お知らせ
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知的財産を巡る日米中の争い、巻き返せ日本 講師 荒井寿光 その1
- 2022/03/06
本研究会のアドバイザーの荒井寿光さん(元特許庁長官)が、2022年1月22日及び2月26日の知財委員会で日米中の知財状況を講演しました。米中の狭間で、知財安保も含めて日本はどうするのか。課題が山積しています。
世界では知的財産、特許、著作権やデータが非常に重要になっています。発明した個人、企業、大学の財産であるだけでなく国家の資源であるからです。また知的財産は、世界覇権の源泉の一つです。特許を多数持っている国のほうが、強いからです。
①にあるようにアメリカと中国が知的財産を巡って、激しい争いをしています。アメリカのトランプ大統領が仕掛けて、中国の習近平国家主席が受けて立っています。
②は、今まで資源は石油などの天然資源でしたが、21世紀に入るとデータが非常に重要な資源になりました。
③は、コロナ禍との関係で、ワクチンや治療薬の特許の争いが起こっています。これらを開発したアメリカやイギリスの製薬メーカーや大学が特許を持っているのに対して、発展途上国は、こういう特許を独占するのはけしからんと言って、南北が激しく対立しています。
中国は、「知財強国」を目指しています。トランプ大統領に、アメリカの知的財産を盗んでけしからんと言われたので、中国は自分たちで知財の強い国になることを目標にしました。習総書記は2020年11月30日に中国は共産党を挙げて知的財産の問題に取り組むことを講話しました。中国の共産党の理論誌に載せて、党員はみんな知財を勉強しろと言っています。
知財は、国際的な協力もするけれど国際的な競争だと認識しています。競争だから勝たなければいけないと言っています。中国の国家安全保障に関わるコア技術の自主開発と保護を宣言しています。
知財強国建設綱要は、2021年から2035年までの15年計画で、中国共産党と国務院が共同で発表しています。知財強国と言うのは、アメリカを抜くということです。
具体的な内容としては、
①知財は国家発展の戦略的資源です。国際競争力の中核的要素として知財がなければ、駄目だということです。
②知財は中国の安全保障と密接な関係があります。
③中国は知財の国際的なガバナンスでリードする。知財の国際秩序を中国が作るという意気込みです。
④知財のDX推進、デジタルトランスフォーメーションを進めます。
⑤地方政府は知財強省、知財強市を目指し、全国で知財戦略を進めます。
⑥は中国らしく、党や政府指導者の幹部、国有企業の指導者グループにおいて知財業務をしっかりやっているかどうかを、業績評価の対象にするということです。出世したければ知財をしっかりやれという感じです。
中国は知財の目標として、2025年までに人口1万人あたりの価値の高い特許を12件にすることを掲げました。人口1万人あたりの数字を出して、地方政府が競争します。また特許集約型産業のGDPに占める比率を13パーセント、映画やテレビなどの著作権集約型産業のGDPに占める比率を7.5パーセント、両方を足して知的財産に関連する産業はGDPの20パーセントになると言う目標を掲げました。知財関連産業はマクロ経済的にも重要なものになることを言っています。
中国の科学技術力は、今や米国に追いついています。2017年の数字ですが、アメリカが5500億ドルの研究開発費を使っているのに対して、中国は5000億ドル。日本は1700億ドルです。 その結果は注目論文数に現れています。文部科学省の研究所が作った数字ですが、引用数トップ10%の中国の注目論文数は4万本でアメリカの3万7000本を抜いています。日本は10位で、3700本です。良い論文は良い特許になりますので、5年後には中国から基本特許がたくさん出てくると予想されます。
日本はかって特許の出願件数が世界一多かったですが、今や中国が150万件、アメリカが60万件、日本が30万件です。中国はアメリカの2.5倍、日本の5倍です。
特許の数が多いだけでなく、質も高くなっています。現在世界で普及しつつ5G(第5世代移動通信システム)の先が6Gですが、第6世代のを見たら、中国が40パーセント、アメリカが35パーセント、日本は約10パーセントであり、中国は特許の質も高い例です。
中国は従来から特許侵害をしていると非難されてきました。今や中国は制度を改善しています。中国は故意に侵害した場合の懲罰賠償金は5倍になりましたが、アメリカは3倍ですし、日本にはそもそも懲罰賠償制度はありません。
特許や著作権の侵害は、形がはっきりしていませんから、なかなか判断が難しいので、裁判官が適宜判断する法定賠償制度を取り入れています。これはアメリカにも日本にもありません。このように、中国の仕組みは世界で一番進んでいます。
裁判所のやり方も世界一進んでいます。オンライン会議と同じように、インターネットでやるインターネット裁判所を始めています。日本は、裁判を傍聴するためには、並んで傍聴券をもらって法廷に入るのですが、中国はインターネットで放送て、どこからでも傍聴できます。今回の知財強国建設綱要で言っていますが、AIを使って裁判をする智慧法院の準備を始めました。それから国際仲裁に力を入れて、世界の裁判所になろうとしています。
つづく