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21世紀構想研究会 オンライン・シンポジウム詳報
- 2021/04/21
「コロナ・パンデミックの実相 各地から報告する災禍との闘い」
21世紀構想研究会オンライン・シンポジウム – YouTube
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シンポジウム報告・最終回 パネルディスカッション
COVID-19の世界の実相について考える
黒木 パネルディスカッションを始めます。コメンテイターとして黒川清さんが入りましたので、最初にコメントをいただきたいと思います。
黒川 今はネットの時代だから、世界各国がどんな政策をしているのかすぐにわかる。それで良さそうな政策を遠慮しないで、真似をしたほうがいいと政府に提言したのです。いろいろな国の検証がどんどん広がり、国のリーダーが国民に向かって話をする。一番感動したのはメルケルさんのスピーチだったんじゃないかな。やっぱりそういうときにトップの力量が見えてきたというのが、ネットの時代だということです。
主な国の3月1日現在の死因別数をみると、驚くようなことが分かります。
グラフの赤い線が、COVID-19が死因になったものです。
アメリカ、イギリス、フランスなどは死因のトップがCOVID-19になっています。スウェーデンは科学者の意見を入れて、普段と変わらない生活態様を貫き、結局、相当数がCOVID-19で亡くなっていますが、国民はそれを受け入れています。
これと対照的なのがアジアの韓国、中国、日本を代表とするアジア諸国・地域です。グラフの一番下に赤い線がかすかに見えますが、これがCOVID-19による死者数です。
グラフには出てきませんが、マレーシア、フィリピンなども極端に少ない国です。ヨーロッパと同じ白人の国でもノルウエー、オーストラリアなどは、極端に少なくなっています。 アジアでもフィリピンは他のアジア諸国に比べて多くなっています。
このように世界の地域・国々によってCOVID-19の広がりと死亡数が極端に違っていることは、学術的な研究テーマになるということを申し上げておきます。
イベルメクチンの世界の動向
黒木 大変、考えさせられる国別死因別グラフでした。いま、イベルメクチンがCOVID-19の治療予防に効くのではないかと世界が注目をしています。これてについて黒川先生のコメントを伺いたいと思います。
黒川 イベルメクチンは大村智先生がこれを発見して、熱帯地域のオンコセルカ症(河川盲目症)の特効薬になり、ノーベル賞を受賞しました。国際的な学術誌などで、COVID-19に対するイベルメクチンの臨床試験の論文が中南米諸国を中心にどんどん出ており、アメリカでは上院議院の委員会で、イベルメクチンがよく効いているので、アメリカでも臨床に使うべきと医師が主張しています。確かに予防に効いている国もあります。
イギリスでも論文を分析するグループが出てきましたが、科学的にはまだ不十分ということになっています。イギリスでは、大規模な臨床試験を行うまでに至っておりませんので、今後の判定を見守っていきたいと思います。
黒木 21世紀構想研究会理事長の馬場錬成さん、イベルメクチンについて解説をお願いします。
馬場 イベルメクチンは、大村先生が静岡県の土壌の中にいる微生物産生の化合物を発見し、メルク社と共同で家畜動物用の寄生虫病、皮膚病の特効薬として開発し、世界中で使われました。やがて人間の皮膚病、寄生虫病にも効くことがわかり熱帯地方に蔓延していたオンコセルカ症の特効薬となりました。
イベルメクチンは試験管レベルの研究で、コロナウイルスにも効くというので、29か国で臨床試験を行い、治療・予防に効果があることを論文で報告しています。
しかしイベルメクチンは、すでに特許が切れてタダ同然の薬剤であり、臨床現場では薬価がゼロでは使いにくいものになっています。途上国で使われているのは、そのような事情があると思います。
船戸 イベルメクチンの臨床試験では、国際的な大規模なランダム化比較試験(RCT)が必要だろうと思います。因果関係をしっかりと見極められるような研究を国際的にやるのが一つの方法ではないかと思います。これまでの論文の中身をしっかり批判的に吟味することで、イベルメクチンを真に生かす方法につながると思います。
黒木 イベルメクチンはかなり有望だと思いますけども、まだ国際的に足並みがそろっていないところもあるということになります。木村さん、ロンドンのコロナ事情はどうだったのでしょうか?
