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総選挙総括と近未来の日本政治【第二部 質疑・討論】

2026/03/05

 【第二部 質疑・討論】

 馬場錬成(21世紀構想研究会理事長)それでは後半は、参加の皆さんの質問やご意見をお受けします。

 振れすぎがちなネット情報

 石塚利博(株式会社リガクX線研究所所長付・IP Strategy担当)

 最近、インターネットでニュースを見る機会が増えました。識者が、テレビなどオールドマスコミを信用しないと発言したりしています。若い人を中心にテレビを信用しない人が増え、その反動か若者らの高市支持率が高かったように思います。橋本さんはこうしたメディア状況の変化をどう考えていますか。

 橋本 確かに、家で見ることが中心のテレビと違ってネットニュースはどこでも見られるなど、メディア環境が変わっています。ネットは、時代を変えてみたいという気分を反映しやすいという面もあります。ただネットで流れる情報は、過激であればあるほど広がりやすいという特性もあります。

 たとえば、都知事選に出るまでになった「石丸伸二現象」ですが、どうなりましたか。「時代を変えた」とまで言われたが一過性で、どこかへ行ってしまいましたね。過激な方向にふれがちなネット情報は淘汰されて、いずれ落ち着くところに落ち着いていくのではないかと思います。

 石塚 アメリカやヨーロッパのマスコミは、今回の選挙は「反中」と「親中」の闘いで、「反中」が勝ったと報じています。私もそう思いますが、橋本さんはどうお考えですか。

 橋本 それは、欧米のメディアがやりがちな、単純な割り切り方のように思います。たしかに、「反中」の人は高市に投票し、「親中」の人が野党に投票したといわれると、そうだろうとは思えますが、そうした調査結果を見たことがないので確たることは申し上げられません。しかし、一般の有権者の意識がそんなに単純でしょうか。中国の過剰な反応のしかたや、高市首相の毅然とした対応などの要因が重なって、投票行動の要因のひとつなったとは思いますが。

 イギリスのサッチャーに学ぶべきこと

 橋本 前半の講演で紹介しきれませんでしたが、高市首相が尊敬する英国のサッチャー元首相の生涯を描いた本が最近、中公新書から出ており、大変興味深い内容です。

 『サッチャー 「鉄の女」の実像』というタイトルで、高市政権の行方を考えるうえで参考にもなるので、少し話させていただきます。

 サッチャーといえば、「確信の政治家」、あるいは、揺るがない「信念の政治家」といわれていますが、実際のサッチャーがやったことをみると、決めるまでは極めて慎重な面がありました。

 たとえば、彼女はいろいろな国有企業を民営化したといわれますが、そうではありません。英国の国鉄を民営化したのは彼女の政権時代ではなく、次のメージャー政権になってからです。それは、反対論があったからで、炭鉱の民営化も同様です。無理に強行するのではなく、極めて柔軟に現実的に対応しています。

またサッチャーは、幼いころ父に「他の人の姿に影響されて何かをしようとするのではなく、自分でやることを決め、その上で他の人を説得しなさい」と教えられ、それを実行する。こうしたところでは、自分が先頭に立って、「働いて、働いて、働いて・・・」という高市さんと似ているところがあります。ただ、高市さんは今、肩に力が入っていて、自分の言ったことを何でもやろうとしていますが、サッチャーの柔軟で現実的な対応は見習っていいかもしれません。

 

 「憲法改正」に対する本気度は

 荒井寿光(元内閣官房知的財産戦略推進事務局長、特許庁長官)

 橋本さんが先ほど「全能の幻想」と言われましたが、高市さんは選挙に大勝して念願の憲法改正に手が届く情況になった。「全能」をどこまで発揮しようとするのか、その本気度はどの程度なんでしょうか。

 橋本 それは、かなり真剣だとは思いますね。自民党にとっては1955年の結党以来の悲願で、改正のためには三分の二の議席を取って・・・と、あらゆることをやってきたわけですから。しかし、参院は三分の二には届いておらず、まだ「はかない夢」のままの状態ではありますが。

 私が一貫して主張してきたのは、憲法は国の基本法なので、野党の協力も得ないで強引に進めると、将来に禍根を残すということです。改正は「やる」、「やらない」というより、何からどうやるかということでしょうか。

 憲法改正はドイツの手法に学べ

 橋本 すでに60回以上も憲法を改正してきたドイツの方法が参考になります。国論を分けるようなテーマでは、野党の協力を得たり連立政権を組んだりして柔軟にやってきた。冷戦さなかに「国防軍」を創設したり、私権制限を行わざるを得ない「非常事態法」を定めたりした際に、連立政権の手法を活用しました。

 これに対して日本はといえば、なかなか「三分の二」の壁を越えられないので、「解釈改憲」で実態上は改正したのと似た効果をねらって80年やってきた。最近は、野党までが「解釈改憲」ですむなら、それでいいではないかと言うありさまです。

 私は、最初から最低限のところをやればよかったと思っています。それが自衛隊の位置づけです。自衛隊は、国民の9割以上が賛成しており、共産党でさえその存在を認めています。にもかかわらず、憲法学者の7割以上が憲法違反としている。

 災害があれば自衛隊に来てもらい、近年ではクマが出たからと自衛隊を呼ぶ。その存在がなぜ憲法違反なんですか。国民、国家を守ってくれる自衛隊を、違憲と思わせ続けている状況は極めて不健康です。

 憲法をめぐっては、80年前には想定されていなかった時代の変化をどう反映させるかなど、いろいろ議論がありますが、自衛隊のことだけは最低限、高市さんにやってもらいたいと思っています。

