お知らせ

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第152回・21世紀構想研究会報告

2019/12/30

2019年12月20日(金)

講 演 「効かない健康食品 危ない自然・天然」

講 師 松永和紀さん(科学ジャーナリスト)

座長・小出重幸さん(21世紀構想研究会理事)

 本日はサイエンスライター、科学ジャーナリストである松永和紀さんにお話をしていだきます。松永さんは、主に食品や健康の問題、環境、化学物質とか放射線のリスクなどについて科学的な根拠に基づいて一般の人たちに分かりやすく解説しています。

 本日は、松永さんの取材の体験、データなんかも含めて、この問題をどう考えたらいいのかなという、その問題の提示をしていただきたいと思います。

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松永先生の講演要旨

 食の情報は混乱の歴史

 食品をめぐる情報は、非常に問題がありフェイクニュースがいっぱいと思っています。食品の問題で、この20年ぐらいの進展はものすごいものがありました。皆さん方も、食とはこういうものなんだと意識を少し変えていただく必要があるのではないかと思っています。

 本日の講演タイトルの「効かない健康食品、危ない自然・天然」は、2年前に出した本のタイトルで、食の世界はフェイクニュースだらけという要素が強いかなと思っています。今日のあらましですが、食の情報というのは混乱の歴史と言っていいと思います。

 自然天然と人工合成で、良し悪しの判断基準にはなり得ないということがあります。化学物質、微生物の影響は、その化学物質、その微生物の摂取量によって変わってくるということが言えます。食品は多くの成分を含んで、多様なリスクと価値を含有するため、総合的な判断が要求されるということです。ここのところがわかっていただけると、健康食品の問題も、添加物の問題も、おそらくぐっとわかりやすくなるだろうと思います。

20191220構想研レジメ(一部)_191221_0005 タイトルは「効かない健康食品」なんですけど、私は健康食品の話と、それから添加物、農薬が悪いっていうような話は、表裏の関係だと思っています。実は同じことで、それをどちらから見るかというようなことで、いろんな混乱が起きて、そこの見方の問題が大きいというふうに思っています。

 食品に関心が高まった著作物や社会現象

 情報混乱の歴史から、食のリスクと効果、機能性というふうに整理しました。簡単に言うと、なんとかは体に悪い、危険、食べてはいけないという情報と、◯◯は体に良い、健康的、効くという、両方のパターンがあると思います。

 病気のときに、これを食べるといいよって言われると、そればかり食べてしまう。どの国のどの人たちもやってきていて、それに対してお医者さんが、文句言ってるという構造がずっと続いてきてるんですね。

 フードファディズムという観点から、どういうことが起きてきたかということを、年表らしきものにしてきました。食品に対する関心ということを考えると、「沈黙の春」の著作によって農薬とか添加物も入ってたと思います。1962年にアメリカで発表されて、日本では64年に翻訳されて出版されています。

 そのあとに、「複合汚染」が朝日新聞で74年から75年に連載され、これは添加物批判に非常に成果を上げました。このあたりで、だいたい添加物とか農薬って悪いよねというイメージが、ものすごく大きく固まったというふうに言えると思います。

 75年の紅茶キノコブームもありました。そのあとトクホが創設され、杜仲茶ブームになり、赤ワインの抗酸化作用ブームがあります。一方で、O157に157による学校給食の集団食中毒でカイワレ大根が疑われたけれども、結局は決め手になりませんでした。

 そのあともBSEとか、中国産の冷凍餃子事件のときも、あれは犯罪で一部の人がその工場でやったことですけれども、それがどういうわけか、中国産は危ないということになって、中国産をみんなが嫌がるというような消費行動につながってしまった。

 食品がもともと持つその他の物質、味、香りなどに関わる物質、それから健康効果を持つかもしれない成分、たとえばポリフェノールですね。それ以外にも毒性物質、発がん性物質とか、いろいろ持っています。それに加えて微生物もくっついている。カビが栽培地などでくっついて、カビがつくったカビ毒もある場合もあります。加熱など製造調理の工程でできる物質の中には発がん物質もあるということなんです。

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 摂取量で毒になることを認識する

 こういうことを知っていただくと、自然、天然だからいいとか悪いとかいうようなことは言えないということははっきりします。当然、自然界は自分たちがサバイバルするために化学物質をつくっているので、それが人によい場合もあるし、人にすごく悪い場合もあります。さらに悪いものから、上手に医薬品につなげる場合もあります。天然だからいいとか悪いとか、そういう思考に陥らないでくださいということは、一般の方に一生懸命申し上げています。

