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第146回・21世紀構想研究会の報告

2019/02/10

今年の国際経済・金融情勢の動向を縦断検証して解説

  第146回・21世紀構想研究会は、愛知淑徳大学教授の真田幸光先生に「2019年の世界経済と日本〜為替、株、金利、原油の見通し〜」と題し、多重複層する世界の経済・金融情勢について解説をしていただきました。

激化する米中の覇権争い

 昨年12月の急激な株価下落はみなさんの記憶に新しいと思いますが、その原因は米中対立の激化です。市場関係者は当初、12月1日に行われる米中首脳会談でそれまでくすぶり続けていた米中対立はいったん沈静化し、マーケットは安定化すると考えていました。

 しかし、蓋を開けてみるとその読みは大きく外れてしまいます。トランプ大統領と習近平主席の両者とも拳を振り上げたまま首脳会談は終わり、このため、年末には2万4000~2万5000円を目指すと考えられていた日経平均株価は、1万8000円台まで大きく下落しました。たった二カ月半の間に約25パーセントも下落したことになります。

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 今起きている米中の対立は、単なる貿易戦争ではなく覇権戦争です。その背景にあるのは「制宙権」の取り合い。現代では他国の経済や軍事に関する情報を得るための最大のツールである人工衛星をしっかりと掌握できているかが、その国の力を決める大きな要素になります。

 宇宙を制するものが世界を制するのです。そのため、近年の中国は国を挙げて宇宙開発を進めています。2019年1月3日、中国が世界で始めて月の裏側に無人探査機を着陸させたのも、制宙権を握るべく月の裏側に基地をつくるための布石であると見られています。これも米国の虎の尾を踏みました。

 知財侵害を理由に巨額の関税を課す

 制宙権の争いにかぎりません。「中国本土で事業を展開しようとする米国企業は、中国政府から技術転移を強要される。中国の技術革新と企業成長は、このように米国が開発した技術を侵害することで行われている」。

 これは米国の主張ですが、現在、米国はこの考えにもとづき、知的財産権の侵害をフロントに出しながら、中国に巨額の関税を課そうとしています。さらには、為替を操作してアジアを通貨安にしたうえで中国以外の国から物を輸入する、中国製品だけを輸入規制するといったことも検討しています。

 これまで共和党よりも相対的には中国に甘かった民主党ですら、このようなトランプ政権の強硬な対中政策に異を唱えることはありません。今、米国は、国を挙げて中国を抑え込もうとしています。

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米国のイラン政策に協力しない中国

 自由主義経済陣営の民間企業からすれば、中国本土企業は中国政府との強力な連携によって発展する「アンフェア」な存在です。そのような中国企業によって近年さかんに行われるグローバルM&A攻勢に歯止めをかけたい米国は、昨年12月1日の米中首脳会談で中国に人民元安と株安を容認するよう詰めよりました。もちろん習近平はそれを認めず、会談は物別れに終わります。

 この時、実はもう一つ、トランプ大統領は習近平主席に米国のイラン制裁への協力も求めたとされています。ところが、習近平はこれも拒否しました。今や石油の輸入大国である中国にとって、イランは化石エネルギーの陸路で安定確保するために欠かせない国です。そんな国と争うわけにはいきません。

 また、イランは国土にいまだ戦争の爪痕が残り、インフラ開発の大きな需要がある国でもあります。つまり、13億9500万人かそれ以上と言われる中国人民の雇用機会が作れる。中国が掲げる一帯一路戦略のためにも、イランと組んでおくと有利なのです。

 イラン制裁を拒否する中国に怒った米国は、カナダ政府に要請して、ファーウェイのCFOを逮捕させ、起訴しました。起訴理由はまさに「知的財産権の侵害の疑い」と「米国の対イラン制裁に違反する取引に関与した疑い」です。米国は本気で怒っている、それを中国に分からせるための強いメッセージでした。

 余談ですが、昨年末に東京地検特捜部が日産のカルロス・ゴーン会長を突然逮捕したのも、この流れの一部かもしれなと見る向きが市場にはあります。ゴーン会長は巨額の対中投資を計画しており、それをつぶすためにアメリカの要請で行われた逮捕なのではないかというのです。