海外事情と日本の違いは
木村 イートアウト(外食)が感染に影響したという論文があるのですが、確定的には言えないと思います。コロナ対策は衛生対策と同時に、社会的、経済的な対策を両にらみにやらないといけないので、単純に割り切って判断できないんじゃないでしょうか。
黒木 人が動けばそれだけ感染が広がるというのは事実です。どこで妥協するかが現実の問題になると思います。ところで世界で人口あたりのベッド数が一番多いのは日本なのに、どうして医療が逼迫するのか。中嶋さん、アメリカの対策はいかがでしょうか。
中嶋 臨時のテントの患者収容場所を作ったように、決断したらそれに対する行動が早いです。大病院にしか救急はないので、その中で柔軟に、コロナの患者が増えたら、対応の病床数をすぐに増やしたり、少なくなったら減らしたり、臨機応変に対応しています。
黒木 日本では、病院を紹介するのは保健所がやっていますが、他の業務も様々あり、保健所がパンクしそうな状況なんですが、中島さんのセンターでも、どこかの病院にその患者さんを入れようとすると断られて、なかなか入院させられないということもあるんでしょうか。
中嶋 稀に、特別な治療が必要な症例、例えば血管治療、LVO、脳梗塞のひどいものや、心筋梗塞、そういう治療によって、そのICUが今一杯だから受け入れられないということは、さすがに1月にはありました。
日本の医療現場の問題点
黒川 人口100万あたりの病院の数は、日本が一番多いのですが、病院あたりのお医者さんの数というのは一番低いところに問題があります。コロナ感染症では、公的な病院がまず診ますということをやらなくちゃいけないんじゃないかと言ったんですが、なかなか政治的な決断は難しかったみたいです。
黒木 日本は病院が多いといっても、診療所クラスの小さいのが多く、感染症のトレーニングも受けていないし開業医の人が多い。大きい病院のネットワークがきちんとできていないとか、コロナによって内包する問題点が露呈しています。
黒川 感染症のコンサルをしていくというシステムがないので、そこは非常に問題があります。感染症の専門医としてのキャリアパスは、日本にはあまりないのも問題です。
木村 コロナ関連の情報ですが、イギリスでは情報発信は科学者の集まりになります。
マスコミの人間が科学者よりも科学的知見があるわけがないので、政府、医師、科学者が四つか五つの研究を見て、ど真ん中の情報を毎日記者会見して洪水のように流してくる。それをサイエンスメディアセンターのような第三者機関が速報的にピアレビューして、どのような見方があるかを示してくれます。僕たちジャーナリストはそれを見て原稿を書けるので、わりとど真ん中の話を書くことができるんです。だから、やっぱり出口の問題を議論する前に、情報の上流の発信の仕方を真剣に議論されたほうがいいと思っています。
黒木 ワイドショーに出てくる感染症の専門家の話は、かなり表面的であって、深く突っ込んで感染症を考えるとか、社会的な立場から考えるとか、そういう視点が弱いと思っています。それから質問ですが、PCR検査は欧米では無料ですか?という話です。
中嶋 お金がかかるときとかからないときとがあると思います。保険適応かどうかというのも、症状や受ける理由よって分けています。アメリカの医療費は保険会社によっても、理由によっても違うし、後から専門家によって違う請求書が来たりとか、何にいくらかかったかが本当にわかりにくいんです。ということもありまして、有料と無料と両方あると思います。
船戸 私の住んでいるハーバード大学のあるケンブリッジ市は無料です。入っている保険会社のカバーもされているので、どこで受けても私の場合は無料ですね。
黒木 木村さん、ロンドンはどうですか?
