるかは、わからない。今回私は、中道の人たちに「諦めることはない。これから努力すれば、次はひっくり返せることもある」と言っているんですよ。

 「電撃解散」の効果
 今回選挙の総括として、①高市人気②中道の失敗③小選挙区制の効果―と三点を話してきましたが、もうひとつあります。その四点目が電撃的な解散です。高市氏側からすれば、「してやったり」と、いったところでしょう。
 事実経過をたどれば、通常国会冒頭の解散説は、去年からずっとあったんです。実際に検討もされてきた。自民党もふくめて、どこでみなが「ない」思うようになったかといえば、1月23日に通常国会を召集すると決めた時点です。「ああ、これで冒頭解散がなくなった」と。招集が23日の一週間前の16日や、さらに前の9日ならありえたかもしれないが、23日では無理と多くの政治家が思ってしまった。なぜかといえば、16日に召集すれば、新年度予算案の年度内成立がぎりぎり可能だからです。
 ところがどっこい、高市氏本人は諦めていなかった。年度内成立ができないかもしれないと考えながらも、「23日の冒頭解散」に踏み切ります。

 冒頭解散批判の3類型
 当然ながら、マスメディアも含めて、大義や正当な理由がないといった厳しい批判が出ました。その批判の第一は、施政方針演説もせず、国会の議論もしないで解散するのは、解散権の乱用ではないかという点。

 二点目は、国民が物価高で苦しんいるなか、あれだけ「国民の暮らしが大切」と言ってきた本人が予算成立を遅らせてまで、解散とは何事かという批判。

 第三が、最近話題になり始めた旧統一教会との関係や、決着しきっていない政治資金の問題などを隠すための「疑惑隠し解散」ではという指摘だ。

 「大義」がないわけではない
 だが、私にいわせれば、角度を変えれば「大義」などいくらでもあるということ。判断材料がないと言われるが、高市政権ができて3ヶ月、外交的にいろいろなことをやってきたし、国会論議もあった。今度の選挙に向けた公約も出している。
 予算の年度内成立についても、そもそも成立させればそれで済むわけではなく、関連する法律を国会で通し、野党の主張も聞きながら実際に執行していくには、安定した強い政権でないとままならない。そうしたことに目をむけずに、はたして国民のためになるのかと、高市さんは思っていたのではないか。
 それにそもそも、高市政権は国民の審判を受けていない。石破さんが辞めてしまったので、国会内で高市さんが新政権を勝ち取ったが、選挙を経て国民から選ばれたわけではありません。こうした観点からすれば、「早く解散して信を問え」という主張にも正当性があります。

 解散を求めない野党の怠慢
 予想外の冒頭解散を批判する前に、政治家はいつ選挙があっても対応するという「常在戦場」の緊張感をもって臨むべきなのに、それを怠ってきた野党側にも問題があります。安心しきって準備をしてこなかった自分たちの不明を、まずは恥ずべきではないかと思います。
 中国との関係を悪くし、物価高対策は全然ダメ、スパイ防止法などにも手を出そうとしていると高市政権を批判するなら、「こんな内閣に任せておけないので、解散して国民の信を問うべきだ」と主張するのが筋だと思いますが、まったく逆の対応になっています。
もっとはっきり言えば、解散に反対するということは、この高市内閣がずっと続いてほしいと主張しているのと同じだということです。

 「高市人気」背景に閉塞感打破への期待
 高市人気の要因は何かと改めて考えたとき、まず賛否は別にして「強い信念と覚悟」があると思います。その点で、小泉純一郎政権(2001-2006年)と非常によく似ている。いずれも、信念をもって時代の閉そく感を打破してくれるのではないかという、国民の期待感を高めました。
 ただ、小泉政権では構造改革や郵政民営化を実際に行ったが、高市政権の場合は、まだ何も成し遂げていません。これからという段階なので、評価は今後いかに実績を上げていけるかにかかっています。実績が伴わなければ、一時的な「高市バブル」で終わってしまう懸念がないわけではない。

 「強いリ-ダー」を求める風潮
 二つ目の要因は、やはり強いリーダーが求められるという世界的な潮流と関係するのではないか。外に目を移すと、トランプやプーチン、さらに習近平といった強権政治を発動している国が、今世界を動かしているという印象が強い。一方ヨーロッパでは、どこも政権基盤が弱く、右の勢力が勢力を伸ばしている状況があります。
 いいかどうかは別にして、世界各地で強いリーダーを求める機運が高まっている証だと思われます。こうした風潮が、高市人気にも関係しているのではないかと感じます。
 今回の選挙ではSNSを使った運動がこれまで以上に繰り広げられましたが、YouTubeなどに配信された選挙関連動画のなかで、高市首相の動画の注目度が際立って高かったという現実があります。例えば、首相が「未来は自らの手で切り開くもの」などと訴えた動画がその代表例で、1億5000万回も再生されたといいます。他党の代表らを言い負かし、中国に毅然とした態度を示した動画なども、好んで見られたようです。

 「大勝」に落とし穴はないのか
 国際政治学者の永井陽之助氏がかつて、国際政治の教訓から「全能の幻想」と「無為の蓄積」ということを言っていますが、大勝の落とし穴はあると思います。それが「全能の幻想」で、政治家は大勝すると政治主導で何でもできると勘違いしがちですが、過去にはいくつも失敗例があります。
 1986年の衆参同時選挙で大勝した中曽根政権が、前言を翻して売上税を導入しようとしたが、激しい国民の反発にあって断念します。2012年に政権交代をはたした民主党は、「事業仕分け」と称して各省庁の担当者を吊るし上げるような歪な政策を進める一方で、沖縄の普天間基地移設問題では「海外、最低でも県外」と公言しながら何も具体策を探さず、問題をこじらせました。この何もしないことが、永井のいう「無為の蓄積」です。
 高市政権は意欲的なので「無為の蓄積」はありえないにしても、「全能の幻想」には懸念がないわけではない。信念を貫くことは大事だが、決めるにあたっては慎重に臨み、決めたら揺るぐことなく進むという姿勢が求められると思います。

 「新人教育」の悩み
 今回の選挙で自民党には、66人もの新人議員が生まれました。選挙を経て選ばれた「一国一城の主」ではあるけれども、国会のことはよく知らない。この〝新入社員〟を教育しなければなりません。議員としての所作や国会内での振る舞い、さらに一番の問題は、一体どこからどこまでやれば、選挙違反にならないのかといったことも教えなければなりません。
 昔はこれらを派閥がやっていた。派閥は情報機関でもあって、朝食会をやれば、農林部会、文教部会、厚労部会など様々な部会に属する議員が報告するので、参加者は自民党全体で何をやろうとしているかが分かった。これらの教育指導を自民党事務局がやろうとしても、とても職員数が足りない。派閥解消が何度も叫ばれながら、なかなか実現しなかったのも、ここに一因がありました。
 選挙後にさっそく新人議員全員を集めて研修を始め、安易にマスコミに出ないよう通達を出したりしていますが、まだこれからという段階。軌道はずれの新人議員を出さないための対策は、巨大与党になったが故の難題だと思います。

 馬場
 橋本さん。ありがとうございました。高市ブームの風が吹いて、その上昇気流に自民党がうまく乗る一方で、野党側が陥落していったという今回選挙の背景や舞台裏が、よくわかる総括内容でした。

 後半の質疑応答で、参加の皆さんの質問をお受けするので、よろしくお願いします。

第2部に続く

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