お知らせ

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第143回・21世紀構想研究会の報告

2018/10/07

台頭する中国新興企業

~なぜ日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したか?

 株)中国ビジネス研究所代表 多摩大学大学院フェロー 沈才彬

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直近の中国事情を報告

 今回の研究会は、沈才彬(しんさいひん)先生に「台頭する中国新興企業 ~なぜ日本はユニコーン企業の数で中国に完敗したか~」でした。日本人の多くの人たちの認識とはまったく違う国になってしまった中国。その中国に7月下旬から8月下旬の1ヵ月間、出張した沈先生は、社会人の娘さんが同行したときの体験談を交えながら、ホットな中国の動向をお話いただきました。

  さっそく導入として、出張の雑観から始まりました。

(1) 北京の大気汚染

 北京は大気汚染のイメージがありますが、今はほとんどありません。これは習政権の政策で、石炭ボイラーから天然ガスボイラーに一斉に切り替え、短期間で劇的に改善しました。

 (2) 高速鉄道

 北京から上海まで27時間の列車の旅が、高速鉄道(日本の新幹線)では大幅に短縮。中国は急速に独・日の新幹線技術を吸収し、国内だけでなく海外へも進出しており、いくつかの国で日本と競合していることは我々も聞き及んでいるとおりです。

 (3) 無人スーパー、無人レストラン

 スマートフォンのアプリ利用が前提になりますが、無人のインパクトは非常に大きく、中国の小売業は激変すると沈先生は予測していました。

  
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日本の中国注目度が広がっている

 話は変わって、日本における中国の注目度についてです。

 沈先生は「中国新興企業の正体」(角川新書)を4月に上梓。これまで10冊以上執筆されていますが、短期間でこれだけ多くの書評が出たことはなく、多くの日本人が、これまでの中国と違うことに気付き始めたからではないか、と分析されていました。

  さて、本題に戻り、中国の9つのリーディングカンパニーについて紹介がありました。

 

9つのリーディングカンパニー

・配車アプリ世界最大手: 滴滴出行(デイデイ)

・シェア自転車世界最大手: モバイク

・商業用無人飛行機ドローン世界最大手: DJI

・出前アプリ世界最大手: 餓了麼(ウーラマ)

・通信機器世界最大手: ファーウィ

・ネット通販・スマホ決済世界最大手: アリババ

・民泊中国最大手: 途家(トウージャ)

・アジア最大の時価総額を有するSNS世界大手: テンセント

・グーグルに次ぐ世界第2位の検索エンジン: 百度

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急速に成長した共通点は何か

 では、なぜこれら9つの企業が成長できたか?

 先生が分析した共通点は以下のとおりです。

・ニューエコノミー分野である

・民間企業である(非国営企業)

・ベンチャー企業

 →痒い所に手を届かせる、庶民・若者を味方にしている

・上場企業の巨人かユニコーン企業である

・若い経営者である

 →年齢が若く、創業意欲が旺盛

・いつまでもあきらめない姿勢

 →いずれの企業も苦しい道のりを歩んできたが、あきらめない姿勢を貫いて成功した

・中国の9大新興企業に勝てる日本の企業が存在しない

 

世界の評価はどうなっているか

 世界が中国のユニコーン企業をどう評価しているかも、紹介してくれました。

「MITテクノロジーレビュー」の記事から、中国技術の躍進について2つ挙げます。

・「ブレークスルーテクノロジ10」のうち、中国は7つの分野でキープレイヤー

・「世界で最もスマートな企業トップ10」で米国以外は中国で2社食い込んでいる

 

 また、政策面の紹介も。

「中国製造2025」は三段階で進めており、

・第一段階2025年までに製造業大国から製造業強国へ

・第二段階2035年までにG7の中位に達し、国際競争力を高め、工業化を完成させる

・第三段階2049年までに世界製造業強国のトップとなり、世界をリードする

 

米中貿易戦争

 ここで最近よくニュースになっている米中貿易戦争の話です。

 アメリカは中国の政策「中国製造2025」を脅威とみており、米中貿易戦争のウラは、テクノロジーの覇権争いであるとのこと。アメリカは米中逆転を阻止するため、貿易戦争はすぐに収まらないと先生は予測しています。