木村 妻が1回コロナにかかったかもしれないと思って、自分でPCR検査を申し込んだんですが、政府が委託しているアマゾンからキットが送られてきて、それで自分で検査して、キットを送り返したら、検査結果は陰性とメールで送られて来ました。英国は基本的に医療費は全部無償です。
黒木 視聴者からの質問です。東京でオリンピックを開催することが可能かという質問です。
木村 IOCが中国と協力してワクチンをオリンピック参加者に提供するという話になってきました。政治的にはやるということで、ギリギリまで最善を尽くすという方向だと思います。
船戸 最終的には政治的な判断です。公衆衛生学的には、多く人が集まる状況では感染のアウトブレイクが起こりやすいので、厳格な危機管理が求められるでしょう。
黒木 開催に必要な医者の数、PCR検査、空港の検疫などの問題、またこれから英国株が第4波となってすごい感染爆発が起こるんじゃないかと考えると無理じゃないかと思います。
馬場 パネリストの先生方、早朝と夜遅くに参加していただき、ありがとうございました。これをもちまして、本日のシンポジウムを終了といたします。
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パネリストからの報告 その4
木村正人(在ロンドン、国際ジャーナリスト、元産経新聞ロンドン支局長)
木村 ロンドンの木村です。今日は欧州で最大の被害を出した英国の現状についてご報告したいと思います。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのニール・ファーガソン先生が、これから1年間で更に5万人以上が死ぬんじゃないかという予測を出しました。これだけ対策を進め、ワクチン接種も進んでいるのに、まだそれだけ被害が出るのかと恐ろしさを実感しています。イギリスの新規感染者数は、第1波でも相当感染が広がっていましたが、第2波ではそれを上回り、第3波でアメリカを上回ってしまった。これは英国変異株の流行が一因になっていると思います。新規の死者数では100万人あたり、アメリカよりもはるかに多い被害を出してしまっています。
今日本でも懸念されている英国変異株は、去年の11月の2回目のロックダウン中に、ロンドンの東側のケント州で異様に感染者数が増えたので、大学も公衆衛生庁もNHS(国民健康保険サービス)も病院も、みんな一体化して調査しました。すると英国変異株が急激に増え、それがタイムラグを置いてロンドンにも広がっていることが、科学的にリアルタイムで実証されたわけです。この背景には、ゲノム解析のコンソーシアムの存在がありました。
それをすぐに公表した結果、フランスからドーバー海峡を封鎖され、年末年始に食料始め、物資が止まるという事態になりました。
ではイギリスはコロナ規制が甘かったのかというと、オックスフォード大学が出したデータでは、イギリスは最初のうちは一番厳しい規制にはいっています。グラフの紫の線です。
その後もそれを維持して、1月の3回目のロックダウンで、そうとう高い規制になっています。対策のタイムラインでいうと、昨年1月31日に中国の旅行者が、初めての感染者として見つかり、3月5日に初めての死者が出ました。
昨年3月23日に、すでに1回目のロックダウンに入ったわけです。夏は緩んで、9月から政府が地域ごとに段階的な規制をして、このとき科学者は、もっと強い規制を取らないと大変なことになると言ったのですが、緩い規制になってしまった。
それで11月にイングランドだけ、2回目の封鎖に入る。その後1カ月で解除して、ワクチンで乗り切ろうとしたところで、英国変異株が相当な広がりを見せて、今年1月5日に三度のロックダウンに追い込まれました。
ここで学校の休校措置を取っていますが、休校にすると児童の教育が遅れ、親御さんも働きに行けなくなってしまうので、イギリスでは最終手段でした。しかし英国変異株が子供にも感染していることを科学的なデータで証明したので、即座に学校を閉鎖しました。
去年の3月のロックダウンでは、ロンドンで一番の繁華街のピカデリーサーカスにも人は誰もいなくなった。電車の中は、エッセンシャルワーカーだけです。
これは自宅近くの遺体安置所ですが、備えるために、臨時の仮設テントを作ったわけです。