 真義のほどはわかりませんが、いずれにしてももろもろの動きに米中対立の激化を予見した投資家たちが、慌てて株式市場から資金の引き上げを行い、その結果、昨年末、世界的に株価が下落したのです。

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混沌とする欧州情勢でさらに複雑化

 欧州も混沌としています。英国は2019年3月29日をもってEUから正式に離脱することになっていますが、その先行きはいまだ不透明です。フランスでは黄色いベストデモが連日行われています。

 このデモは主導者がおらず、要求も明確でないため、フランス政府は沈静化に手間取っています。仮にマクロン大統領が追われるとなると、次に立つのは2017年の大統領選挙でマクロンに敗れたルペンでしょう。彼女は仏極右政党・国民戦線の党首ですから、彼女が大統領になればフランスもEUから離脱する可能性が出てきます。

 ドイツもメルケル首相の権力掌握力が落ちてきています。移民政策の失敗に伴うドイツの自国第一主義の高まりに乗じて、ネオナチが台頭してくるような雰囲気もあります。

 EUはドイツとフランスが主導してきた体制ですが、イギリスに加え、そのドイツとフランスが抜ける可能性があります。

 EUが崩壊するとなると、大量のユーロ建て債券を持っている欧州の金融機関はダメージを受け、ヨーロッパ経済は大きく悪化するでしょう。そのリスクが顕在化してくるにつれ、景気の先行指標である株価も下がります。

ひとまずの方向性が見えてくると思われる今年の春先が、今後の欧州情勢を占うための重要なチェックポイントになります。

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今年の株価・ドル円・金利を予想すると

 米中対立については、3月1日に行われる米中通商協議までに、いったんは沈静化するとマーケットはみています。また、欧州情勢も同じ時期に山場を越えて、その後の方向性が見えてきます。

 今年の世界経済を占うにあたっては、春を越えて、世界情勢が安定するのか不安定になるかの見極めが重要です。世界経済が安定化するならば、マーケットに資金は戻り、その後の変動は大きいでしょうが、最終的には年末、日経平均で言えば株価は2万4000~2万5000円台まで上がるでしょう。

 その一方で、米中対立がより顕在化したり、欧州情勢が悪化してユーロ経済圏が不安定になったりすると、世界的な株価の下落が起こります。その場合、今年の年末の日経平均株価は1万5000円台にまで落ち込むという見方もあります。この時、ドル円の為替レートは1ドル90円程度までの円高になります。

 春以降に世界経済が安定化した場合の、各種経済予測をもとにした今年の世界経済の大まかな数字を述べます。アメリカの経済成長率は2.2パーセント、イギリスを除くユーロ経済圏は1.5パーセント、中国は財政出動を伴う景気対策を打ってくるため6.0パーセントと予測されます。

 日本については、日本のGDPの6割を占める民間消費の伸び率は限定的であり、民間投資や公共投資もあまり期待できないため、経済成長率は1.0パーセント程度にとどまるでしょう。ただし、消費税の引き上げが予想以上のネガティブ・インパクトを与えれば、この1.0パーセントを切ることもあり得ます。

 ドル円の為替レートはボックス105~115円の間。原油価格は昨年同様安定し、WTI基準で1バレル60~70ドルのボックスになると予測されます。

日本の進むべき道

 さて、このように混迷を極める世界情勢のなかにおいて、日本の企業が生き残るためになすべきことはなんでしょうか。

 「企業は原点に戻りすべきことをする」ということに尽きます。具体的には以下の3つのことを行うべきです。

 1つめ、自社が作っている物・サービス・ノウハウが世の中でどれだけ必要とされているか、改めてマーケティングをやり直すこと。

 2つめ、自社の物やサービスに競争相手がいるかいないか、いるとしたらどこかをチェックするということ。

 3つめ、会社を最も高く評価してくれるのが現在のメインの客かどうかを検証する。すなわち、アクトファインディングです。

 この3つをしっかりと確認し、企業は成長のためにアクセルをもう一度踏み込むのです。

民間投資については、省力化投資と機械化投資にチャンスがあります。AIと人との共生をいち早く行い、産業構造を大きく変えるのです。これによって、労働力不足も解決するでしょう。ちょうど元号も変わることですし、そういう元年にするべきです。