 多党化時代の政治の作法

 馬場 今回の選挙では、小さな党などもいろいろ出てきましたね。多党化時代といいますか。橋本さんは、こうした状況をどうお考えですか。

 橋本 自民が大勝した今回選挙ですが、より大きな目でみれば、おっしゃる通り多党化の時代だと思います。豊かな社会で投票率も下がるなか、一つの党が抜きんでて多くの議席を取り続けることはそもそも無理でしょう。多くの党の協力も得ながら、いかに国政を運営していくか。いってみれば多党化時代の「政治の作法」が問われる時代だと思います。

 高市政権が一時のアダ花で終わるか、それとも長期政権に向かうのかはまだ分かりませんが、サッチャーや安倍・元首相に学ぶべきことは多いと思います。

 『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)を読んでいただければわかりますが、安倍は「大統領は反対党によって倒されるが、内閣総理大臣は与党内で倒される」と言っています。業績があれば政権が存続できるわけではなく、党内で支持されなければ命運も尽きるというのです。

 たとえば岸田・元首相は、原発の再稼働をやったし、防衛費の2%への拡充、安倍総理の国葬など、あっという間になしとげた。菅・元首相も東京オリンピックを成功させ、携帯料金を4割引き下げ、不妊治療の保険適用などを次々実現した。だが両氏とも、「彼では選挙を戦えない」といった、選挙に弱い議員らの反対もあって続投できなかった。

 反対勢力の芽をつむ 

 橋本 では、長期政権を維持した安倍・元首相は何をやったかというと、反安倍勢力を早めにみつけて、徹底的に潰していった。高市首相は、まだその域には達していません。今回の電撃的な解散・総選挙にしても、幹事長にも副総理にも言わずに決めてしまった。結果的に大勝利だったので表立っては何もいわれないが、政治家の死命を制する選挙のことで相談無しどころか完全に無視までされたという「恨み」は、ずっと残っていくのではないかと思いますよ。

 高市さんは、党内にアンテナを張り巡らして、反高市の芽を摘んでいかなければならないが、それをやる「チーム早苗」と呼ぶようなものも出来ていない状況です。

 聞こえてきた話では、高市首相は秘書官がもってきた国会答弁案などの資料を公邸に持ち帰り、一人でじっくり点検してあれこれ直しを入れたものを、戻してくるというのです。勉強熱心なことは悪いことではないが、何もかも自分でやろうとすると、体がもちませんよ。そこに危うさを感じます。人に任せられることは任せる度量も、必要かと思います。

 

 血も涙もある政治を

 白川典之(新潟大学工学部准教授)

 高市さんは、何でも自分でやりたがるなど危うい点もあるという話でしたが、それではどうすれば、サッチャーさんのようなリ-ダーに化けられるのか。何かアドバイスはありますか。

 橋本 なかなか答えが難しい質問ですが、先ほどお話しした『サッチャー』を、お読みになればよいのではないかと思います。そこに書かれていますが、サッチャーには人前で「涙」を流したことが二度あったといいます。アフリカのジンバブエという旧植民地が独立する式典が行われているのをテレビで見ていたとき、「女王の在位中にまた、国が(英国から)離れていった」とエリザベス女王の心中を思って涙を流したのが一回。もう一回は、アルゼンチンと戦ったフォークランド紛争で英国の軍艦が沈められ、軍人にかなりの犠牲者が出たとの知らせが届いた時のことです。

 講演前の控室でこれを聞いたサッチャーが泣き始めたため、秘書官が講演を中止しようとしたが、彼女は気をとり直して、とりあえず気丈に講演をこなした。しかし、公邸に戻ってから遺族の1人1人に、自筆の慰霊の手紙を書くんですよ。鉄の女といわれるが、血も涙もある極めて人間的な側面があることを物語っています。

 また、安倍・元首相に学ぶことも多いと思います。国内的にはハト派で、一生懸命に生きようとしても報われない人たちや、子育てで苦労している若い母親らにも目を向けて接してきた。だから、安倍さんの国葬の際に自民党本部に設けられた献花台前には、花束をもって地下鉄で駆け付けた若いママさんたちが続々と集まって、彼を偲んでいました。

 高市さんには、決断と実行といった揺るがぬ「確信の政治家」を目指すことに加え、喜びがあれば悲しみもあるという、人間味も兼ね備えた政治を目指して欲しいですね。そうでないと、潤いのない「乾いた政治」になってしまいます。

 頼りない男社会へのアンチテーゼか

 橋本 「高市人気」をいろいろ分析してきましたが、まだ何かが足りていない。そう考えたとき、「140年の日本憲政史上初の女性首相」であることを、忘れるわけにはいかないという気がしています。本人はそのことを強調することを避けており、男性、女性に関係ない実力主義で臨んでおります。閣僚人事でも、女性を意識して増やすようなことをしていません。

 しかし今回、身内や親しい友人、知人らの話を聞いていると、主義主張に関係なく女性には、「そりゃ、勝つのは早苗さんでしょ」などという、高市さんへの近親感が感じられました。過去に土井たか子(元社会党委員長)ブームや、小池百合子(都知事)ブームがありましたが、そのころとよく似た風潮を感じます。

 「頼りなく、だらしない男たちには任せておけない」というアンチテーゼの思いが、女性有権者を中心に広がっていった。男どもに鉄槌を下す女性というようなイメージ、そうしたことも高市人気の底流になり、大勝につながったのではではないかという気がします。

 馬場 橋本さん。政治の舞台裏もふくめて話していただき、ありがとうございました。いろいろ不安定要因もあって、今後の政治の行方は予想のしようもありませんが、政局の動きがあるような際にはまたご登場願い、解説などよろしくお願いします。

終わり

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