このとき、ひょっとしたら自分も死ぬんじゃないか、また感染したら後遺症でジャーナリストの仕事も続けられないんじゃないかと、3月の時点でもう覚悟しました。それで、秋に日本に帰って、冬は日本で過ごそうかとも思ったんですが、やっぱりジャーナリストなので、最前線で見とかなあかんということで、ロンドンにとどまりました。
イギリスも貧困問題が広がっていて、学校で無償の給食を提供してもらっている子どもたちが沢山います。それで教頭先生が無償の給食をリュックに背負って、歩いて子どもたちに毎日食事を届けていました。
5校に1校の学校が、休校中に地域の人たちにも食料を無料で配るフードバンクを開設しました。
イギリスの失敗の本質は何だったのか。まず一番には、EUからの離脱という政治的な大きなテーマがあったので、コロナ対策を最優先にすることができなかったことです。科学の立場から言えば、インフルエンザウイルスを念頭に、完璧なパンデミック対策を作ったという過信があったんですが、潜伏期間が長いコロナにはまったく通用しませんでした。
各論で見ていくと、色々な失敗があります。病院のコロナ病床をつくるために、陽性検査もせずに、無症状の高齢のコロナ感染者を介護施設に送り返してしまったことで感染が広がり、超過死亡の半数以上を介護施設の入所者が占めるという事態になりました。
2番目は、都市封鎖が遅れた。昨年3月23日に一回目の都市封鎖をしましたが、その1週間前にしたら、死者を36,700人から15,700人くらいまで減らせたかもしれないと言われています。当時研究者は、都市封鎖しなかったら25万人以上が死亡すると報告書で指摘していましたが、その時は科学者の過半数も、そこまでする必要はないと思い、対応が遅れてしまった面があると思います。
3番目として、旧植民地からの移民が多いので、国境を封鎖できなかった。イギリスは、昨年の3月から3カ月間、国境措置を何もしなかったため、イタリアやスペインからかなり新規感染が入ってきた。それに対して、強制的な自主隔離やスクリーニングの強化などをしなかったのは重大な誤りだと指摘されています。
医療アクセスにも限界がありました。イギリスは、100パーセント公的医療なので、原則無償で国民全員、移民の人も含めて医療が受けられるナショナルヘルスサービス(NHS)があります。そうすると、毎年冬には医療が逼迫するとか、待ち時間が長いという問題があります。
それで、現在はワクチンをどんどん接種しています。これはサッカー場のワクチンセンターです。
GP、かかりつけ医の先生が仕切っているわけです。イギリスは集中治療室の治療レベルも日本に比べたら格段に低いと言われますが、先生たちは最前線に立って、ワクチンセンターも自分で考えて作ったわけです。この人たちの、地域の住民を自分たちが守るという話を聞くと、やっぱり頼もしいというのがイギリス国民の正直な気持ちだと思います。
僕が取材したところ、70代や80代の人は、ワクチンの副反応はほとんど出ていません。しかし40代、50代の前半の人は、若い人ほど重い副反応が出ているというのは、僕が20人くらいから直接取材した結果でした。
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パネリストからの報告 その3
中嶋優子(在アトランタ医師、Assistant Professor of Emergency Medicine, Emory University School of Medicine、Metro Atlanta Ambulance Service Medical Director、米国救急専門医、米国 EMS 専門医)
中嶋 アトランタのエモリー大学の中嶋優子です。
アメリカは世界で一番コロナの患者数も死亡者数も多い国となっていて、人口は日本の約2.6倍しかないのに、60倍くらいの差があります。そんなアメリカでも、アトランタのあるジョージア州では、2月後半くらいから1日あたりの死亡者数が減ってきています。
エモリーヘルスケアという病院のグループですが、これは毎日送られてくるデータです。去年3月、7月、そして今年1月にピークがありまして、新型コロナ患者合計で1万1000人くらいの入院者数、死亡者数は864人。死亡率としては、入院患者では大体8%くらいとなっています。