 日本政府においては、改めて公共投資に力を入れるべきです。国家のインフラを抜本的に見直し、新たな「国土強靱化計画」を立案・推進していくのです。これまで、日本は既に一通りのインフラ開発が終わっておりインフラ需要が弱いと思われていました。

 しかし、近頃の自然災害の大きな被害状況を鑑みるに、改めて熟したインフラ開発をやり直す必要があるでしょう。このとき大事なのは、優先順位しっかりつけるということと、利権誘導しないということです。国の粋を集めた計画作りとその実行こそ、安倍首相が言い始めた「アベノミクス三本の矢」の三本目である成長戦略につながります。

 また、すでに破綻している年金制度を一度リセットするということもぜひ行っていただきたい。すべての国民に痛みを与えることで、抵抗は大きいでしょうが、この外科手術を断行しなければ、財政健全化は決してかなわず、将来に禍根を残すことになります。

意見交換/QAコーナー

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 先生の情熱のこもったご講演、その熱弁冷めやらぬまま、意見交換/QAコーナーに入りました。以下、便宜上、QとAに分けていますが、Qは質問もあれば意見もあり、それに対する先生の回答・ご意見をAとして記述しています。

 Q

 米国は「中国は知的財産権を侵害している」と主張しているが、具体的にはどういう分野の知的財産権を侵害しているのか。

 A

1つは、ネットワーク経由で情報にアクセスをして知的財産に関する情報を抜き取っている。もう1つは、発表前の学術論文の情報が高値で中国に売却されており、中国はその情報で技術開発をして特許申請を行っている、米国はそのように主張をしています。

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・元内閣官房知的財産戦略推進事務局長・荒井寿光氏のコメント

米国と中国は知財という名目の覇権競争を行っている。今後、中国やイランと取引している日本企業はアメリカからペナルティーを受ける可能性がある。日本の企業経営者は今後、難しいかじ取りを迫られるであろう。

馬場錬成理事長のコメント

中国は国家百年の計で世界の覇権を握ろうとしている。その道具として知的財産に注目し、力を入れているが、今、日中の知財制度の仕組みは、どちらが優れているか。

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荒井寿光氏のコメント

 すでに中国の制度は日本の制度よりも優れている。戦後日本を見て、技術開発して特許をとれば国際競争力が上がるということを学んだ中国は、日本を手本に特許法をつくり、さらに近年では米国と同様に強力なものとした。最高裁判所に知財法廷をつくり知財については直轄で扱うようにもなっている。

 中国人は、「軍事力は経済力が決める、経済力は技術力が決める、従って技術を最優先である」と考えている。その技術を侵害したものに大きなペナルティーを与えるための国内制度も強化している。

 いま中国は習近平主席の指示で、アメリカの懲罰的3倍賠償を超える懲罰的5倍賠償を法律で定めようと準備している。すでに中国の技術力は、月の裏側に探査機を着陸させるまでになってしまった。日本国内にあるドローンや太陽光パネル、半導体などもほとんど中国製品である。

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元大蔵省事務次官・篠沢恭助氏のコメント

 一千兆円というあまりにも多額の日本の国債がマーケットの手に握られている。その信用を担保するために、日本は財政健全化に取り組む姿勢を常に世界に示していかなければならない。

 消費税は最低限10パーセントまで上げ、粘り強く、財政健全化に取り組む必要がある。

番外編・インフルエンザ予防について

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 研究会の開催前、猛威を振るっているインフルエンザの予防について会員の中村明子先生(前東京医大兼任教授、細菌学)から一般的な予防について話があった。重要なのは外出時のマスクと帰宅時の手洗いであるという。マスクは使い捨てのものを適宜、取り換えていくこと、そして帰宅したら必ず手洗いを入念に行うことをアドバイスした。

 手指に付着しているウイルスを洗い流すことで感染を未然に防ぐという。冬に流行するノロウイルスの感染予防にもつなるということだった。

報告・21世紀構想研究会事務局 大谷智通

 写真・21世紀構想研究会事務局 福沢史可