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アベノミクスを検証する ~異形の経済政策と政治~ 質疑応答

2023/02/03

アベノミクスを検証する ~異形の経済政策と政治~

質疑応答

アベノミクスは大失敗の政策か

馬場:アベノミクスは、各種の指標ではよくなった点と全く駄目だった点と両方出ているから、非常に分かりにくかったんですが、今日のレクチャーでよく分かりました。

個人消費が伸びず、実質賃金は減り、非正規社員が増えました。地方債務の残高も増えたのを見ると、アベノミクスは大失敗の政策ではないかと私は受け取りました。

アメリカ中央銀行のFRBは独立性が高く、株価にも影響を与えています。日本はまだ途上国から出ていないんじゃないかと思います。日銀法を改正したのは1997年。驚くべき後進性の国だったと改めて思いました。

黒川:日本は民主主義になっていない、形をまねしただけではないでしょうか。精神は勉強していないから、形にこだわっているだけです。公文書についても、イギリスでは公文書として、政治家などのメモは全部残し、今でも見られるようになっています。日本はアメリカのまねをしているだけで、冷戦の枠組みでアメリカに全部支配されていただけだということが分かってくるのではないでしょうか。

倉澤:長期金利をコントロールしないとすると、どうなりますか。長期国債がものすごく金利が高騰して、資金調達ができなくなる、クラッシュするというようなことがあり得るのでしょうか。消費者物価上昇率2%という目標設定そのものが誤っていたのかどうかという評価を教えて下さい。

軽部:長期金利、コントロールしなかったらどうなるか。恐らく今アタックかけられていますから、どんどん値が下がっていくのでしょう。そうすると長期金利コントロールしなければ、多分上がっていくでしょう。2%目標設定が誤っていたかどうかという問題については、実は当時2%じゃなくて、安倍さんは3%と言っていたんですよ。ただ、各国が事実上目標としているのが、2%なんですね。ほかの国と違うことをやると、為替に出てきます。最終的には各国と足並みをそろえる形で2%がいいということになったんです。

椋:異次元の金融緩和について質問です。日本の金融政策の実質的なトップである黒田さんの説明に対して、どういうに評価をしていますか。

軽部:もう評価は定まっていると思います。あれを成功だったと言う人はほとんどいないでしょう。さまざまな雑誌で日銀特集が組まれています。その中で面白いなと思ったのは、日本銀行の理事を経験した方たちが鼎談をしていた中で盛り上がっていたのは、アベノミクスに非常に効果があったというものです。デフレというのは、金融政策ではうまくいかんということが、この10年かけて証明されたと。これが今までさんざん日銀が悪いと言われていたことが、そうじゃなかったということが分かったのが、非常にいいことだったと、非常な皮肉の形で語られていました。これは非常に不幸なことですよね。

これから先どうなるか、僕は見通す力がありませんので、分からないんですけれども、この積み上がった国債どうやってこれを―デュレーションというんですけれども、恐らく7年とか8年ぐらいでしょう。消えていくのを、完全に消化に任せていいかといったら、任せていいはずがないわけです。

どうやってこれ消していくんだろうとか、そのとき世の中の経済にどういうふうにインパクトを与えていくんだろうとか。実はアベノミクスは終わっていないというのが僕の印象というか結論です。副作用がまだ完全に顕在化していないので、それを見極めてからでないと、このアベノミクスに対する評価というのは定まらないだろうなと思います。

ひょっとしたら、昔の不良債権のように、不良債権処理は全然大丈夫ですよというふうに言っておきながら、97年の金融危機のように突っ込んでいく、あの二の舞になるかもしれない。そこまで見ないと全体の評価というのは下せないだろうなと思っています。

しっぽが胴体を振り回した

永野:日銀が長期金利も左右できるようになって、全能の神になったということなんですが、必ずしも日銀が意図していたわけでもなかったようにも思いました。意図的なところがあったのか、どうしてそこにそういう変化があったのでしょうか。