去年の3月は私たちの病院グループで、合計179名の新型コロナの患者がいて、ICUに入るような重症者は100名弱いました。
4月に少し増え、7月にも増え、12月に少し減りました。そして今年の1月にはまた、ものすごく増えました。合計451名で、ICU(集中治療室)もいっぱいになり、ER(救急外来)は疲弊状態で、こちらの病院群でもジョージア州でも、ほぼ医療崩壊の状況でした。ICU待ちの患者が1日〜2日救急にとどまってベッドが空くのを待っているという事態が起きていました。3月11日現在で、だいぶ患者は減り86人。ICU入院の患者も減りました。
これは私の働いている二つの病院の一つですが、3月にこういった仮設テントを設立して、患者受け入れの準備をしていました。
こちらはコンベンションセンターみたいなところで、州が急遽回復用のベッドとして設立したものです。
エモリー大学病院では2014年にエボラ患者の受け入れ経験があったため、2019年12月に武漢コロナのニュースが出たときに、病院のリーダーの方たちがいち早く準備をしました。近くのジョージア工科大学も協力して、仮設テント、PPE(防御衣)、フェイスシールド等を整えました。こうした率先した取組みがとても高く評価されて、メディアの取材も受けました。
私たちの救急部で一番変わったのが、ERを大きくゾーンに分けたということです。
これはあるときの救急部の状況ですが、青と黄色のベッドがあるのが、コロナっぽくない患者のゾーン。トリアージ(治療優先順位)で振り分けるのですが。赤のほうはコロナの可能性があるゾーンで、待合室も完全に動線を分けています。
コロナは多様な臨床像があり、軽症から重症もあります。様々なファクターはありますが大体動作時で酸素飽和度が90%以下、安静時で94%以下になった患者が入院適応となっています。入院後には、レムデシビル、デキサメタゾンの投与、抗血栓抗凝固療法などを行っています。
救急にいますと、エアロソル(細かい飛沫)が発生する処置を多くしますので、救急のスタッフは感染のリスクが高いとされています。そういったものにウイルスを除去するフィルターをつけたり、ジョージア工科大学からいろいろな形の挿管ボックスを作って送ってもらったりして、暴露の軽減をするようにしています。
PPE(防御衣)ですが、着脱のトレーニングにとても力を入れました。コロナ患者をたくさん見てきましたが、百数十人スタッフのうち感染者は2、3人程度と聞いています。これだけコロナの診療をしてきてその程度なのでPPEは本当に効果的だということを実感しています。しかしPPEは足りない時期がだいぶ続きました。N95マスクはコロナ前は1回ごとに使って捨てていたのですが、何回も同じものを再利用していました。
公衆衛生局が消毒再利用の施設を設置して、医療機関は無料で消毒滅菌できるようなこともしています。大体1、2週間くらい使ったN95を出して、消毒滅菌して使ったりしています。ガウンも再利用する期間がありました。
私たち医療従事者は、アメリカではヒーロー扱いのことが多いのですが、現実には、予定外来、予定手術が数カ月間減ってしまい、病院全体の収益が落ちてみんなの給料が10%カットになったりしました。長期化しているので、医療者の疲弊もだんだん広がってきてはいますが、最近は改善の方向に向かっています。
アメリカは、医療保険制度があまり普及していないので、外来にかかれないような患者がひどくなって、ERに来たりします。ERは保険関係なしに患者を全員診ていますので、どうしてもどんどん増えて、最近は特に救急がいつも満床です。
悪循環の一つとして、救急隊が患者を引き渡しできずに、ERの壁伝いにずっと待っている壁時間というものがあり、最近特に増えて問題となっています。州の方でデータ収集の強化を9月から義務付けたり、病院の混雑状況がリアルタイムでわかるようなダッシュボードを作ったり、救急隊の人もスマホで状況を見られるようにもしています。
指令センターでも、軽症の患者を選別したり、的確な搬送先の指示をしたり、病院での壁時間を減らすために工夫しています。
最後に、アメリカの社会の状況について話をします。希望の光のワクチンは、エモリーでは職員と患者に12月中旬から接種を進めていて、3月11日時点で合計7万8000人に接種しました。ワクチン接種が終わると、みんなうれしくて、サンキューという写真を撮ってSNSで公開しています。
