お知らせ

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25周年記念シンポジウム最終第4回報告 その2

2023/11/20

「日本の科学立国の実像 復活か失速か徹底討論 ―」

20231025日:プレスセンタービル10階大ホール

                 安西祐一郎(前日本学術振興会理事長、前中央教育審議会会長)

     生越 由美(東京理科大学専門職大学院教授)

     倉澤 治雄(科学ジャーナリスト)

     永野 博 (公益社団法人日本工学アカデミー顧問)

     高橋真理子(科学ジャーナリスト)

     ファシリテーター

     橋本 五郎(読売新聞東京本社特別編集委員)

パネリストによる自由討論

橋本     それでは、パネリストの方々の討論に移ります。とりあえず論点を整理してみると、まずは制度のあり方の問題です。博士課程をどうするか、雇用のあり方などいろいろあります。次が政治の問題。これは優先順位をどうするかということもあるでしょうし、政治家自身の問題も指摘されました。三つ目は女性の問題。極めて大事な問題提起もありました。まず登壇者で討論していただいて、それから会場の皆さんと一緒に議論を進めたいと思います。小中高も含めた科学教育のあり方をどう考えたらいいのか、まず安西先生から伺います。

 

自由闊達さに欠ける教育現場

安西     中高で理科担当を志望する教員が非常に少なくなっているという問題があります。また、自由闊達な学びの場がない。教育界が自分で自分を縛っていると思います。構造的にそうなってきている。そうした中で科学立国を目指すというのは非常に難しい。

制度ではたとえば大学の運営費交付金。京都大学は東京大学の3分の2で、京大ができたときからまったく同じ比率です。日清戦争の影響で3分の2になったんですが、そのまま続いてきた。世界が急速に変化する中で、こうした固定構造が変わらないというのは、科学立国を目指すうえでのネックになっている。

橋本     先ほどのプレゼンで永野さんが、(一極集中の)日本と、(すそ野の広い)ドイツのことを比較されていました。

安西     ドイツの場合、科学が育ってきた国のひとつです。ドイツに限らずヨーロッパは元々面白がって科学をやり、科学は社会に必要だと人々が意識している。そういう伝統がまずベースにあるが、日本はそうではない。だから、いろいろなことを繰り返しながら努力していくしかないと思います。

橋本   生越さん。歴史的に偉人といわれる人たち。たとえばキュリー夫人やナイチンゲールがいますが、若いひとたちが、ああいう偉人になりたいという夢を描ければよいのでしょうが、いかがですか。

ドクター取得者が小中高で教えてもいい

生越     小中高生らには、科学技術で自分が何かを達成できるという夢があんまり見えてないのがすごくもったいない。さっき高橋先生がおっしゃったように、優れた女性の研究者もたくさんいらっしゃるのですが、小中高生の身近にはいないし、理科の先生も少ない。

私の個人的な経験ですが、小学5、6年生のとき、土曜日の午後は大学の先生が教えてくれる教育プログラムがあり、入ったことがあります。そのときの経験は強烈で、全部本物の実験施設を使わせてくれるし、何を聞いても教えてくれるし・・・。こうした経験をすると目覚めちゃうんですね。非常にラッキーでした。

たとえば、ネイティブの先生に英語を教えてもらうのと同じような制度で、ドクター(博士号)を持っている先生に、小、中、高校で理科などを教えてもらう。これをやったらたぶん、子どもたちの理科に対する見方はプロフェッショナルになるんじゃないかなと思います。

橋本     今回、新型コロナワクチンの開発に道を開いた女性(カタリン・カリコさん)のノーベル生理学・医学賞受賞が決まり、日本でも絵本を含めていろいろな本が出版されつつあります。科学教育に関しては、いいチャンスですよね。

子どもが健やかに過ごせる環境整備を

高橋      私の女性研究者インタビューでは、年代が上の人から話を聞いたせいもありますが、キュリー夫人に憧れたという人はけっこういます。インタビューをしていて感じるのは、途中まで別に科学に関心なかったという人もけっこういらっしゃる。小学校の頃から理科や自然が好きで、そのまますくすくと育った方もいる一方で、途中まで音楽や文学のほうが好き、国語が一番得意というような方もいます。

いろいろなきっかけで理科系研究者になられたという例もある。小中のころは、あまり気にしなくてもいいのかもしれません。それより、学校の先生が忙しすぎるとか、貧困世帯の支援が必要といった問題がある。子どもたちが本当に健やかに育つ環境を社会としてちゃんと用意してあげるのが先決ではないでしょうか。

