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シンポジウム「時代に取り残された学校現場」安西先生・冒頭発言

2023/04/07

 3人のパネリストによる冒頭プレゼンテーション

 漆 紫穂子、工藤勇一先生に続いて安西祐一郎先生のプレセンテーションを報告します。

安西祐一郎氏:皆様、こんにちは。安西でございます。漆先生が、ご自分の学校のことを含めて、未来からのライフデザインあるいは起業、あるいは世界とつながりの重要性などを発表されました。また工藤先生が、自分で考えて行動するという教育の重要性を提言されました。私の感覚では、自分で考えない教員をどうするのか。こういうことも課題ではないかと思っています。

理想と現実の乖離をどうやって解決するのか

漆先生と工藤先生は本当に日本の現場でのリーダーシップを取っておられまして、恐らく現場の教員の方々のマインドを変えていくのに、非常にご苦労もありご尽力もされ、リーダーシップを取ってこられたと思います。それはものすごく大事なことでございます。

一方で、高校だけをとっても、日本には1学年で大体100万人以上の生徒がいるわけで、また教員もたくさんいるわけです。それから全体を考えたときに、漆先生とか工藤先生のような方が引っ張っておられる考え方には賛同をするが、そういう教育を本当に日本に根付かせていくのにどうしたらいいのかという問題になるわけであります。

例えば、今、工藤先生が言われた、自分で考えて行動するというけれども、でも入試があるじゃないかとなります。自分で考えて行動して入試に通るのかとこういうことになります。

入試への取組や時代にマッチした教育をどうするか

入試改革、いろいろあります。大学入学共通テストになっていますけれども、もともとは国立大学志願者のためのミニマムレベルの評価をする、いわゆるセンター入試の前の1979年からあるわけであります。その歴史を引きずっていて、国公立大学向けと私立大学向けにかなり分かれています。

私立大学については高等学校で、私立文系は2教科、3教科だから、大体2年生のときに地歴公民を取った方が数学取るよりいいというようなことが起こっているわけです。

一体これを生徒はどうやって乗り越えていくのか。学校の先生はそういうふうにコントロールしていくのを、どう乗り越えていくのか。入試は、ある程度標準的な方法は必要だと思っています。

ではどうしたらいいのか。やっぱり理想と現実がある。学校教育にしても、ここに書いてありますこと、みんなそれぞれ理想と現実があります。私の分野であるDXの時代だといいますが、学習指導要領が数学とこれからのDXの時代ということと本当にマッチしているのかということがあります。

あるいは、国語と英語、学習指導要領の解説編。これをご存じの方はよくお分かりだと思いますけど、いろいろなことが書いてあるわけです。中には国語と英語のコミュニケーションを取ってほしいと書いてあります。でも国語科と英語科の先生はコミュニケーション取っているのでしょうか。私の聞いた限りでは、100%取っていません。

でも国語と英語はありますし、構造の共通点があるわけです。私も認知の問題とAIをやっているのでそっちから見ますと、心のメカニズム、現場の問題をしっかり考え直し、カリキュラムをつくっていかなきゃならないと思います。しかし、全くそのようにはなっていません。

教育の危機意識を持続しなかった

スライドの一番下の7に掲げた「主体性と危機意識」。これは今の両先生には100%以上おありになるので、ここで申し上げることではありませんが、一般にはまだなかなかという状況があります。

これも大学入試改善に向けた指針案というのを、初めて文科省が出したというので話題になりましたけれども、その中で、私大入試で課す科目が少ないとか、あるいは大学側でもう問題をつくれないから、過去問使ってもいいよとか、それを文科省が言っているわけです。

では入試って何なんだろうということになります。どうやって入試の構造をつくっていくのか。これは20年ぐらい前、既に入試というのをどうするかということは中教審でも議論があったのです。そこの時点で将来の入試をどうするかということを具体的に検討を始めるべきだったと思います。それがなされていなかったというのは、非常に大きな課題だったと思います。

それから、今日は中高ですけれども、高等学校の問題として一番根底にあるのは、高校への進学率が今98%ぐらいになっている。ほぼ義務教育に近いわけです。人口減少の中でこういうことが生じている。

消えてしまった高校卒業者

このスライドは、横軸は年次で、縦軸が18歳人口ですが、大体1966年頃の18歳人口、これは大体高校を卒業して就職した人たちの数なんです。それが2013年になると、あの小さい赤丸になる。

これはどういう違いかというと、大体100万人以上が高校を卒業して、昔は就職しているのが、それがいなくなったという現実です。大学入学者数は徐々に増えているわけです。それから、専門学校出てきている。こういう中でもって、結局高校を卒業した働く人が100万人消えちゃったということになります。

ということは、大学の方の教育をしっかりやって、日本がイノベーション立国を目指していくべきだったのです。国や大学は本当にそれをやってきたのか。大学の数は増えています。でも、大学教育の内容が、いろんな大学がありますけど、私から見ても本当に大学教育やっているのかと考えざるを得ません。

これは人口減少とも関係があって、18歳人口が減ると大学側は高校生の奪い合いになります。そうなると入試どころじゃない。とにかく来てくれないと経営が成り立たない。そういう大学で教育が成り立つのかという問題になります。