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日中比較

 最後にユニコーン企業の日中比較です。以下のようにすでに日本を追い抜いており、ライバルは米国となっています。

・研究開発投資

  2位中国、3位日本だが、中国は日本の倍の額を投資している

・技術水準

  ニューエコノミー分野は日本より優れている

・政府規制の相違

  中国:まず試しにやってみて、問題があれば規制する

  日本:先に規制し、あとで緩和に向かう

・若者のベンチャー意欲

  中国は20代30代の創業が多い(1日1万社)

  日本は2006年ホリエモン事件以降、若者創業者が激減

・ベンチャーへの投資

 中国は500億ドルで世界2位。日本は中国の1.4%の7億ドル。

 

 

 日本の大企業の内部留保問題や、資金があっても投資しないベンチャーキャピタル、などの話をされ、最後にメッセージを残しました。

 「日本は若者に投資しなさい!」

 

後半の30分は、意見交換、QAの時間です。

 

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馬場理事長:

 日本のVCは資金を持っているが投資しないという現状があり、世界と差が開く一方である。元気な日本を取り戻すには、VCの投資も必要。我々はどうしていけばよいか、議論しましょう。

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Q:

 中国では優秀な人に対して集中して研究費を出す現状がある。特定の分野に集中して投資しているように見えるが、医療や教育分野はどうか?

A:

 医学分野、技術的には進んだが2つ問題がある

・医療費問題(高い、健康保険制度整備が遅れている)

・大病院にかかるにはコネが必要(中国の大きな問題)

 教育分野

 ・集中投資する英才教育となっており、上流階級は学力も高いが一般階級は低い。すべてではないが、教育現場は汚職の金額が大きく不正の温床となっている。

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Q:

 AIはデータ勝負のところがあるので、人口の多い中国はデータサンプル量の差でアメリカに勝つであろう。

 そのAIのデータには個人情報が多く含まれるが、中国におけるプライバシー保護はどうなっているか?

A:

 さまざまな情報がビッグデータとして収集されるので、中国は有利だ。技術はどんどん進んでいくだろう。

 個人情報保護の観点は大規模な情報漏えいもある。一党支配の政府がビッグデータを使う可能性も否定できないため、外資企業はリスクに感じている。

 そのため、法制度の整備のリクエストを米国が出している。

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Q:

中国は極端に走る傾向がある。投資先行の面がある。極端性についてどう考えるか?

A:

 アリババ、テンセントがベンチャー企業の買収をどんどん進めている。投資の集中の悪い面である。中国では2極集中(独占行為)している。

 半導体分野では、台湾の技術者を大量に雇用し、人的資産を集中させている。半導体分野ではトップになるだろう。

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Q:

 光と影の部分についてだが、今後、政府系企業が多くリストラをしていくことになる。またバブル崩壊、高齢化の問題も出てくるだろう。これらの負の部分を9つの企業は解決していけるのか?マイナスを上回るプラスが9つの企業で賄えるのか?

A:

 ネット通販による小売り業の大革命で、無人化のコストダウンが進むだろう。実際、従来の小売り業はたくさんつぶれている。この現状からアリババに対し、小売業や銀行(クレジットカード利用が縮小したので)が反発している。銀行は国営のため、国として規制を強めている。

 住宅バブル問題は、北京は10年前の6倍になっており、金融危機を引き起こす可能性がある。

 クレジットバブル(企業、政府、家庭の債務)はGDPに対し250%(警戒ラインは270%)を超えそうで危険。我々は中国のバブル崩壊に注意しておく必要がある。

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 最後に、当研究会のアドバイザーで知財の第一人者荒井寿光氏による総括です。

 中国の進歩は凄まじい。GDPも2位であり、研究論文数も多く出ており評価されている。我々は新しい中国について見識を深めるべきだ。どのくらい中国が進歩しているかは、スポーツで考えるとわかりやすく、メダルの数を数えれば一目瞭然だ。

 一方、日本はのんびりここ30年間は寝ている状態ではないか。いい意味で中国とも競い合って、再び日本もレースに参加できるようがんばろうではないか。と、熱いエールでしめくくりました。

 聴講者たちの中国に対する認識も新たになり、うかうかしてはいられないと発憤する雰囲気となったところで、講演は終了となりました。

 沈才彬先生、ありがとうございました。

 文責・渡辺康洋・21世紀構想研究会事務局

 写真・福澤史可・21世紀構想研究会事務局