 食品添加物がどれくらい安全性評価を受けて、その上で使われているかということも説明します。ぜひ一度、内閣府の食品安全委員会というところを見ていただきたいのですが、ここまでデータを要求していろんなことをやってるんだなということを、一般の方はほとんど知らないです。

 添加物、人工合成だから悪い、自然、天然はいいというような思考は間違いですよということを、一般の方には何度も何度も強調するということです。

 また食べる量が増えると体への影響、負の影響が非常に大きくなって、致死量に至ります。一方で、フグ毒みたいに微量で死ぬ量もあります。

 たくさん食べたら死ぬというのは農薬、添加物だけではなく、多量に食べれば塩も砂糖も同じなわけです。その量を調節して、このあたりで使えば、体への負の影響はなくてすむということです。

 添加物、農薬は別に食べる必要はないものなんです。ただ、生産に効果があるので、使うものなんですが、栄養成分も実はたくさん食べるとよくないというのは同じなんです。

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 何がどのような場面で生体に毒になるのか

 食品は実は多様な化学物質、微生物を含んでいます。総合的な判断が必要なんです。例えば玄米は、食物繊維が豊富です。それからビタミン、ミネラルの含有量が精白米より多いです。ところがよく調べてみると、実は天然の発がん物質である無機ヒ素の含有量は精白米より多いんですね。玄米をそんなに食べずに、食物繊維はほかの穀物とか野菜から摂ったほうがいいんじゃないのと言ってる科学者もいます。

 今まではリスクということを考えたときに、添加物農薬しか見えてなかったので、これを除去したら安全だよね、いいものになるねという思考にいたわけですけども、今見えてるものは、微生物だって結構あります。

 カビ毒だって入ってるかもしれないです。そうすると、見えてきた物を制御するために、例えば添加物を上手に使うとか、農薬を上手に使うことを考えると、上手に使えばトータルでリスクが下がるかもしれません。

 ざっと私が食生活を気をつけるときに、健康食品というのは、結構危ないと、私は思ってるんです。食中毒の下に来るぐらい、健康食品は危ないと思ってるのですが、なかなかそういうふうには理解していただけないというのが、今の状況です。

 それと深刻だなと持ってるのは、何かを積極的に食べるということは、何かを食べなくなるということなんですね。これ、体にいいよって言われて、それを積極的に摂る。だけど人の胃袋、大きさは決まっているので、食べられる量はそんなに変わらないんです。だから必ず何かが減ってるんです。

 お医者さんは実は往々にして食品栄養の専門家ではありません。結構栄養をご存知ない。それから実は管理栄養士さん、栄養士さんも知らなかったりします。なぜならば、なかなか毒性学、リスクになるとカリキュラムにあまり入ってないので、やっぱりご存知ないです。しかし多面的な専門家がそれぞれの立場で情報を出すことがありますので、そこは注意しておいていただけたらいいなと思います。

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 根拠のない情報に惑わされない

 そのほか、国産は安全、外国産は危険、これは科学的根拠はありません。どういうふうに作るかによって、決まってくるわけですから、中国産だって、いいものはいいです。中国産だって、日本産よりいいもの、いっぱいあります。だけど悪いものもいっぱいあります。当たり前です。

 アメリカ産だって同じです。地産地消が体に良い、これも科学的根拠がないです。国立食品衛生研究所の畝山先生は、いろんな産地のものを食べるほうがリスク分散になって安全度が上がると書籍に書いておられます。私もそのとおりだと思います。

 サプリメント皆さん飲んでおられるかもしれませんが、これも同じで、皆さんが何かが足りないと思って、その成分の摂取量が的確であればOKなんですよね。今、医療機関もだいぶサプリメントについては、無視しちゃいけないってことはわかっていますので、医療機関に行って相談してから摂るべきだと思います。

 結構情報っていろいろ提供されていて、調べようと思えば調べられるんです。食品はこういうものだという思い込みの中で、いろんなことを判断して、消費行動をしているというところがありますので、まず、その思い込みを打破して、その上でちょっと情報気をつけて調べていくということをしていただけたらいいなと思います。

文責・21世紀構想研究会事務局