高校教育は諸問題点の交差点にある

問題点ばかり、声を張り上げて言ってもしようがないのですが、高校の問題というのは、結局ここへ行き着くのではないか。結局高校というのは、大学入試予備校になりつつある。高校はかなり多様なので、不登校とか様々な問題を抱えている高校もある。それから普通科高校だけじゃないのでいろんな設置形態がある。そういう多様な高等学校の教育をどのゆおにしてきちっと底上げをしていくのか。

工藤先生が言われたような世界の移り変わり、このような時代に本当に幸せにかつ自分の生活をちゃんと支えていくことができるスキルや知識、あるいは社会性、これを身に付けさせてあげるという問題になるわけです。

では、どうやって立て直しをしていけばいいのか。これは本当に大きな課題で、特に高等学校というのは、私には問題点の交差点に見えています。これは高校の先生が問題じゃなくて、今申し上げたのは構造的なものです。人口が減少していく中で、高校を卒業した働く人が10万人ちょっとしかいなくなってしまって、大学ばかり行くようになった。

じゃあ、大学で本当に教えているのかという問題になってきます。そんな中でさらに就活の問題がある。エントリーシートだけでどうだとか、大学はもうてんやわんやの大騒ぎです。そういう時代にあっても人口が減少しているから、就職率はいいのです。

できるだけ人気企業に行きたいというのがあり、結局出口にあたる社会の側がどうなるかということでも大学は変わるし、大学がどうなるかで高校が変わるということになります。そういう状況の中で高校教育を転換していくのにはどうしたらいいのか。やっぱり現実的には少しずつやらざるを得ない。

発達の過程をちゃんと重視したオープン化を図っていくべきです。高校生は、自我が本当にでき上がっていく非常に重要な時期にあります。私は多少心理学をやっているものですから、そっちで申し上げると、そういう時期にありましてその自我の芽生えということは、個性が育っていく時期になります。

そういう時期を大事にして、彼らを応援していかなければいけない。ところが入試のこととからいろんなことがあって、それがなかなか押さえつけられたまま大学へ行くことになる。大学へ行っていきなりアクティブラーニングがどうしたとか言われても、時すでに遅しとなります。

やはり高校時代にアクティブラーニングをちゃんとやって、それを大学で鍛えるということでしょう。知識を鍛えるということの方が大事だと思っています。

あとはここにあげた諸課題がいろいろありますが、時間の都合で詳細は割愛して課題だけをあげてみます。

今日参加したパネリストのお二方の先生が引っ張っていただいていますが、それがどう

広がっていくか。これは漆先生も工藤先生も大変ご尽力されておられるですが、いまこそ日本の勝負どころだと見ています。

私がときたま言われるのは、「あいつは大きな話だけしている。実際のカリキュラム、現場のことが全然分かっていないんじゃない」と言われているようですので、2022年8月に出した書物の中で詳しく書いています。

高等学校レベル、あるいは大学初年級、ここで本格的にカリキュラムを組んでいくとすれば、どういうカリキュラムがあるのかという話を書いております。

それも細かいことは書けないのですが、12の学びの基本項目というのを書いております。本の中にはこれ一つ一つ細かく書いていますが、こういうことを埋め込んでいくべきだと考えています。

歴史的見方やことばの力が重要

一方で、学習指導要領で教科、科目ありますので、そこへどうやってこれを埋め込めるのか。何かオムニバスの講義をつくって、外部から人が来てちょっとお話しをいただくというのではなく、教科科目の専任の先生がちゃんと教えていくような、学びのあり方に変えていくべきだと思っています。

例えば歴史の見方を学ぶ、あるいは世界の見方を学ぶことも重要です。

例えば仮説を立てるとか、いろんなことを高校でもやっておられますけれども、歴史的思考力について学術会議でも出していますが、このような学びのためのスキルをしっかり身に付けていくことが大事なんじゃないかと思います。

言葉の力という問題もあります。日本人の場合、世界で活躍してもらうには言葉の力が大事です。自分の言葉で人に語るということができることが大事であり、そのための教育をどうやってやるのか。

これを高校の先生に申し上げると、標準的なカリキュラムつくってくれと言われる。おっしゃる通りであり標準的な方法をきちっと作っていかないと簡単にはいきません。現場の先生方のためには大事なことだと思っております。

人の能力を発見し磨く教育をどうするか

私どもは教育の理念というのは、工藤先生おっしゃったことに通じるものですが、自分で考えて自分で行動する。私は福沢諭吉門下としては、「独立自尊」ということですけれども、人は誰でも多くの能力を秘めてこの世に出てきます。その能力をどうやって自分で発見し、自分で自律的に見つめていくか。この大事なことをどうやって応援していけるのかということに尽きると思います。

才能ある若い人たちを育むことによって、活力を持った人生を歩んでいくことが、社会を活性化していくことであり、日本の未来をつ作っていくことにつながっていきます。理想主義に聞こえるかもしれませんが、教育の目的というのは、何のために教えるのかということをしっかり持っていなければならない。それは教育者によって違うかもしれませんが、これは私が思うことを申し上げました。

本日のシンポジウムに参加している皆さんと一緒になって、これからの時代の学びの場をつくり、それが日本の未来を作っていくという共通認識をもっていきたいと思っております。

冒頭安西先生プレゼンテーションPDFのDLはこちらからできます

この後パネルディスカッションに続きます