理科嫌いの負のスパイラル

倉澤     七五三という言葉があります。小学校のときに理科の好きな子は7割くらい。中学になるとそれが5割に、さらに高校へ行くと3割になってしまう。これは非常に深刻で、教育の制度や中身に問題があるんじゃないか。自然科学の理解、あるいは自然科学に関心を持って文系に行っていただくなら、それはいいのです。現実には理科や数学は嫌いになっていくという、負のスパイラルに入っている。それを考えると、やはり小中高の科学教育というのは非常に重要である。

それから、社会のインフラとしての科学博物館などの施設、あるいは様々なイベント、活動。机の上でやる勉強だけでないことの大切さを非常に強く感じています。ちなみに国立科学博物館がクラウドファンディングをやっているんですが、なんと9時間で目標の1億円を集めてしまい、その後8億円突破しました。つまり、科学博物館をサポートしようというファンは実はたくさんいる。こういうのを広げていくことが自然科学を好きな土壌をつくっていく契機になるんじゃないかなと私は思っています。

政治を巡る諸問題

橋本     さて政治の問題に入ります。倉澤さんのご指摘する科学がわかる、科学に理解がある政治家が必要というのには、私はちょっと疑問なんですね。というのは、菅直人は、俺は科学がわかると福島に乗り込んでいくわけですよ。与謝野馨は実にわかっていた。

だからなんだと私は言いたい。科学がわかることと、政治は全然違う話。メルケルはたしかに物理学者です。だけども、学者であるからいい政治家だという話ではない。科学の専門的なことなどは、専門家に任せりゃいいんだと思いますが。

倉澤     私が言ってることは全て正しいとは思っていません。ただ、科学って票にならない。だから、関心を持っている方もそれを表になかなか出されない。中国と比べてみればもう歴然わかる。中国は科学技術にものすごく投資している。政治局常務委員7名ほとんどが理系です。これはもはや国是です。いいかどうかはわかりませんよ。でもやはり、科学技術のバックグラウンドを政治家としての能力を発揮するうえで役立てていただきたいなと思います。

政治と社会をつなぐ様々な努力を

橋本     政治と学会をつなぐ。そうしたものの必要性については、ずっと前から努力をされてきましたよね。

安西     そのための仕組みとして、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)があるが、常勤議員は1人しかいなくて、あとは全部非常勤なわけです。私からは言いにくいが、本格的に機能しているのかどうか・・・。コロナ対策についても、CSTIが関係していたとはまったく聞いたことがない。

科学技術が票にならないという問題に関しては、政治家は毎日食べていくのが大変という人たちからも票をいただかなければならない。それに対して科学技術というのはある意味距離がある。その距離を縮める役割をするのは誰なのか。非常に大事なポイントです。科学技術を知る人が、必要性をもっともっと言っていく時代だというふうに思います。

科学立国復興に女性の力を

橋本     先ほどの高橋さんのご報告で意識革命があって、考えてみればいいチャンスなんですよね。別に科学の問題だけじゃなくて、女性が働く場をどう確保していくかということも含めて若い人の中で意識革命が起きているのに、我々みたいな年寄りには革命が起きていないということですね。

高齢男性も意識革命に理解を

高橋     意識革命が起きてない方々に、それをまず認識していただきたい。若い世代で意識革命が起きていることを知っていただくのが第一歩。知ってどうするか。

今更自分の行動は変えられないだろうなとは推測します。だけど、日本社会の仕組みを変えるところに影響力を持っているのはやはり高齢の男性なんです。その方たちが少なくとも現状認識して、未来に向かって何が必要かということを真面目に考えてほしいと思います。

橋本     倉澤さん。マスコミの中で部長をやられて、女性の社会進出の問題で苦労されたのでは。

倉澤     テレビ局は女性がものすごく多い。率でどれくらいかわからないけど、私のときで3割か4割くらい。たしかに記者のレベルではいるんですけど、管理職ではほとんどゼロ。取締役もたぶんゼロだと思います。

単に女性の数を増やすだけではなく、ここまで頑張ったらここまで行けるんだよというキャリアパスをきちんと示す。そして、この人だったら社長をやってもらってもよいのでは・・・と周りでも盛り上げるような雰囲気が非常に重要じゃないか。女性に活躍していただく以外、日本の科学立国の復興はないと思っています。