軽部:日本銀行が長期金利に手を出さなければいけなくなった淵源は、アベノミクスを始めたことです。直接的なきっかけは、マイナス金利です。マイナス金利を立てたので、金融機関が収益を上げられなくなったんです。金融機関救済で長期金利を引き上げなければいけないということで、長期金利を立てるといいますけれども、上に持ち上げるために長期金利をコントロール始めたというのが、一番のポイントです。

金融機関が傷むと、日本の金融システム、さらには経済のシステムがダウンしてしまいますから、重要なことではありますが、しっぽが胴体を振り回したみたいなところがあり、結局、国家財政の裏側にある長期金利をコントロールしなければいけなくなったというような表現がいいかもしれません。

いずれにしても、日本銀行が長期金利は動かすことができるし、やるべきだというのを考えたのは、彼ら自身です。安倍政権から言われたわけではないというところが多分本当だろうと思います。つまり、これを進めた中心人物が、先ほど申しました日本銀行の中に存在する改革派というのかな。今までにないパワーを身に付けているんだから、それを活用しなきゃいかんというふうな一派だったということになるだろうと思います。

永野:そうすると、全能の神になろうと初めは思ったわけでもなかったんだけど、何となくそういう方向になっちゃったという感じですかね。

軽部:そのとおりだと思います。

山本:アベノミクスの評価は、いい面と悪い面があるやに聞こえました。国民の間の比較的少数のグループは、非常にメリットを得たが、多くの一般庶民にとってはデメリットが大きかった。つまりは、今、日本の格差社会の進行に非常に大きな影響を与えたんじゃないかと思う。ご見解を聞かせていただければ、ありがたいです。

軽部:非常に重要なポイントだと思いますし、恐らく「経済」の語源である経世済民が、実現できているのかというポイントにつながっていくだろうと思います。

一つ言うと、所得の分布。相対的貧困率などの計算のもとになるものですけれど、所得の分布というのを見てみると、所得の中央値が94年と2019年を比べると、約100万以上下方修正されている。これはゆゆしき事態だろうと思います。

結局、格差の拡大に対して歯止めが利かなかったということになるんだろうと思います。安倍政権が格差を明確に意識して、その格差拡大ということに何か手を打とうとしたのか。働き方改革とか1億総活躍とかというのはいろいろありましたけれども、それは真正面からそれをアベノミクスのように議論をしたものではありません。つまり、アベノミクスは格差縮小の政策なんですということを、安倍さんの口から一度も聞いたことがありません。

国債格下げの可能性

長谷川:日本国債に対する信用格付けで、格下げの可能性が気になっていますが、どのようなお考えでしょうか。

軽部:ありがとうございました。国債の格下げはあり得ると思います。なぜかというと、今まで例えば財政構造改革法をやっていたときは、日本政府はそれに取り組んでいるという姿勢を示せましたので、レーティングも一方的に引き下げるわけにいかないという話になるわけです。

ところが、財政削減目標やPB目標なんかはどうでもいいと考える方たちは、非常に今、自民党に増えています。今はとにかく国債発行したって大丈夫なので、国債どんどん発行しろという。抑制する側が機能していない国になってしまうと、恐らくどこかで格下げをしてくるだろうなというのは想像にかたくないだろうと思います。

長谷川:格下げをしてくると、日本企業とか日本の銀行が国際的な金融市場で資金を調達しようとしたときに、金利が日本だけ上がるなどということは当然起こります。かなりの衝撃じゃないかなと思いますが、どうですか?

軽部:その通りだと思います。ただ、今までも日本は格下げされたことがありますので、黒田さんは財務官当時、「日本は大丈夫なんで、破綻しません」ということをおっしゃっていました。格下げされれば、当然のことながら、資金調達に影響が出てくるというのは、その通りだと思います。日本の財政再建派は政治家にもいらっしゃいますが、どうも少数派です。

長谷川:赤字国債を発行して、止まらずに膨らんでいます。片や少子化になってくるのに、誰が支えるのでしょうか。次元の違う少子化の効果が出るのは、子供たちが大人になってからの話だから、20年間ぐらいは子供の養育のために支出が増えるという状態だから、これはもうどうにもならないと思いますが、どうなんでしょうか。