大統領、副大統領もメディアで、ワクチン報道をしていました。安全ですよというアピールにもなっています。
意外なのは医療従事者で、ちょっとヘジテーション(忌避)があったりして、医師は大体95%くらい接種しているということですが、看護師は50から60%、救急隊員や消防士は40から45%ということで、なんとか増やせないかという動きになっています。
3月12日にバイデン大統領の演説がありました。5月1日までには国民の全員にワクチンが行き渡るようにしようと。7月4日の独立記念日には、昔のように集まってお祝いできるようにしようという、前向きな演説をしました。私も少し希望を持っているような状態です。
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パネリストからの報告 その2
船戸真史(在ボストン医師、日本プライマリ・ケア学会認定家庭医療専門医公衆衛生学修士)
船戸 ボストンから報告します。まず、COVID-19のボストンの状況についてお伝えします。
ボストンはアメリカの北東部にあるマサチューセッツ州の中心的な都市です。
数多い有名大学があり、科学者や学生も多く住み、世界的な製薬企業が集中して拠点を構えています。また、新技術を生み出すスタートアップ企業など、大小様々な企業が450社を超えて集積しています。今回モデルナ社も創業10年で、ボストンから画期的なワクチンを生み出しました。
これはボストンの流行状況で、アメリカでは大きく二つの波を経験しています。
外出時のマスク着用はこの州では必須となり、違反した者には300ドルの罰金が科せられます。第1波が始まる前後でも、100パーセントに近いマスクの着用率で、エビデンスに耳を傾けて対策をしていました。
レストランでは、日本の居酒屋の密とは違い、6フィート(約1.8m)座席の距離を置いて、オーダーもインターネットを使って行います。消毒も常にしていて、みな徹底した対策を取っています。
そこまでやっても、患者数、死亡者数ともにマサチューセッツの方が多いです。累計陽性者数に関しては約5倍、累計死亡者数に関しては約10倍で、感染のコントロールがうまくいっていないと思います。
アメリカで特に感染者数が多い要因の一つとして、アメリカの社会格差があると思われます。ボストン・グローブの記事では、アフリカ系やラテン系の感染者数が有意に増えているという不平等さを指摘しています。
ワクチン接種が始まっても、ラテン系への接種が遅れているという指摘もあります。ラテン系の方々は多世帯で住む傾向があり、エッセンシャルワーカーにもアフリカ系、ラテン系が多いので、こういった社会構造がコロナを長引かせている原因とも考えられます。
ワクチンヘジタンシーの話に移ります。ヘジタンシーとは、忌避する、ためらうという単語で、定義では、ワクチンサービスが利用可能であるにもかかわらず、受容が遅れたり、拒否したりすること、とされます。2019年にWHOは、このワクチンヘジタンシーを、世界的な健康10大脅威のうちの一つであると警鐘を鳴らしています。世界的に見られる現象ですが、原因や成り立ちは、地域によって非常に様々な要因があります。
日本の状況ですが、世界149カ国の調査において、最もワクチンへの信頼が低い
国の一つだと指摘されています。
このスライドは、ワクチンは安全か?重要か?効果があるか?というアンケート調査の結果です。日本だけ他の国と違って、全ての地図において赤色を示しています。つまり、安全である、重要であるというような気持ちが非常に低い国民性だというふうに、示されています。
日本人のワクチンのへの信頼度の低さについて、歴史をふりかえってみます。
左上の牛の写真は、江戸時代幕末の、牛痘の予防接種のプロモーションのチラシです。
人類史上初のワクチンが、西洋で牛から作られたのですが、漢方の医者たちはこういった技術は妖術であると吹聴したり、人々も、ワクチンを打ったら牛に変わるのではないかというような噂が広がったりしたため、キャンペーンとしてチラシを作ったものです。