会場を交えた意見表明・自由討論

橋本   これからは、会場からいろいろご質問、ご意見をいただきながら、討論する形で進めます。

吉海正憲(電気通信大学監事)  大学中期目標の弊害克服を

大学の活動を内側から見る立場から申し上げたいことがあります。国立大学法人の中期目標計画という制度設計そのものが、今の大学を大変難しい体質にしてしまっている。政府が中期目標を提示し、それに対して(大学は)計画を出して、認可してもらう。官製の目標と計画なわけです。そこに大学の主体性というのはわずかな範囲しか組みこめない。それを18年ずっとやってきた。

目標、計画、評価と繰り返していたら、本当に創造的な自由度というのは出てこない。主体性をなくすと同時に画一化の傾向に入っており、日本の大学の論文業績の低下が止まらない。これが国立大学の現状です。

改善のための議論がいろいろ行われていますが、そもそも大学自身の覚悟が問われる。中期目標計画という枠の中で運営するのは実は楽なんです。文科省への依存体質から脱して自主性、主体性を取り戻すためには、大学が独自に業績に対する非常に厳しい評価をしないといけない。教員の業績評価の現状を見ていると、仲間内の、ある種の調整的なことでしかない。こうした根本問題を踏まえた行動が期待されていると思います。

橋本     ありがとうございました。その点もう少しお話を聞いてからにしましょう。

長谷川芳樹(創英国際特許法律事務所所長)  小選挙区制や硬直化した法制が科学技術立国を阻害

私、本業は弁理士で弁護士と一緒に特許事務所をやって、300人を超える所員がいます。そういう立場から、日頃思っていることをいくつか述べます。

政治の課題の根本を考えると、やはり小選挙区制は問題だと思います。小選挙区にしたおかげで投票率は下がるし、選挙期間がすごく短い。アメリカは年がら年中というか、少なくとも1年間は選挙戦をやっているので、否応なしに政策をガンガン議論しなければならないし、政策が研ぎ澄まされていく。

ところが日本の場合は2週間で終わっちゃう。一度も選挙の話聞いてないのに投票用紙が来て、これ誰?みたいなことになる。こういう制度では科学技術が票になるなんてことはあり得ない。

だから小選挙区は全部やめて、たとえば選挙区を合体して3人区をつくる。そうすると、票にならないことを一生懸命やっていた人がトップは取れないけど、5人区の中の5番目に入る、あるいは3人区の中の3番目に入ることはできる。いい政策が取りやすくなります。今の選挙制度のもとでは、日本の科学技術立国は絶対の起こらないと思います。

私は弁理士をやっている立場上、発明者の人に会うのが仕事です。すごい発明をした人は、労働基準法を気にしてか、隠れてやってるんです。家に帰ってもやってる。それでいい発明を生んでいる。趣味のように仕事に打ち込んでいる人と強制的に労働させられているような人らを同列に扱っている労基法。全廃しろとはまではいいませんが、大幅改正の必要がある。

最後に霞が関の解体です。先ほど沖縄研究大学院大学の話が出ていましたが、所管が内閣府です。他にも防衛大学校、気象大学校など文科省以外が所管する大学がある。省庁の壁を越えてもっと広い観点で考えられないのか。省庁縦割りの弊害の一例です。アメリカだったら大統領が変われば、政府も高級官僚もみんな変わりますよ。

中尾政之(東大大学院工学研究科教授)  海外研究者の友人を作ることも大学教授の責務

安西先生の1,000人計画はすごくいい。こうして力をつけた若い人が大学でPI(Principal Investigator:研究主宰者)になる。PIになって頑張るから教授は不要になる。

では、そういう教授をどうやって首にするかというのがまた難しい。それはともかく、教授の重要な仕事のひとつが若者を海外に送り出すことです。そのためには、海外の友達が欠かせない。メール1本で「うちの子を預かってもらえませんか」と言えるような友だちがほしい。

だが友達を作るうえで、嘆かわしいことも起きている。海外の学会に行くと、大学当局が宴会費用を引き算しろといいます。学会費用は、すべて宴会費用などもコミコミです。事務方はそこから宴会費などを引き算しろというんですよ。何食ったとか、ばかばかしいことになっている。研究上の友達をつくるための宴会なんだから。宴会も研究発表に次ぐ重要な目的だということが理解されていない。

山本眞一(筑波大、広島大等の名誉教授)  管理強化が研究現場を窒息させる

私も吉海さんと同じように、大学を中からずいぶん見てまいりました。以前は大学の先生は非常に自由でいいなと思っていた。最初の10年はたしかにそうだったんですけども、おそらく大学法人化の後、ずいぶん変わりました。大学自身も中期目標とか中期計画によってコントロールが強まり、教員の世界も同様です。最近学会に寄って、よその大学の先生たちを見ていると、大学の正門の前で自分たちの写真を撮っている。確かにその大学に行きましたということを後で事務方にちゃんと証明しなきゃいけない。昔だったら非常に自由な中で教育も研究もできたのに、こういう管理強化を続けていればやがて窒息して、出せるパフォーマンスも出せなくなるのではと非常に心配です。