軽部:その通りだと思います。恐らく財政再建を進めるときに、誰が言うのかというのはポイントになると思うんですけれども、財務省がいくら言っても、「また財務省だろう」と言われてしまっているんですね。財務省自体の信任が失われてきていますので、なかなか厳しいところがあります。

実は政治家の中には、財務省はオオカミ少年であると例える人がいます。「お前らはずっと昔から、もう残高100兆円ぐらいの頃は、日本は危ない、危ないとずっと言ってきたが、つぶれていない、破綻もしていないじゃないか」と。

ただ、日本では一気に長期金利がぽんと跳ね上がった資金運用部ショックというのがありました。つまり、何がきっかけになるか分からないというところもあります。

それからもう一ついえば、オオカミ少年というのは、「オオカミが来たー」と言って脅かすわけですよ。しかし、寓話の一番最後は、本当にオオカミが来るんですよ。そしてみんな食べられちゃうんです。そういう寓話なので、「オオカミ少年だ」という批判は、あまり当を得ていない気がするんです。

金利上昇が懸念

石塚:高橋洋一氏とかがよくYou Tubeで言っているんですけど、日本の貸借対照表というと、現状の借金は全く問題ないと。例えば米国債も100兆ぐらい持っていて、含み益だけでも30兆ぐらいあるということで、何も心配する必要はないんだと。特に日銀と政府は連結決算で成り立っているんだから問題ないと断言しているんですけど、それに対してのご意見をお聞きしたいんですけど。

軽部:そのポイントというのは、高橋さんがよくおっしゃるところです。日銀と政府が合体するという「統合政府論」です。高橋さんの説明はきれいに見えますが、実は重大なポイントが落ちていと。

それは、「付利」つまり金利を付さなければいけないということで、決定的な間違いがあります。早川英男さんという方が指摘しています。金利が引き上げられれば、当然、日銀の中で当座預金残高に付利されるんですね。それが全く考えられていないということで、それが多分、数兆単位で出てくると思います。

したがって、その統合政府論にも欠点があることを、早川さんという方が指摘をして、議論は決着しています。

石塚:それは今後、国債を買い続けた場合ですよね。

軽部:国債を買い続けたというか、金利が上がっていくことですね。

石塚:現状の低い状況だと、この貸借対照表でいうと、大体釣り合っているというのは正しいんですか。

軽部:それはそれで正しいですね。ただ、未来永劫ではないということですね。

石塚:すぐ破綻するという話ではないと。

軽部:いや、分かりません。金利次第です。高橋さんが言っているところは、その金利次第であるいうことをすっ飛ばしているので、ちょっと怖いというところはあります。

日本は熟議していないのではないか

馬場:軽部さんのレクチャーを聞いて、個人に印象に残った一つが、「熟議をしていない」というのがありました。政策決定のときに、日本は一体誰がどこで決めているのかというのが分からないところがある。

それから、思いつきで次から次と繰り出しているというような感じがします。政権が変わるとすぐ、目玉政策は何だとか、メディアも悪いんですけれども、目先を変えるようなことを要求するようなところがあります。

今日のレクチャーのスライドの中で、大分古い話ですけれども、1971年8月15日のニクソン・ショックです。あれ、キャンプデービッドで主たる役所の高官を集めて侃々諤々やるんです。そのときニクソンは、国務省を信用していないので大統領の権限で国務省を入れない。世界を変えるような政策というのは、ああいうエネルギーの固まりみたいなところから出てくる。日本では、安倍一強と言われても、それだけのブレーンがいたのでしょうか。私はいなかったと思います。軽部さんの三部作を読むと、政治のフォーメーションは非常に未熟で、最近は後退しているとの感想を持ちました。

金融財政というのは、変革することがあります。一夜にして変わったりすることもあります。この先もいろんな形で金融政策、財政政策の山が来ると思います。そのときまた軽部さんに解説をお願いすることになるかも分かりません。軽部さんどうもありがとうございました。

質疑応答終了