右上は、戦後間もなく始まったジフテリアのワクチンの副反応によって、最終的に80人ほどの子ども犠牲になったという痛ましい事件の写真です。当時、ワクチンの精度管理が不十分なせいでこのような犠牲が出てしまいました。元々義務接種であった日本の予防接種は、こういった事件やその後の反発を機に、任意の接種に変わっていく一つのきっかけとなっています。
日本人は昔からワクチン嫌いだったかというと、そうではありません。例えばポリオが流行していた1950−60年代には、海外で先に非常に効果が高いワクチンが開発されて、それを早く輸入してほしいと、特にお母さん方の運動が政府を動かして、ワクチンを輸入したという実績もあります。
そして、最近の子宮頸がんワクチンに対する問題ですね。2013年に定期接種となった子宮頸がんのワクチンは、その後接種を受けた女子が多様な症状を示したことで、国民の不安が一気に広がり、70パーセント以上あった接種率が1パーセントを切る事態になっています。
今回のコロナワクチン騒動について、歴史上の相違点が2つあります。1点目はソーシャルメディアが、ミスインフォメーションの増幅装置として作用しているところ。
もう一つは、医療従事者たちが立ち上がって声を上げているということです。有志の医療者がLINEなどを使って正しい情報をわかりやすい形で一般の人に伝えようという動きがあります。これは過去のHPVのワクチンでセンセーショナルな報道があったときに、医療従事者たちが自分ごととして立ち上がれなかったことの反省にも一部基づいていると思われます。
最後に、結論として1点目、政府の一貫した情報発信と透明なリスクコミュニケーションが重要だと思います。
2点目は、医療従事者の継続的な知識のアップデートが必要だということです。今回も、コロナワクチンはmRNAという新しい技術を用いたワクチンですので、医療従事者も不安な患者さんに的確に説明できる知識技量が求められます。
3点目、不確実性を受け入れて、患者の不安を傾聴すること。
最後にワクチン推進派と反対派の分断ではなく、包摂を目指すということが重要だと思います。お互いがコミュニケーションを取って理解していくことが、科学のコミュニティに対する信頼の醸成につながると考えます。
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パネリストからの報告 その1
黒木登志夫(東大名誉教授、日本学術振興会顧問)
馬場 錬成(司会) ただ今より、東京、ボストン、アトランタ、ロンドンをつないだオンラインシンポジウム、『コロナ・パンデミックの実相』を開始いたします。4人のパネリストから順次、冒頭報告をお願いします。トップバッターは、モデレーターでもある黒木登志夫さんです。宜しくお願いいたします。
黒木 黒木登志夫です。1936年生まれで85歳になります。簡単に自己紹介します。
本日は、日本の感染の状況を、特に変異株とワクチンの問題に焦点を当ててお話ししたいと思っております。
COVID-19のコロナウイルスは、雲南省の洞窟のキクガシラコウモリから発見されました。コウモリから中間宿主のセンザンコウという動物を経てヒトに入り、ヒトの感染症としての最初の報告は、昨年2月のランセットのものでした。
それによれば、2019年の12月1日に最初にヒトの患者が出て、それから1年3、4か月経った今はパンデミックとなり、なんと1億2000万人の感染者がいて、死亡者は264万人に上っております。
この経路について、ウイルスのゲノム分析からいくつかわかったことがあります。
ネイチャーの論文によれば、コロナウイルスのゲノムのレセプターに結合する配列が、センザンコウとヒトに感染したものは、非常によく似ていていること、また、RRARという特徴的な配列を両者が持っていること、このRRARが、病原性や感染性に非常に大きく影響しているとことがわかってきました。
ゲノム解析により、武漢型ウイルスが日本に入り、ダイヤモンド・プリンセス号から日本の数カ所に行き、その後ヨーロッパに行って、また日本に入ってきたという、感染の経路がわかりました。
現在はヨーロッパ型、南アフリカ型、ブラジル型、イギリス型など、色々あります。
コロナウイルスは、RNAウイルスとしてはあまり早く変異するほうではなく、ひと月に2回くらい変異しております。