福岡秀興(福島県立医科大特任教授)  未熟児出産の増加が国力や学力に影を落とす

私は産婦人科の医者ですが、先ほどからの議論とまったく違った視点で日本の将来について提言したい。それは、日本で生まれてくる子どもにとっての生物学的な学力、体力、健康度——これらが著しく低下していることです。

2,500グラム未満で生まれた子どもさんを低出生体重児といいますが、十月十日の満期で生まれても、2,500グラム以下で生まれる子が増えている。そういう方々が出生児の今何パーセントくらいいるかというと、大体10パーセントです。

生まれてくる子どもの10人1人がいわゆる未熟児なんですね。未熟児がどうなっていくかというと、生活習慣病リスクが極めて高い。心筋梗塞とか糖尿病、それから精神神経発達障害も。これらのリスクが極めて高いということがわかってきました。これほど低出生体重児の頻度の多い国は先進工業国では日本だけです。

大阪大学の先生が、小学生の学力テスト結果と出生時体重の関係を調べたところ、相関関係があることがわかった。体力面でも同様です。未熟児の原因として、妊婦さんの栄養状態が極めて悪いことがあげられる。文明史を振り返ると、国が衰亡していく過程で最初に現われる社会現象は、女性の痩せ願望だといわれています。女性の痩せ、妊婦さんの痩せ、生まれてくる子どもさんたちの生物学的な劣悪化・・・。今日本ではこれが、確実に進んでいます。

そういう意味では、この21世紀構想研で学校給食と食育の重要性のイベントやキャンペーンをやっていることは、大変重要です。日本の国力や学力に関してとてつもない貢献をしていると思います。

荒井寿光(元・特許庁長官)   企業は技術開発重視に方向転換を

科学立国を担う一つのエンジンが大学。もう一つのエンジンはやはり企業だと思います。大学にはいっぱい問題があるけど、企業も同じくらい問題を抱えている。

以前は日本の企業が一生懸命技術開発して、技術の日立だとか、我が社は技術の会社だと称する例がいっぱいあったわけです。こうしてジャパン・アズ・ナンバーワンになったら、アメリカからこれ以上あんまり強くなるなという圧力もかかってきた。

バブルのころには、技術開発するくらいなら株主の配当に回せといった風潮になり、利益重視、短期経営が進んでしまった。研究開発のような時間のかかることはやめろとなった。日本の会社はどんどん技術開発から手を引いて、研究所を閉めたり、技術部門を閉めたりして今のような寂しい状態になってしまった。

これを変えて技術開発を重視し、企業が元気にならないと、科学立国を担えません。目を外に移すと、アメリカでも中国でも大企業はいっぱい研究開発をしている。日本でも、国に負けないくらい研究投資をする。そういう元気な会社を増やすように風土を変えていく。その方向に政策を変えていくことが大事じゃないかと思います。

黒木登志夫(日本学術振興会・学術システム研究センター相談役)    注目すべき京大の「白眉計画」

今まで大学のいろいろなイデアを見てきて、一番いいと思ったのは京大の「白眉計画」です。これは、日本だけでなく世界中から若い人を集めて5年間自由に研究をやらせる。

指導者は一応つけてやり、相談にくれば応じるが、途中であれこれ報告を求めない。とにかく自由にやらせると、若い人がすごく伸びるということです。偉い先生が、自分の研究を若い人にやらせたり、上から押さえつけたりするようなことがないと、伸びやすいということでしょか。5年間じっくり研究をやらせることが大事だと思います。

山本貴史(東京大学TLO元社長)   科学技術強化策で何を優先すればよいのか        

質問なんですけれど、先ほどからいろいろご提案や意見が出ました。皆さんはどれが一番効くと思っておられるのか。ご自身の意見でもかまいませんが伺いたい。

私は個人的には、すぐ効果が出ないかもしれませんが1,000人海外留学がいいなと思いましたし、女性研究者を増やすというのは絶対に必須なことだと思います。

ただ、女性に関する議論がちょっと古い感じがしています。私がいた東大TLOは女性割合が73パーセントくらいです。今年社長を辞めましたが、私の後任も女性ですが、女性だから社長にしたんじゃなくて、一番優秀だから社長にしたわけです。なんで73パーセントも女性がいるかというと、優秀な人をただ採っただけです。無理やり数を合わせるような議論は、ちょっと古いかなと思います。