イギリスの変異ウイルスのB.1.1.7は、3月9日現在、WHOの報告書では111か国に入っております。これはものすごく感染性が強いウイルスで、たった45日でロンドン中に蔓延し、ほとんどがこのB.1.1.7という変異ウイルスになってしまいました。このウイルスは今までのものより70パーセントくらい感染率が高く、そのために急速に広まりました。
こういう変異ウイルスを見つけるには、通常のPCRをやった後に、特に変異株に特徴的なところにデザインされたPCRをして、さらにゲノム解析をしなければなりません。しかし、ゲノム解析はけっこう大変で、国立感染症研究所だけではとてもできません。
日本はPCR検査が非常に遅れていて、2月28日までに行われた人口100人あたりの累積PCR数は、日本は6.1%で、イギリスの2000分の1くらいしか行われておりません。PCRをこのように根強く厚労省が制限していたわけですが、この変異ウイルスのときになって、それが問題になってきました。
コロナに対処するには、特効薬とワクチンが必要です。
COVID-19の特効薬としては、デキサメタゾンとレムデシビルがあります。ワクチンもmRNAワクチンとアデノウイルスワクチンが今市場に出ております。
mRNAを使った核酸ワクチンは今回初めて成功して、ファイザーとモデルナが作りました。アデノウイルスベクターを使ったものは、アストラゼネカとジョンソンアンドジョンソン、それからロシアのスプートニクがワクチンを作っています。そして、中国が開発したのは不活化ワクチンで、それぞれに特徴があります。
mRNAとアデノウイルスベクターのワクチンでは、90パーセントくらいの効率があるということがわかっております。
これはファイザーとモデルナが実際にその有効性を見たときのデータですが、圧倒的にワクチンを打った人には感染者が出てこないということがわかります。
ワクチンを打った人と打っていない人の違いを、イスラエルのデータから見たのがこのスライドです。
ワクチン接種者は青線、非接種者は赤線で示しています。60万人を対象にした非常に大規模な実験で、PCRの陽性者を見ると46%位が有効であり、有症状者は57%、入院患者が74%、重症者は62%、死亡者は72%有効ということがわかります。つまり、ワクチンを打ってできる抗体は、感染を防ぎつつ、同時に病気の進行を抑えるということがわかります。
ワクチン接種率については、3月13日現在のデータでは、イスラエルが106%、(2回受けた人が6%)、イギリスが37%、アメリカはまだ32%しか接種されていない。EUは大体10%から12%、日本は始まったばかりで、0.02%です。
また日本の特徴は、死亡者が非常に少ないということです。人口100万人あたりの死亡者をグラフにすると、ヨーロッパ諸国は急カーブで上がってきますが、日本、韓国、中国のようなアジアの国々は死亡が非常に少ないです。日本の致死率は、大体アメリカの50分の1です。山中伸弥先生はこれをファクターXと呼んでおります。
ファクターXの一つの可能性としては、ネアンデルタール人由来の遺伝子がこの感染に関係しているということです。
3番の染色体の持っている六つの遺伝子が、重症化に関係する可能性があり、この遺伝子は南アジアやアフリカに多く、東アジア、中国、韓国、日本、アフリカにはまったくありません。アメリカにはヨーロッパがルーツの人もかなりいますので、重症化遺伝子を持っている人が相当数いることになります。
また最近になって、12番の遺伝子にも軽症化に関する遺伝子があるということがわかりました。この遺伝子は重症化のリスクを22パーセント下げると言われ、日本人の30パーセントが保有しております。
今非常に心配なことは、イギリスの変異の株がどのくらい入っているかです。神戸市でPCR陽性者の60パーセントについて、N501Yの変異の検査を行いました。N501Y、つまり、イギリス型あるいはブラジル型の変異株がどのように増えていくかというのを見たものです。
1月の末から3月の初めまでにかけて、指数関数的に増えています。倍加時間は9.7日、つまりイギリス型の変異ウイルスは10日で2倍になります。日本は今非常に危険的な状態になっているということがわかり、第4波が本当に大変なところに向かっていると思います。
その1を終了。次回はボストンから船戸真史さんが報告します。