橋本  それでは、皆さん回答やご意見をどうぞ。

永野   何が一番大事かといえば、やはり大学と文科省が持ちつ持たれつじゃなくて、大学が本当の自治を取り戻し、ボトムアアップで運営できるようになることではないか。

倉澤     対策については、短期、中期、長期に分けて整理し、いろいろなものをやらなくちゃいけないと思います。私としてはまず、研究開発費の最適化をすべきではないかと。さらに大学の経営責任の明確化や厳格な評価制度なども欠かせないと思っています。

橋本     それでは高橋さん、感想も含めて。

高橋     山本さんの質問に答えると、山本さんの会社が普通に採用してるから女性が70パーセントになるんですよ。日本全体の女性研究者比率—生越さんの示された資料よりも今は多くて24パーセントくらいですが、それでも先進国の中で最低レベルなわけです。

普通じゃないから24パーセントにとどまっている。だから、その「普通じゃない部分」を直すには、意識的に増やすことが必要だと思います。普通の状態になればいいので。

橋本     じゃあ生越さん。

生越   山本さんの質問に対して。1,000人の留学って本当に重要で、即効性があると思います。ただ、私は今回研究者の卵になる人をいかに増やすかというところが大事だと思っています。

個人的には理系人材、リケジョの給料の倍増を保証する。正規雇用にし、産休・育休をちゃんと取れるような環境を整えることが重要と考えます。小、中、高校で、子どもたちが「理系もいいかも」とか、女の子も「理系に行きたい」とか、さらに親御さんが「理系って学費が高いけど行かせる価値がある」と思えることが大事です。

山本     うちの会社は給料はそんなに高くはないけれど、出産で辞めた人1人もいない。2回産休取っても戻ってくるし、男性はほぼ100パー育休を取っています。給料よりも環境のほうが重要なんじゃないかというのが、私の個人的な意見ですが。

安西     国立大学の中期目標、中期計画の問題が先ほど指摘されていましたが、ここで念のために確認しておきたいことがあります。国立じゃない大学にとってはまったく関係ないんですね。私も私学の団体のまとめ役を長くやりましたけれども、国立大学の話が出るということはまずない。そのくらい私学と国立というのはまったく違う。法律も違いますけれども。そういう構造があるということをご理解いただき、高等教育の問題を考えるときに念頭に置いていただければと思います。

橋本   そろそろ時間なので、最後に黒川さんから全体も含めながらコメントをお願いします。

黒川清(元・日本学術会議会長)    日本の凋落をくいとめるために何が必要か

 日本は今、様々な分野で大変困った状況になっています。この30年、OECDの国で日本のGDPは全然増えていない。日本だけですよ。これ、政策なんか関係ないんです。稼ぐかどうかは企業の問題。今企業の内部留保は500兆円もある。金利も安いのに何をしているのか。もっといい人を採用したりいいもの作ったりと、いくらでも使い道はあるのに。

教育に関していえば、日本の教育―小、中、高の教育はそもそも何のために行なっているのか。結局大学の入試をターゲットにしてやってるとしか思えない。

その偏差値教育の頂点といわれる東大や京大が変わってみせない限り、何も変わらない。政府に関係なく高等教育機関が自分でやればいいだけの話。独立法人(国立大学法人)になったんだからなおさら自由にやれるはずです。

戦後、日本が繁栄してうまくいったといわているが、偏差値教育や縦割社会にもかかわらず、いろいろな状況に恵まれ、たまたまうまくいっただけです。日本の駄目さかげんを自覚して本気にならないと元気を取り戻すことなんてできない。振り返ってみると、たとえば、後に慶應義塾をつくった福沢諭吉は幕末にアメリカに行ったりヨーロッパに渡ったりと海外の状況を貪欲に吸収、英語の本を持ち帰って日本語の啓蒙書をいくつも残すなど多様な活躍をした。

今の学生らにそんなことが出来ますか。今、国力回復のためにベンチャー、ベンチャーと騒がれ、役所にかけこんだりしているが、福沢をはじめ前例のないことに挑むベンチャーそのものの活躍をする人々がいた時代があったんですよ。若い人、特に大学にいったような人には、そうしたことをよくよく考えて欲しい。

橋本   今日は、それぞれ言いたいことを言ったというシンポジウムでした。それは非常に大事なことで、これが民主主義なんですよ。ということで、もう予定時間をかなりオーバーしてしまいましたけども、これで終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

第4回シンポジウム詳報終了